第8話 ロクサスの槍


 こうして、マーリンが身体の中に入ったのでロクサスは自分の身体に意識を集中させてみた。


「……確かに、俺の身体の中にマーリン様がいますね」


〈そうじゃろう? 憑依には二種類ある。お主が英雄の能力を借りる普通の"憑依ひょうい"と、お主の身体を貸し与える"完全憑依"じゃ)


「身体を貸し与えるってことは……意識を乗っ取られるってことですか!?」


〈お主が主人じゃから身体はいつでも取り返すことができる、安心せい〉


「こ、怖いので完全憑依は無しで……」


 ロクサスがしり込みしていると、ロクサスの中のマーリンが駄々をこねる。


〈え~! 完全憑依してよ~! ロクサス君の~! 男らしいとこ見てみたい!〉


「はぁ……分かりました」


 はやし立てられると、ロクサスはマーリンを完全憑依した。

 決して、『男らしい』という言葉にノせられたわけではない。


 ロクサスの精神がマーリンと入れ替わると、身体の支配権はマーリンに移った。


 マーリンはロクサスの身体でピョンピョンと跳ねて喜ぶ。


「すご~い! また、生きて呼吸できるなんて思ってもなかったよ! まぁ、霧だらけで景色は最悪だけど」


「ロ、ロクサス様!? もしかして、たたられてしまったのですか!?」


〈悪霊じゃない、英霊じゃ〉


 ヒミコがぼそっとミーナにツッコミを入れるが、もちろん聞こえるはずもない。


「さて、じゃあ早速――」


 身体を借りているマーリンは舌なめずりをすると、ロクサスのズボンに手を突っ込んだ。


『解除っ! 憑依解除ぉぉっ!』


 ロクサスは大慌てで身体の支配権を取り返した。

 そして、叫ぶ。


「な、何やってるんですかぁ!? いきなり僕のズボンに手を突っ込んで!」


〈いやー、せっかくショタ――男の子の身体になれたんだし? やっぱり気になるよね~。槍を振るえるようになりたいって言ってたし、どんな可愛い槍なのか気になっちゃって~〉


「あんた、最低だなっ!?」


 ロクサスは顔を真っ赤にして大きくため息を吐いた。


(見た目は似てるけどミーナとは大違いだ、ミーナは凄く清楚で卑猥なことなんて考えないのに、ご先祖様はこんなだったのか……)


 ヒミコは少し残念そうにロクサスに告げる。


〈今ので分かったじゃろ? 支配権はいつでも取り戻せる、恐れることはない〉


「いや、めちゃくちゃ恐ろしかったんですけどっ!?」


〈悪かったって! 今度は変なことしないから! もう一度チャンスを頂戴! まだ、全然身体を動かせてなかったから!〉


「ダメです! 僕の身体はおもちゃじゃないんですから……」


〈お願い! また身体を貸してくれたら、ロクサス君ってすっごく男らしいと思うな!〉


「全く、そんな言葉で僕が喜んで貸すとでも思っているんですか? ……今回だけですよ?」


 ロクサスは吊り上がりそうになる頬を何とか耐えながらもう一度自分の身体をマーリンに貸し与える。


〈我が子孫ながらチョロいな〉


 ヒミコの呟きもロクサスには届いていなかった。


「憑依完了! ミーナちゃん! またロクサス君の身体を借りたよ~!」


「わ、私には一体何が起こっているのか……ロクサス様、お身体は平気ですか?」


 ミーナが心配してロクサスに近づくと、マーリンはミーナをギュッと抱きしめた。


「……へ?」


 ミーナは状況が呑み込めず、固まる。


「ミーナちゃん、可愛い! 私がご先祖だよ~! やっと抱きしめられた! やっぱり私に似て胸も大きいね!」


『解除ぉぉぉ!!』


 ロクサスは大急ぎで身体を奪い返した。

 ミーナは腕の中でぐったりとしている。


「ミーナ! しっかりしろ! 何か酷い事されたのか!?」


「ロ……ロクサス様が抱きしめて……私、幸せですぅ……い、生きてて良かったぁ……」


 うわごとのように聞き取れないほどの小声で呟くミーナは鼻血を出して、幸せそうな表情で気絶していた。

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