第3話 陰キャvs聖騎士×3

 コンコンッ

 快活な音色を上げて響くドアのノック音が、俺の脳髄に情操的な刺激として届く。


 明らかに前向きな意志を感じる力強くもリズム感に溢れるノックだった。


「失礼しまーす! 勇者様の使徒カゲミツさまの世話役を任じられた勇者騎士団所属のラナと申します!」


 耳に心地の良い元気ハツラツでかわいらしい声だった。


 そのラナは部屋の箪笥とサイドボードの隙間で体育座りをしている俺を見て、え? という表情でその美しい面立ちを曇らせた。


 そうだよね、こういう所を見てドン引きしてみんな去っていくって分かってる。


 けどこんな訳の分からない場所で、心を落ちつかせるにはこうするしかなかった。

 だって狭い場所って落ち着くんだもん。


「あの……それが使徒の儀式なんですね! わ、私もやっていいですか!?」


 ラナと名乗った女騎士、といっても歳は同じぐらいだろう。


 輝くような金髪がふんわりと背中へ流れるセミロング、横髪の束をリボンで結んでいるので年相応にはおしゃれへの関心があるように見える。

 何よりその輝く笑顔が映える、青い瞳でとびきりの美少女だった。


 背は俺より若干低いぐらいで、身に着けたハードレザーの金属補強している装飾は加工が素晴らしい。この子のはつらつとした笑顔に似合う白とナイトブルーを基調にしたデザインは見事に映えている。

 ブリーツスカートからのぞく太ももは反則的に色っぽい。


 ラナは大きい胸を揺らしながら俺の隣へちょこんと座った。


「これが勇者様の使徒であるカゲミツ様の瞑想方法なんですね!」


「そんなわけでないでしょ……」そもそも勇者って何なの?


「ん? あれ? じゃあ一体何をしていたんですかってまあいいや、これからカゲミツ様の実力を調べるんで騎士訓練場に来てくださいとのことです」


「嫌です」


「はい、行きましょう……て、え? 嫌です?」


 ぼそっと言い捨てた言葉をちゃんと拾ってはいるが、きっとすぐに呆れて出ていくだろう。


「嫌? またまたカゲミツ様が嫌がるのはきっと……そうか! 相手をする聖騎士たちを気遣ってのことなんですね?! そうだ、そうだったのか!! さすがですカゲミツ様!!」


 人の話を聞かないだけじゃなく曲解してトラブルに巻き込んでいくタイプの女だ!


 俺の本能が警戒を発している。


 しかも相手をする聖騎士って何!?


「でも聖騎士相手にそこまでの自信があるなんて、やっぱりカゲミツ様ってすごいんですね!」


 尊敬のまなざしが滲む光輝く笑顔がまぶしい……


 くぅ……あまりの光量に眩さに胸が苦しい……そ、そんな目でみないで……期待するような言動で陰キャの心を踏みにじらないで!


 俺に対し無関心でいてくれたらそれでいいのに!


 まともに話せるわけないだろ、こんなかわいい子、陽キャというより、光の側の住人……


 住む世界が違うこのかわいすぎる騎士は、俺の手首を掴み春風のような笑みを見せると手に力を込め始める。


「じゃあいきますよぉ! うむむむ……ブレイブダアアアッシュ!」


 微かにラナの体が光始めた時にはもう、俺の体は彼女に引っ張られ引き摺られるというより、子供がタオルを靡かせて走るように猛スピードで壁に何度もぶち当たりながら向かい側の建物へと突貫していくのだった。


 悲鳴を上げることすらできない俺は、びたんと叩きつけられトカゲの干物のように土埃の舞う訓練場に放り出されていた。


「カゲミツ様!? ああなるほど、訓練場の足場を確認するため、受け身の調整なんですね、さすがです!!」


 違う。断じて違う。


 体中が痛い……


 埃をはらいつつ、円形の訓練場の中央に俺とラナがおり、周囲には騎士甲冑を身に着けた屈強な男たちが20人ほど奇異な視線を俺にぶつけている。


「勇者騎士団ロドム隊長! ご命令通りカゲミツ様をお連れしました!」


「ラナは下がっていろ。これから勇者神殿の命令でこいつの腕を確認しなければならんからな。どうにもステータスが秘匿されているようで専門の術者でも見通せぬらしいのだ」


「すごいですカゲミツ様! 情報を秘匿するなんて、よっぽど知られたくない秘密を持っているんですね!」



 嫌な言い方するなよ……一歩間違えば脅迫にしか聞こえないぞ。

 知られたくない秘密なんて……Dドライブの中身ぐらいなものだ。

 ちなみに【 新しいフォルダ(2) 】という名前で偽装されているのはここだけの話である。


 気を取り直してっと、腕を確認? そんなわけあるか、こいつらの目を見れば分かる。 


 ラナはいかにも頭がアホで裏表がなさそうだが、神殿関係者たちの目の奥に潜むのは俺を排除し自分たちの利権や立場を守ろうとする保身の念が隠すことなく放射されている。


 中学高校で保身のために、いじめを見て見ぬふりしてきた教師たちが向ける侮蔑の視線と良く似ていた。


 肥え太った体を勇者神殿の正装らしき司祭服に押し込めているだけで、吐き気がしてくるレベルだ。


 と、ここでレベルについて考える一瞬の思考が、対戦するであろう前に出てきた聖騎士3人のステータスの一部を表示した。



 < 鑑定スキル発動中 >


 ターゲット1: 聖騎士 キース Lv38  流れる金髪の爽やかイケメン


 ターゲット2: 聖騎士 オマー Lv31  くすんだ金髪だが190cm近い身長と筋骨隆々な体格 しゃくれてる


 ターゲット3: 聖騎士 ダリル  Lv34  白に近い金髪であり、彼らのリーダー格、笑い方がきもい



 自分の印象を含めたデータが 脳内に表示というのかなイメージされている。ディスプレイ方式より分かりやすいかもしれない。


 さて、俺のレベルは1 使えそうなスキルは、影魔法のシャドウマスク、そして……もっとないのか!?


 ・・・・・<・・・・・・>・・・・・


 !?



「過去、勇者の使徒が現れた時、彼らは一騎当千の力で邪悪な者たちを屠って来た。ならば我が勇者騎士団所属の精鋭である聖騎士3人であろうとたやすく破ることができるはず! むしろここで倒せなければ貴様は偽物ということになる!!」


 勝手すぎる言い分だ。


 そもそもむこうの都合で呼び出したくせに、実力を確かめるために死ぬ気で戦えだと?


 ラナのぶっとび行動で後回しになっていたが、この理不尽すぎる状況への怒りが膨れ上がっていく。


 ようは異界同士の取り決めでこちらに飛ばされて来た俺が邪魔ってこと……つまり正式なルートで来た人間が邪魔……勇者の使徒を葬りたい?


 なるほど、俺が感じた保身の念はビンゴかもしれないな。


 そうなるとだ……


 陰キャの多くが抱える、本能とも言うべき資質が刺激される。


 < パッシブ技能  【 反骨精神 】 が起動しました >


 全身から染み出してくる静かな、そう地下で蠢くマグマのような灼熱の怒りが体中へと循環し始めていく。


 静かに蓄積されてきた怒りが、活力となってやる気を漲らせる。調子に乗るなクソ共め。



 

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