第8話 陰キャとダンジョン

 城から坂を下って、円形状に広がる王都リシュタールの西端にあったダンジョン入り口。


 到着してびっくりしたのが、引率の父や母に連れられて剣や杖を持った10歳前後の少年少女たちのアトラクション施設のような様相を呈している。


 決起溢れる少年たちはやる気を漲らせ、意気揚々とダンジョンへ入っていく。


 すごいな、俺なんてこんなに緊張してがちがちなのに、なんだかデパートの屋上遊園地で一人だけ大人が並んでいる違和感に近い。


 ラナが簡単な手続きをすると、彼女から離れないように早足でついていく。


 1階層は上層部の路面と同じような魔法加工されたレンガによって構成された、比較的手狭な印象を受ける構造だった。


 剣を振り回すことはできるが、圧迫感は否めないと思っているとさっそくモゲランというモグラ型魔物が俺たちの前に現れた。


 知性は低いようで発光する外壁がその全貌を照らしてくれている


「じゃあカゲミツ様、私は見ているので」


 えへへと照れ笑いをしているが、見てるってラナさんも戦ってくれるんじゃないの?


「もげもげ~!」


 手に小さな木の棒を持って襲い掛かってくるモゲラン。ダンジョンモンスターだけあって倒されても一定周期で湧いてくるため気にせず倒せばいいのだが……


「わっ!」と避けながら生成しておいたシャドウニードルをモゲランにぶん投げた。 投擲スキルを1にしておいたので肩に当たって転んでしまう。


「シャドウマスク!」


 そう、影形術で作り出したシャドウニードルからシャドウマスクへと変化し、目のあたりを塞さぐことに成功した。これで派生連携ができるようになったな。


 もげもげ~!


 突然の暗闇にモグラが混乱している様はやや不思議な光景だが、今がチャンス!


 暴れるモゲランの後頭部から脳幹部へかけてぐさりと短剣を刺しこんだ。一瞬だけびくっと動いたモゲランはそれで動かなくなり数秒後、ポンっと親指の先ほどの石に姿を変えるのだった。


「ああ、魔石が出ましたね。これはラッキーです。モゲランのものでも売ると良い値になります!」


 へぇそういうものなのか……ん!?


 < レベルアップを確認しました。 スキル 経験補正によりLvが5へ上昇。スキルポイントを取得 >


 聖騎士3人を戦闘不能で3上がってモゲラン一匹で4から5へ上がるとなると、最下級モンスターを乱獲することが最適解か?


 ゲームにおいても効率厨ではないが、やはりシステム上利用できる傾向はおさえておきたいね。


 影形術をLv2にしてみると生成範囲が広がったのが実感できる――いいねこれは。


 次に現れたトゲマール2匹にシャドウニードルで牽制すると、空中でシャドウマスクへと変化させ、二匹同時を行動不能にできた。


 トゲトゲしている間へ慎重に短剣を突き刺すと、パンと割れて二匹を10秒程度で倒すことに成功する。


「カゲミツ様の戦闘方法って変わってますね! 一瞬せこっ! って思ったけどきっと私には分からない壮大な実験なんですね!」


 いえ本当にせこくてみみっちい戦いの連続です……


「あれ? 私までレベル上がったみたいです、やった!レベル28だ!」


 もしかしたらパーティー効果があるのかもしれない。まあラナには世話になってるからこれぐらいの恩恵あってもいいか。


 まあ陰キャには十分伝わっていると思うけど、こういうルーチン作業でこつこつとレベル上げをするって作業――嫌いじゃない。


 むしろ戦えば戦うほどに強くなり毎回魔石が稼げる状況に、わくわくと期待感が止まらなかった。


 この世界に来て楽しいと思える作業。


 10分もいれば慣れて帰りたくなるダンジョンと呼ばれてはいるが、かれこれ2時間以上ひたすらに狩り続けた。


 そんなこんなでレベルも――


「え? カゲミツ様? こっちに来たときはLv1だったのにもう14? 成長早すぎです! やっぱりカゲミツ様って特別なんですね、かっこいいなぁ!」


 といいつつも、腕がなまっては困るとこのダンジョン最大の強敵レッサーゴブリン3匹を一瞬で切り倒したラナの剣技、とんでもない実力者じゃないかと思える。


 アホ顔でにま~としているが、あの身体能力といいやはり騎士はすごいものだ。


 だが俺が二日に渡りちびっこダンジョンでドヤ顔している間、光の勇者神殿では想像もし得ない重大な事態が起きていようとは思いもしなかった。




 ◇◇


「はははは! あんな黒髪クソ雑魚なめくじ使徒もどきを相手にしている間は吐き気でおかしくなるかと思ったが、ようは奴が偽物であると証明、いやこじつけられればいいのだな」


「はっ既に該当案件の選定は終了しております、こちらでいかがでしょうか?」


 女性秘書官の差し出した書類を一瞥したでっぷり超えた司教の顔が醜く歪む。


「ははは! こいつはいい! たとえ本物であったとしてもまず無理だろうからな! 女神神殿の奴等の横やりだけでも腹が立つのに、あんな根暗なめくじ黒髪を送りこむとはまったくやってられん!!」


 神殿奥に造られた豪華絢爛な部屋で美女をはべらし酒を飲むこの豚司教は、太く水死体のような指にはめた指輪を眺めつつ計画書が書かれた紙を燭台で燃やしていく。


「くくくく……見ておれ忌々しい黒髪の小僧め。決して我らの秘密を知られてなるものか」

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