2 エルフ


「うう……」


 白銀鎧の男は生きていた。 毒矢は彼の腕を掠った程度。このまま生き延びるか野たれ死ぬかの確率は五分と五分といったところか。そして、私は男の顔に見覚えがあった。こやつはヘスパニョラ王国騎士団の団長、レイ・ブランカだ。いかに森から出ずに暮らしてきた私でも知っている程の有名人じゃないか。そんな身分の者に傷を負わせ、あまつさえ死に至らしめれば、とんだ大罪を負うことになろう。が、それはあくまで只人の作ったルールの中で暮らす者たちの場合。如何なる国の統治下にもないこの森で暮らす私には関係無い事だ。


「何だ、この剣は……刃体に魔力が流れているのか?」


 私はウノなる男が振り回していた大剣を手に取る。 深紅の刃体、その根元に古代文字が刻まれているではないか。


「ヌル……アハト………?」


 私の生業 (クラス)は射士(シューター)であり、専ら長弓を専門に70年を生きてきた。刀剣の類などに魅力を感じた事など一度たりとも無かったはず。しかし、今の私はこの剣が放つ妖しい 輝きに魅せられ……


「こんなもの!!」


 そうになり、手に取った剣を放り投げた。


「ムー!?」


「驚かせてすまない。この剣は何かがおかしい。きっと、この二人もこの剣が原因で争っていたのだろう」


 私は周囲を見渡した。すると何という事だろう、 ウノとレイの周囲には種族もバラバラの死体が7体も転がっているではないか。内6体はレイと同じ白銀の鎧を着たまま胴体を縦に横に斜めに切断されていた。


「鎧の者達は騎士団か。あのウノという男、これを一人で………?」


 先ほど射殺いころしたウノの亡骸を見やる。 私も人のことを言えた身ではないが、こんな細い四肢をした矮躯の男が大剣を振り回し、手練れの騎士を一人で6人も惨殺した……やはり剣の方に秘密があると考えるのが妥当か。


「ムーン!」


  トポが死体のうち一つを指さし私に呼びかけたので、その指示する方を辿る。


「これは……」


 その死体は女のものだった。私と同じく長い金髪に尖った耳。エルフだ。しかし、肢体は牝牛の様にだらしなく肥えているのが大きな違いだった。


「シティエルフか」


 大昔に我ら純エルフから分化し、肉と娯楽の味を覚えた同胞は、その脂肪を蓄えた胸の間を銃弾で撃ち抜かれ絶命していた。


「撃ったのは、あの鎧を着た爬人 (ドラグナー)だな」


 長銃を持ったまま転がった騎士の亡骸を見やる。このエルフの女はウノの仲間で、彼と騎士団の争いに巻き込まれた末にこうなったのだろう事が伺える。


「この娘が何者かは知らんが、このまま亡骸を放置して同胞の不死者 (アンデッド)になられては気分が悪い。 トポよ、弔うのを手伝っておくれ」


「ムームムー!」


 私はこの、名も素性も知らぬ娘をエルフに伝わる送り方で弔う事とした。

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