第1章 09 「僕を……演じる?」

「外見を変えたら君はいくらでも人格を偽れるでしょ? 本当にあの子のことが気になるなら……わかるよね?」

「素の僕を受け入れてもらわなきゃいけないってことだね?」

「正解。道瑠くんのやってる趣味って、噛み砕くとウィッグ被って簡単なメイクをしてそれっぽい服を着てるよね。それって何れも、本当の自分を偽ってる――あ、否定してるわけじゃないよん? ただ、そう言うコトだよね」

「まあ。けど……特殊メイクアーティスト目指してる兄さんが言うと説得力無いな」

「ごもっとも。でも僕のソレは然るべき状況で偽らせるためのモノだからね?」

「それはまあ……」

「よーし、じゃあ言い方を変えよう。君はあるてさんの前で『志道道瑠』と言う役を演じるんだ」

「僕を……演じる?」

 御影のその言葉は、道瑠の脳内の辞書には存在しない言葉だった。

「そ。……って言われても、すぐ出来ないでしょ? おやおや、オールマイティに役をこなす道瑠くんは何処だろうね」

 御影はそれを知っている上で煽るような言い方をするが、

「そうなんだよ。道瑠くんは無いんだよ、『自分自身』と言うモノが。実の兄が言うんだ。信じて欲しい」

「………………」

 そこから真面目な口調に切り替わり、道瑠を諭す。しかし道瑠は何も言い返すことが出来ない。

「まあまあ、そんな難しい顔しないで。同じ役でも何回もやってく内に、そのキャラについて色々掴んでくでしょ? それと同じだし、公演も人生もぶっつけ本番。やってみよー!」

「……うん」

 御影に上手いこと乗せられているような気がした道瑠だが、言ってることは納得出来るものだった。

「あっ!」

「な、何!?」

 そこで唐突に何か思い付いたように、御影が声を出す。

「時速さんの配信抜ける直前、しじみんを呼んでくるって言ってたんだった」

「ちょっと、何勝手なことしてんの! ってか結構待たせてない!?」

 しじみんとは道瑠のことで、ネット上のハンドルネームだ。

「やー失敬失敬。さあ、景気付けにマネキルでもしよっか。しじみんも大概強いんだからさ」

「仕方ないな……」

 道瑠は御影によって、半強制的に時速150kmたちとMANE DE KILLで遊んで夜を過ごした。



 ――そして2日後。あるてと道瑠が再び会う、約束の日が訪れた。

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