第6話 陰キャ、宴へ行く


 実は……聖騎士たちを半殺しにしてしまったことへの恐怖と罪悪感がぬぐえず、いまだ体の震えがとまらないのだ。

 ラナにもきっとばれているし、幻滅されてバカにされても仕方がない。


 だって、人を傷つけることに慣れてるほうがおかしいと思う。


「カゲミツ様……もしかして震えていますか?」


「え?……」ばれていた!? でも仕方がない、もう隠すことなんてできそうにない。


「大丈夫ですよ、カゲミツ様は私が守りますから」

 ふと後ろに回ったラナは、背後から優しく抱き締めてくれる。なんていい匂いがするんだろう、女の子とこんなに触れ合ったのなんて初めてだ。


 ぎゅ~……ぎゅぎゅっぎゅ……く、苦しい。力入れすぎだ――バカ力すぎだろ……ぐげえぇ!!


 腕を必死にタップするが、気づいてもらえない!!


 い、意識……



 ・

 ・

 ・


「あ、カゲミツ様、目が覚めたんですね。あんな戦闘の後なのに眠れるなんて度胸の据わり方凄すぎです! 憧れちゃうなぁ」

 恐らくこの娘は本心からこの言葉を発している。


 だから言えなかった、君に締め落とされて気絶し死にかけていたとは。


 首回りにはっきりと絞められた痣が残っており、すっかり日が暮れ夜になった窓に映った自分の姿にぞっとしたものだ。



 < 気絶による特殊体験により、お漏らし耐性が+1されました > 余計なお世話だ!



 首をさすりながら、ラナから不自然なほどに距離を取る俺に、首をかしげて犬のように寄ってくる彼女が怖い。



「あっそういえば、カゲミツ様の疑いが晴れたので宴に出席するようにって言われてたんだった。今から行きましょうね」


「え!? うたげ? ……? ええ??」


 また強引にラナに手を引かれて連れていかれたのは、城の一階にある広々とした各種料理が並ぶ会場に、ドレスを着飾った貴婦人や貴族たちがそろい、俺を奇異の……いやみすぼらしいゴミを見る目をぶつけてきた。


 やばい……もう心が砕けそうだ。


 いたくない、こんな陽キャの祭典みたいな場所。


「団長~ カゲミツ様をお連れしました!」


 あの時見かけた騎士団長……結構ダンディーでかっこいいおっさんが貴族服のような正装で現れた。


「カゲミツ殿、さきほどは勇者神殿の指示とはいえ失礼な試合になり申し訳なかった。貴殿の強さには皆驚き感服しているよ」


 握手を求められつい、反応して出してしまったが鍛錬に裏打ちされたたくましく力強い手だった。


「い、いえ……」


「寡黙なのもよい。近頃の騎士はラナを含めて話すぎで語りたがりで困る。大体最近の若いもんはなぁ……おっと俺がそうなりそうだった」


「ははは……」


 緊張する俺を和ませようと気を使ってくれるのはうれしいし、きっとこの人は見た目や上辺じゃなく実力で物事を判断する好感の持てる人物なのだろう。しかもコミュ力たけえ……


 でも住む世界が違うので、会話するだけでMPが半分ぐらいなくなるほどに精神を消耗しているのが分かる。


「してカゲミツ殿がトイレで戦った理由だが……狭い場所で一対一に持ち込むため、数で劣るのであればせめて地の利を得ようとしたあの戦巧緻ぶりには度肝を抜かれましたぞ!」


「いえ……それほどのことじゃ」


「何を言うか、人数差に丸腰という不利な条件がありながら過信せず戦いにあくまで謙虚に対し、死と隣り合わせにあることを身をもって教えてくださったのだ。お前たち! カゲミツ殿の一挙手一投足を見て学ぶがよい!」


『『はは!』』


 参列していた部下たちが一斉に頭を下げている……


 なんだこれは嫌がらせなのか……


「やめて……」


「ははは! 気にいったぞカゲミツ殿、お前たち今日は無礼講だ酒を楽しめ」

 ようやく解散になった騎士たちが数名握手を求めてきたが……残りは警戒するような視線を送っている。まあ当然なんですが。


「あの……聖騎士たちは……無事、なんですか?」


「おお、あの者たちを心配されるとはなんと懐の大きい方だ。安心めされい、治癒呪文であらかた回復しているが、骨折は一週間ほどかかるのでしばらくは動き回れぬだろう」


「よ、よかった……」

「カゲミツ殿、敵に情けをかけすぎると死ぬことになるぞ。だがそなたの示した度量は、長く王国と勇者教団に語り継がれることであろう」


 そ、そういう意味じゃなくて人殺しの重荷を背負わなくて済んだってことなんだけど……


「か、カゲミツ様……私の想像していたよりずっとすごい方だったんですね! ラナ感激です!」

 目をうるうるさせながら、俺を仏像でも見るようにありがたそうな目で見つめてきた。


 ラナを適当にあしらおうとしたが、その時全身を駆け抜ける重くドロドロとした重圧の存在に気付いてしまった。


 俺を見つめる貴族の連中が投げつける、侮蔑と嘲笑の表情。


 聞こえてくる笑い声が全て俺をけなしバカにするための、せせら笑いにしか聞こえない。


 体が重く沈み込み、胸の奥に鉛を押し込められたような感覚が心を押しつぶしていく。


 ああもう、耐えられない! 何なのこの期待と慇懃な雰囲気! そして上っ面と正反対の毒々しい感情が駄々洩れの状況、もう嫌、逃げ出そう!

 

 しかも誤解でこんな……でも腹が減ったからタッパーに詰めてもらって……そう、そうだ……


 給仕係の話やすそうなおじさんに、小さなタッパーサイズの箱に適当に詰めてもらうと。ナプキンをかけてからささっと会場から抜け出すことに成功した。


 < スキル 影同化Lv2 発動、 パッシブスキル認識阻害Lv2 発動 >


 なんかまた変なスキルが増えてる!?


 でもいいや、早くあの尋問室へ逃げ込んでゆっくり隠れよう。

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