第27話 開店

「それじゃあみんな」


 海鮮料理店「美音」オープン当日。

 ニナ、フェンリア母娘をはじめとする店員みんなの前で、私は店長っぽくあいさつをする。


「今日から開店です。私自身、初めての体験だけど精一杯頑張るので、慣れないことも多いと思いますがご協力お願いします!」


 みんなからパチパチと拍手が起こった。

 開店は今日のお昼。

 そこからは、不自然にならない程度にSOS団のメンバーが来ることになっている。


「張り切って準備を始めよう! 事前に指示しておいた通りで!」


「「「了解です!」」」


 店員たちが一斉に動き始める。

 お客さんをお迎えするフロアの最終チェックや、軽い清掃をする人。

 下ごしらえが必要な料理の仕込みをする人。

 開店前ギリギリまでチラシを配る人などなど。

 私はニナと一緒に料理の準備だ。

 母親の代わりに家事をやっていただけあって、ニナの包丁さばきは見事なもの。

 それに吸収力もすさまじく、私が考えたメニューのうち何品かは自分1人で作れるようになっている。


「ミオンさん、この処理が終わった魚は冷蔵庫ですよね?」


「そう! これもしまっておいてもらえる?」


「分かりました!」


 本当に冷蔵庫が手に入って良かったなぁ。

 それにしても、ニナがきびきびはきはき働いてくれるから、店の雰囲気がすごく良くなる。

 「美音」の看板娘は早くも決定だね。


「お邪魔しまーす」


 開店まで残りわずかとなったところで、ピノがやってきた。

 店内を見渡して感慨深げに呟く。


「いよいよですね……」


「そうだね。わくわくしてきたよ」


「頑張ってくださいね。また後ほど、食べに来ますから」


「はーい。待ってるよ」


 どこかに行く途中だったらしく、ピノはすぐに出て行く。

 そしていよいよ、王都で唯一の海鮮料理店「美音」オープン時間になった。


「それでは!」


 私は店員みんなと手を重ね合わせる。


「楽しく頑張ろう! エイエイオー!」


「「「オー!」」」


「いざ開店!」


 私は看板を裏返して「OPEN」にすると、通りに向かって声を張り上げた。


「海鮮料理店『美音』! ただいまよりオープンです! ぜひご来店くださーい!」


 通行人たちが、一斉にこちらを見る。

 興味ありそうな顔をする人もいたけど、みんな歩いて行ってしまった。

 そう簡単には行かないよね。

 でも作戦があるんだから焦らない焦らない。


 10分くらいすると、ドアに取り付けたベルがカランカランと音を立てた。

 お客さんが入ってきた証だ。


「「「いらっしゃいませー!」」」


 みんなで元気よく迎える。

 でも入ってきたのはSOS団のメンバーだ。サクラだ。ネロとティガスだ。

 早速フェンリアがテーブルに案内し、お水を出す。

 それを飲み干すと、2人はそれぞれ注文した。


「俺はビールと天ぷらを頼む」


「俺もビール。それからフィッシュフライと……愛娘の笑顔かな」


「はいはい。ご注文ご確認します。ビールがお2つ、フィッシュフライと天ぷらがお1つずつですね」


 私が教えたとおりの接客。

 親バカな父をあしらえるあの感じなら、酔っぱらいへの対応もできちゃいそうだ。

 教育上よろしくないから、そういう時は私やフェンリアが対応しようと話しているけど。


「ビールが2つ、フィッシュフライと天ぷらが1つずつです!」


「了解!」


 サクラとはいえ、初めてのお客様だ。

 まずはビールが運ばれていき、その間に私は天ぷら、ニナはフィッシュフライに取り掛かる。

 パチパチと油のはじける音が厨房に響いた。


「フィッシュフライ揚がりました!」


「こっちもできたよ~」


 フィッシュフライにはソースを、天ぷらには塩をつけて盛り付ける。

 2つまとめてトレーに載せると、ニナに任せた。


「よろしくね」


「はい!」


 店として初めての料理が、お客さんの元へと運ばれていく。

 それと同時に、再びカランコロンとベルが鳴った。

 まだ次のサクラが来るには早い。

 ということは……正真正銘のお客さんだ……!


「いらっしゃいませー!」


 厨房を出て、お客さんを出迎える。

 やってきたのは、黒いフード付きのローブに身を包んだ老夫婦だった。

 お客さんは嬉しいんだけど……怪しすぎるでしょ!


「い、いらっしゃいませ」


 私は顔が引きつらないように注意しながら、老夫婦をテーブルに案内する。

 お水を出して、メニューを手渡した。

 2人してぱらぱらとメニューをめくったあと、旦那さんの方が尋ねる。


「この店のイチオシは何じゃ?」


「どれも美味しくてオススメですが……当店は生の魚を提供しています。こちらの刺身盛り合わせや昆布締めなどがイチオシですよ」


「ほう、生の魚……。ではその2つをもらうかの」


「刺身盛り合わせと昆布締めですね。こちら何人前に致しましょう?」


「食べるじゃろ?」


「もちろんですわ」


 奥さんの返答を確認して、旦那さんは人差し指と中指を立てた。


「2人前じゃ」


「かしこまりました」


「それから私、この赤身のステーキが食べたいですわ」


「かしこまりました。こちらは何人前にしましょう?」


「同じく2人前で頼む」


「かしこまりました。ではお待ちください」


 注文を取り終えて、私は厨房に戻る。

 身なりは怪しかったけれど、何だか上品な雰囲気の漂う夫婦だったなぁ。


「ニナ、赤身のステーキをお願い。フェンリアは昆布締めを出しておいてくれる?」


「はい!」


「分かりました~」


 2人に指示を出して、私は刺身盛り合わせに取り掛かる。

 するとまたしてもベルが鳴った。

 まだまだサクラは来ないはず。

 あれ? これってひょっとして、SOS団作戦いらなかったやつかな……?

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