7 ドロシー・ルース

─アグアイヨの森


 マドランドから北西へ数百里、隣国ニューリンゲンとの境にあるのがアグアイヨの森。人の手も入っておらず、陽の光も届かぬほど暗く、モンスター達の巣となっており、『真宵の森』とも呼ばれている。騎士殺しの大罪人となった俺は、ヘスパニョラ王国領から逃れ、 ニューリンゲンへの入国を試みた。 関所を通ろうものなら即刻お縄なので、残された道はこの森を進むしかない。


「いつの間にか、陽が落ちちゃいましたね。さすがに夜は森の中を進むのはやめましょう」


  と、ドスは枯れ木を火炎の術で燃やし、火を起こしながら言う。 騎士達から逃げ、 森の中をひたすら歩き、気が付けば夜だった。エルフ族には『森人の加護』 という力が生まれつ き備わっている為、迷うことは無いのだとか。 シティエルフは大昔に森に住む純粋なエルフと分派したとはいえ、ドスにもその力は備わっていた。


「なぁドス、 何でお前は俺を逃がそうと思ったんだ……?」


 トレスの工房でクァトロを殺した時点で俺は裁かれる身となった。その時に俺が騎士達に捕まるなり殺されるなりしても、手を出さなければドスはお咎め無しだっただろう。今の彼女は罪人の逃亡を幇助した共犯者だ。


「ウノさん、私はまだ報酬の残りを貰ってませんよ?だから、まだ私はあなたの相棒です!」


 と、胸を張るドス。 何だそりゃ。 お前は3万ペロリのはした金の為にお尋ね者になったってのか?

 ドスは、突然俺を抱きしめた。 柔らかな感触が、俺の顔を包み込む。


「 ウノさん、私はもっとウノさんと冒険したいって言ったの、覚えてます?」


 顔の大部分をドスの胸で塞がれている俺は声が出せないので、首を縦に振る。


「あのまま、マドランドでウノさん以外の冒険者の手伝いをしながら暮らしてたって、きっとつまらない毎日が続いてたと思います。エルフの人生は長いんですよ?独りのつまらなくて長い人生より、二人の刺激的な短いかもしれない人生を私は選んだだけです」


 ドスは、腕を解いて俺を自由にした。


「ドス、俺の……残りの人生の相棒になってくれ。 それはお前じゃなきゃダメなんだ!!」


 昨日、言えなかった言葉を俺はドスにぶつけていた。 好きだとか、愛しているだとか、そんな言葉への照れが見えるダサい言葉だが、俺に出来る最高の表現はこれが精一杯なんだ。


「よく出来ました」


 と、ドスは子供に対してする様に俺の頭を撫でながら、小さくて柔らかい唇を俺のそこに重ねる。 そういえば、こいつは俺よりずっと大人だったんだっけ。


「……先に、天幕を張りましょう?虫に刺されちゃいますから…」


 俺とドスは、野営の準備を始めた……

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