第11話 F3坑道

 入り口前のブースで一悶着あったが、ボクたちは三人でF3坑道に入ることができた。

 ボクがハンター、メイドのミキがポーター、それと臨時のポーターの女の子ククリの三人だ。


 F3坑道は初心者用の坑道で、中に居るのはアングラウサギだ。魔獣であるので凶暴であるが、それほど危険ではない。


「あたしが案内してあげるわ。剣を構えて付いてきなさい」

「助かるよ」


 ククリの案内で所々明かりが設置されている薄暗い坑道を奥に進んでいく。途中いくつも分かれ道があったが、ククリは迷うことはなかった。


「ククリは坑道の地図が頭に入っているのか?」

「大体ね。常に拡張されているから全てではないわ。ほら、ここから先は今回拡張された部分よ」


「ということは、ここから先にアングラウサギがいるのか?」

「そうとも限らないわ。朝一なら魔鉱石を食べに来ている可能性が高いけど、今の時間じゃ他のハンターが狩っちゃってると思うわ」


「そうなのか、やはり朝一で来ないとダメか」

 アリサに重役出勤だとバカにされるわけである。


「普通はね。でも大丈夫よ。あたしがついているから」

 そう言って、ククリは今回拡張されたのとは違う坑道を進んでいく。


「アングラウサギが隠れるのに丁度いい穴を知ってるのよ。ただ、穴が小さいから私みたいに体が小さくないと入れないけど」


「ボクでも入れない?」

「少し厳しいかな」


「それだと、どうやって狩るんだ」

「サービスで私が追い出してきてあげるわよ」


「危なくないのか?」

「大丈夫、慣れたものよ」


「そうなのか、それならお願いするよ」

 それから少し歩いて、ククリが言っていた穴の所にたどり着いた。


「ここよ。それじゃあ、ここで少し待っててね」

 ククリは四つ這いになって穴に入って行く。

 少し待つと穴の中からククリの声がする。


「こら、痛い! 出て行くから突かないで」

 中で何をやっているのだろうか? 追い出すと言っていたが、追い出されているような……。


 穴を覗き込もうとしたら、ククリが凄い勢いで這い出てきた。


「大きいのが来るわよ!」


 次の瞬間、ククリを追い立てるように体長五十センチはありそうなアングラウサギが出てきた。

 ボクは咄嗟にそれに剣を突き立てた。


 剣はズブリとアングラウサギの首元に突き刺さり、何度か逃れようと暴れ回ったが、やがて力尽きて絶命した。


「あの大きさを一撃で仕留めるとはたいした腕前ね」

「そうかな」

 咄嗟のことだったので自分ではよくわからない。


「それより、ククリは大丈夫だった?」

「あたし? あたしは少しお尻を痛くしただけだから大丈夫よ」


「お尻を怪我したのか! どれ、見せてみろ」

「キャァー! 変態!!」


 パッチン!


 心配しただけなのに変態呼ばわりされて、おまけに平手打ちをされてしまった。


「子供のお尻を触ろうとするなんて、やっぱりロリコンなのね!」

「いや、子供じゃなくて、二十五歳の大人でしょ?」


「大人だとしても、それはそれで問題よ!」

「スケベ心じゃなく、本当に心配しただけなんだけど」


「本当に心配しただけ?」

「誓って。だいたい、子供のお尻を触っても面白くないだろう」


「そう言われるのは頭にくるわ」

「ではどうしろと?」

「マレック様、これを」

 ククリとの応酬の最中にミキが薬ビンを渡してきた。


「ミキ、これは?」

「湿布薬です。マレック様がククリさんのお尻に塗ってあげてください」


「なんでボクが!」

「ククリさんのお尻が心配なのですよね?」


「心配だが……」

「自分で塗るからちょうだい」

 ククリが手を出したので、ボクはククリに薬ビンを手渡した。


「向こうで塗ってくるから、覗かないでよね」

「もちろん、覗かないよ」


 ククリは坑道の曲がった先に走って行った。


「マレック様が塗って差し上げればよろしかったでしょうに」

「そんなわけにはいかないだろ」


「そうですか。私でしたら喜んで塗ってもらいますが」

「そ、それは……」

 ミキのお尻なら塗りごたえがあるだろう。


「なに、赤い顔してるのよ!」

「えっ。別に赤くなんかないだろう」

 いつの間にかククリが戻ってきていたようだ。


「それじゃあ次に行くわよ」

「次に行くのはいいけど、今の方法は危険だから止めよう」


「今回はちょっと失敗しちゃったけど、私なら大丈夫よ」

「いや、でも心配だし、それに、少し気になったことがあるんだ」


「気になったこと?」

「いや、詳しくは話せないんだけど、アングラウサギの居場所がわかったかも」


 実はさっき、アングラウサギが出てくる時にマナの動きが感じられた。

 魔力の塊である魔石を体内に持つ魔獣ならば、マナを多く体内に持っていてもおかしくない。

 そう考えて、マナの動きに集中すると、いくつか同じようなマナの動きを感じることができた。

 多分、これらはアングラウサギだろう。


「そんなことわかるの?」

「ものは試しさ。向こうだから行ってみよう」


 ククリは疑わしそうな顔でボクに付いてくる。

 ミキはボクが魔法を使えることを知っているから、興味深そうにこちらを見ている。


 そして、いくつか坑道を曲がった先に、いましたアングラウサギ。


「本当にいたわね」

「言ったとおりだろう」

「マレック様、こちらに気付いて逃げますよ!」


「おっと、逃さないよ!」

 ボクは身体強化魔法をかけて飛び出した。


 そして、数歩でアングラウサギに追い付くと剣を一振りし、その首をはねた。


「凄いい! マレックは剣の達人なの?!」

 ククリが感心しているが、自分でもビックリだ。ミキも驚いている様子だ。


 実は、以前の身体強化魔法はここまでの効果がなかった。

 アリサに瞑想の仕方を教えてもらったせいだろうか? マナを詳細に感じることができるようになったことが身体強化魔法の強化にも繋がっているのだろう。アリサには感謝しなければいけないな。


 その後もボクたちは、サクサク制限一杯の六トウのアングラウサギを狩って、早々に入口に戻ることになった。


 ところで、ククリが前を歩いている間ずっとお尻をもじもじさせていたが、アングラウサギに突かれた所がまだ痛いのだろうか?

 やっぱり、薬を塗ってあげるべきだったかな……。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る