第12話 宴の邪魔をするなぁ!

 2日後。

 村では、ティガスの帰還やフェンリアの回復、竜の巣の奴隷たちの解放を祝って宴が開かれていた。

 村人みんなが何よりも驚いたのは、ティガスが生きていたということ。

 次いで、私が本当に竜の血を手に入れてきたことだった。


「前回の宴は途中で強制終了じゃったからな。今回は目いっぱい楽しむといい」


「うん! 今日は食べるよ~」


 私はさらにあれこれ盛り付けてまわる。

 焼き魚、肉、フルーツ、キノコなどなど。

 ……このキノコは大丈夫なやつだよね? さすがにね?


「ニナも楽しんでる!?」


「ふぁい!」


 元気よく答えるニナ。

 どうやら口の中に食べ物が詰め込まれているみたいだ。

 前回は、宴の輪を離れて母親の心配をしていた。

 無理して笑顔は作っていても、やっぱりどこか表情は暗かった。

 でも今は、心の底からはじける笑顔を浮かべている。


「ぷはぁ……。数年ぶりの酒は染みるなぁ」


 ニナの隣に腰を下ろしたティガスは、ぶどう酒、要はワインを持っている。

 お酒かぁ。飲んだことないなぁ。

 子供じゃないんだし、試しに飲んでみようかな。


 私は立ち上がって、お酒を探す。

 するとフェンリアが、ワインを注いでは欲しい人に手渡しているのを見つけた。


「一つちょーだい」


「もちろんです。どうぞ~」


 フェンリアからワインを受け取って一口。

 これは赤ワインってやつだよね。

 へぇ~、こんな味なんだ。

 ちょっと渋みがあるような気がする。


「フェンリアは何か食べなくていいの?」


「食べてますよ。お酒もいただいてます。でもせっかくだから、ちょっとでも宴のお手伝いがしたくて。今まで出来なかったので」


「う~ん、何かニナの母親って感じ」


「ふふふっ。ニナが私の娘なんですよ。その性格もあって、大変な思いもさせてしまいましたが、これからはもう大丈夫です」


 フェンリアが、ふんすと胸を張る。

 竜血毒には、ただの解毒だけじゃなくて体力を回復させる効果もあったみたいで、今の彼女は数日前まで死にかけていたとは思えない元気さだ。


「ん、あれ、なくなっちゃった」


 フェンリアと立ち話をしながら飲んでいたら、コップの中が空になっていた。

 まあまあ美味しかったな。


「おかわりいい?」


「はい。好きなだけ飲んでくださいね」


 ワインを注いでもらい、ニナたちのところへ戻る。

 そしてしばらくお酒と食事を楽しんでいると、唐突に大きな鐘の音が響いた。


「モンスターの襲撃だぞぉぉぉ!」


 にわかに村全体をピリッとした空気が包み、みんなの動きが慌ただしくなる。

 全く冗談じゃない。

 今日はせっかくの祝いの宴。

 この間みたいに潰されてたまるかぁ!


「みんな奥へ避難を! 戦えるものは……」


「いいよ。私1人で十分」


 村人へ呼びかけるミョン爺の前に立ち、私はにっこり笑った。

 前回の襲撃の時とはわけが違う。

 何せ私は超強い武器を手に入れているからね。


「俺も手伝うか?」


 そう言いながら、ティガスがふらふらと立ち上がる。

 完全に酔ってるね。


「酔っぱらいは座っていいよ」


「酔っぱらいとは何だ」


「まあまあ。でも今日はティガスのための宴でもあるんだからさ、主役はゆっくりしてなって」


「お前に感謝する宴でもあるんだぞ」


「行ってきます!」


「あ! 待て!」


 私は会話をぶった切って駆け出す。

 村の入口の前に、やはりこないだと同じく複数のモンスターが隊を組んでいた。

 この間は1体1体に触れるしかなかったからね。相当時間がかかった。

 でも今回は違う。


「【合成シンセシス】」


 さあ、始めようかモンスターさんたち。


「【五岐大蛇いつまたのおろち】!」


 3つの頭を持つ毒竜ヒドラ、そして雷竜サンダードラグ鋼竜メタルドラグ

 合わせて3体の機功竜マシンドラグを合体させ、八岐大蛇ならぬ五頭大蛇いつまたのおろちだ。

 本家は八頭八尾。

 こっちは五頭三尾という何とも言えないバランスだけど。


「そりゃ! 行っけぇ!」


 村には被害が出ないように注意しながら、機功竜マシンドラグに手あたりしだい攻撃させる。

 1体ずつ収納するよりはるかに効率がいい。

 ものの数分で、モンスター軍団は片付いてしまった。


「ん?」


 今、奥にある木陰で何か動いたような……。

 暗闇の向こうへと、私は目を凝らす。

 やっぱり何か動いている。

 しかもモンスターや獣の類じゃない。

 人間だ。


 暗闇と木陰に隠れた誰かが、大きく手を動かす。

 すると再び、モンスター軍団が現われた。

 ということは……

 あいつが盗賊団にいるっていうモンスターテイマーだ!


五岐大蛇いつまたのおろち、ここは任せたよ」


 私は操作盤を使って、機功竜マシンドラグたちをモンスター軍団の方へと向かわせる。

 そして自分は、木陰に隠れたモンスターテイマーの方へと駆けだした。

 それに気づいたのか、向こうも慌てて逃亡を開始する。

 すると、わずかにモンスターの隊列が乱れた。

 やっぱりあいつが操ってたんだね。

 驚きからかその精神状態が乱れて、モンスター軍団にも影響が出たみたいだ。


「逃がすかぁ!」


 なめるんじゃないよ、私のAGI。

 モンスターテイマーもそれなりに逃げ足には自信があるようだったけど、私はあっさり追いついてしまった。


「とりゃ!」


「どわっ!」


 私は思いっきり体当たりをぶちかまし、モンスターテイマーを転倒させる。


「な、何なんだお前……」


「あのねぇ……」


 私は堂々の仁王立ちでモンスターテイマーを睨みつける。

 威圧感があったのか、向こうは尻もちをついたまま後ずさりした。


「今日は楽しい宴の日だったんだよ。大切なお祝いのね」


「ひ、ひぃ……」


「宴の邪魔をするなぁ!」


 私は握り締めた右の拳を、モンスターテイマーの顔面に叩きこむ。

【鉄拳制裁】。

 まあ、そんなスキルないんだけど。

 ただの思いっきりパンチなんだけど。


「がふっ……」


 ただのパンチだが、まともに食らった相手は吹っ飛んだ。


「盗賊って牢屋に入れればいんだよね……。どこに連れてけばいいんだろ」


「ま、待ってくれ!」


 牢屋という言葉に恐れをなしたのか、男は両手をあげて降参する。

 そして言った。


「俺は、というか俺たちの盗賊団はもう金輪際、あんたたちの村に手を出さない! それに盗賊団同士の情報網もあるんだ! 他の盗賊団があんたたちを狙うことも、絶対にないようにする! 悪い話じゃないだろ!」


「うーんでも、盗賊が来たって倒せるしなぁ」


「た、頼むよぉ……」


 でも、襲撃の度にいちいち宴を中断するなんて冗談じゃない。

 それに、少なからず村のみんなが怖い思いをするわけだし。


「分かった。約束だからね。もしどこかの盗賊団が村を襲った時は……」


 今日一番の鋭い目に、モンスターテイマーはごくりと唾を飲む。


「約束を破ったってことで、あんたたちの盗賊団を地獄の果てまでも追っていって叩き潰すから」


 モンスターテイマーは、がくがくとただ頷いた。

 そしておぼつかない足取りで逃げていく。

 機功竜マシンドラグのところに戻ってみると、そこにはかつてモンスターだったものたちが散乱していた。

 それをあらかた収納して片付け、村に戻る。

 私はVサインを出して叫んだ。


「さあ! 宴の続きだぁ!」


「「「「「おおおおおおお!!!!」」」」」


 この後、近隣の盗賊団にこんな話が広まったらしい。

 ――「最北端の漁村には、竜すら従える女の鬼人がいる」と。

 これが後に、この世界の歴史に刻まれるとある出来事のきっかけとなるんだけど……

 それはもう少しだけ先の話。

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