第1章 15 「……それ、嘘だよね?」

「――って話です」

 灯夜が一通り話を終える。あるてといる時のような明るい間延びした喋り方ではなく、今現在の灯夜の口調であるように捏造をしながら。

「訊けませんでしたとも、ええ。だって、あの時流してたあるてさんの涙は本物に見えましたから」

「……そっか。話してくれて有難う」

「しかし、うーん……」

 灯夜が道瑠を色んな角度からじろじろまじまじと見回す。

「な、何?」

 これには流石に道瑠がたじろぐ。

「外見――顔も綺麗で良いとは思いますが……。あるてさんは貴方の何処がそんなに良いんでしょうかねえ……」

「平木さんもなかなか容赦無いね……」

「ええ。貴方に捧げる慈悲はこれっぽっちもありませんから」

「あっ、うん……」

 ここで会話が途切れてしまう。人気ひとけの無いこの公園に吹く風の音、植樹の葉のざわめきだけが聞こえてくる。

「もう1つ、お話しないといけません」

 先に口を開いたのは灯夜だった。

「何だろう?」

「私はあるてさんのことを想っております。泣いてしまったあるてさんにまたがって、密着して、私は胸を貸しました。身長差はさておき胸を貸すことはあっても、そのために跨る人はそうそういません。でも、私はしました」

「……うん」

 灯夜は胸に手を当てて、真剣な顔付き――まっすぐな目を道瑠に向ける。


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「あるてさんのことが、躊躇無くそんなこと出来るくらいに好きです、大好きです。それだけにぽっと出の貴方に奪われるんじゃないかと考えると、堪らなく嫌だったのです。それを貴方にも知らしめたかった」


 灯夜の告白を聞き、道瑠はどう返答しようか考える。

「それは……性別の垣根を越えて、あるてさんと付き合いたい。そう言う意味で良いのかな?」

「はい、そうです」

 そうして思い付いた返答に、灯夜は迷い無く答える。

「……それ、嘘だよね?」

「あの、貴方も大概容赦ありませんよ? 貴方に何がわかると言うんですか」

「一昨日僕の前に現れて、今もこうして僕と話をしているから」

「もう少し詳しくお願いします」

「本当にあるてさんが欲しいのなら、障害となりる僕の前に現れずあるてさんを追った方がずっと好都合だと思うんだ。そこで僕とあるてさんの関係を断絶させるように動けば尚更ね」

「………………」

 灯夜は一切の感情を表に出さず、道瑠の話の続きを待つ。

「だから本当は平木さんは、僕とあるてさんのために動いてるって考えてる。仲直りさせるためにね」

「……なるほど、それが答えですか。随分と都合の良い内容でちょっと残念です。うーん、そうですね……1.5箇所間違ってますね」

「ん? 1.5?」

 1なら兎も角その0.5が何なのか、道瑠は気になった。

「はい。まず1つは2人を仲直りさせるため、まして貴方のためなんかに動いちゃいません。あるてさんの悲しむ顔は見たくないから――これが全てです」

「……残りは?」

「後の0.5は、私があるてさんのことが大好きって気持ちは本物で、嘘なんかじゃないってことです。そこまで嘘と仰るのでしたら、その綺麗な顔面を笑顔で殴ってみせますよ」

「………………」

「……まあ、好きですけど。しかし私はそっちの趣味は持ち合わせておりませんので、恋愛感情とかではなく人として、親友として大好きって意味です。あるてさんと付き合いたいって嘘を見破ったのはお見事ですが、半分本当、半分違って0.5です」

「あの、それで――」

 道瑠が何かを言おうとしたが、

「試すような真似をしてしまった点、お詫び申し上げます。申し訳ございませんでした」

 灯夜が言葉を重ね、丁寧に頭を下げる。

「えーっと、取り敢えず顔を上げてもらっていいかな?」

 そして道瑠の言葉に対して無言だが、応ずるように灯夜は頭を上げて戻した。

「僕のことはいいんだ。それよりも、僕のせいとは言えあるてさんをどうにかしないと――きっとまだ、心の傷癒えてないよね」

「……あの、道瑠さん」

「はっ、はい!?」

 今までずっと道瑠を『貴方』と呼んでいた灯夜が唐突に名前で呼んだため、道瑠が改まって驚く。

「何をそんなに驚いて……まあいいです。道瑠さんはあるてさんと…………どうしたいですか?」

 こう訊ねる灯夜は、さっきまでの灯夜と比べると棘がいくつか取れたようで――しかし道瑠が気を抜くことは無い。オープンクエスチョンにしてはオープン過ぎる内容の質問だが、道瑠は迷うことなく答えた。

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