第三十八話 シャルロッテ vs 魔人『マヴル』

「くっ! 」


 せまりくるマヴルは設置された罠にかかり爆音と共に吹き飛んだ。

 事前に自身に強化をほどこしているのだけれど流石に魔人として物理的に強くなっているマヴルには肉体的におとる。

 よって罠を仕掛け距離をたもち、移動しながら攻撃することで均衡きんこうたもっているのだ。


「少しは傷がついてくれると嬉しいのだがね」

「こんな攻撃。痛くもかゆくもないわ! 魔硬散弾バレット

魔法障壁マジック・プロテクション加速ヘイスト


 マヴルから放たれる魔弾を魔法障壁で防ぎ、加速して移動する。

 瞬間元いた場所が陥没かんぼつした。

 そこには遠方えんぽうまで吹き飛ばされたマヴルがいる。

 厄介だね。毎回だけど。


 木々をうように移動し、少しかがみ、地面に魔杖ロッドを突き付け魔法を張る。

 すぐさまそこから移動してせまりくるマヴルから逃げる。


「しつこい男は嫌われるよ? 魔法効果最大化マキシマイズ・マジック: 行動遅延スロウ

「くっ! 」


 移動も攻撃も単調たんちょうなのだよ、君は。

 だから読みやすい。

 しかしその機動力や攻撃力はあなどれない。

 ならば制限させてもらうよ。


「こんなもの! 」

魔法効果最大化マキシマイズ・マジック: 腕力減衰パワー・ダウン

「なっ! 効果上昇系の魔法は連続して使えないはず! 」

「なに、僕はつねに、最新式さ。魔法効果最大化マキシマイズ・マジック: 拘束チェーン・バインド


 速度に力を大幅おおはば減衰げんすいさせたマヴルに地面にえがかれた魔法陣からくさりが放たれ巻き付く。

 急激に体が変調へんちょうしたため戸惑とまどう中、硬度に拘束力を最大化されたくさりからみつきマヴルをしばる。

 それから逃げようともがくが逃げれない。

 そりゃそうだ。討伐難易度Sランクモンスターでさえ逃げれないものだ。

 時間かせぎくらいにはなるだろう。


すきを見せたね。風刃ウィンド・カッター


 もがくマヴルの首めがけて風刃が飛ぶ。

 しかし弾かれたようだ。

 傷一つない。


「くそがぁぁぁぁぁぁぁ! 」


 拘束状態が頭に来たのか体を膨張させくさりをその肉体で引きちぎった。

 いやはやもはや魔法使いの面影おもかげもないね。


 走りながら観察する。

 いつ攻撃が来るかわからない。

 その攻撃力や機動力に注目しがちだけれど彼は生粋きっすいの魔法使い。

 いつ魔法を放ってくるかわからないのだ。


 魔力視マナ・サイト


 さっきの強化でかなり魔力を消費しているみたいだね。

 これは僥倖ぎょうこう

 魔法使いにとって残存ざんぞん魔力は――ってあれ? 増えてる!


「……ふぅ、ふぅ。今までならばこれを使うのはプライドが許さなかったのですがもう方法は問いません。常に進化し続ける貴方に対抗する為です。毒すらも飲みましょう」

「まさか……マヴル、お前」

森の循環フォレスト・マナ・サークル。自分が開発した、そしてあの事故を起こした魔法を使われる気分はどうですか? 」

「貴様ぁぁぁぁぁぁ!!! 魔法効果最大化マキシマイズ・マジック: 白炎柱プライマリー・フレア・サークル


 ★


 森の循環フォレスト・マナ・サークル

 この魔法はシャルロッテが開発した魔法の一つである。


 その昔存在した国——エルダリア王国は魔道具産業がさかんな国であった。

 一般国民が普通に魔道具を使い、馬車よりも速い道具に乗り、手紙よりも速い通信手段を持った、いわば魔道具の最先端を行っていた。

 その商品を外——つまり国外へ輸出しようとした時、国の上層部はある問題点に行きつく。

 それは国外の者が魔道具を使う程に魔力操作にけていなかったことである。


 そもそもこのエルダリア王国というのはエルフ族が大半たいはんめる国だった。

 王、もしくは女王を頂点ちょうてんにし貴族、平民と身分階級が分かれていくが種族特性上魔法のあつかいにけている者が多く魔力操作、ひいては魔法を使えない者はごく少数と言われるほど。


 そこで立ち上がったのが国立研究所主導しゅどうの魔力永久機関の創設そうせつである。

 国外の種族を調べた所まずもって魔力操作というよりも魔力が乏しい事に行きついた。

 よってそれをおぎなうために魔力永久機関を作り、一から魔力操作を覚え、代をかさねるごとにそれを普通にしていく、という計画だ。


 が、それは完成間近で失敗に終わる。


 その主軸しゅじくとなる森の循環フォレスト・マナ・サークルの暴発だ。


 理論上は可能。

 魔法陣も完璧なはずだった。

 だが失敗した。


 何故か。

 理由は案外簡単で、その可能性を最初からないものとしていたのも失敗の原因だろう。


 後からわかることだがその失敗原因は当時副所長をしていたマヴルの――嫉妬しっとによる妨害ぼうがいであった。

 その後シャルロッテは引責いんせき辞任をし国を出る。

 心に傷を負ったまま。


 ★


「あれは……。白炎柱プライマリー・フレア・サークル


 森へ移動中巨狼の状態で天高てんたかくに立ち上る白い怒りの炎を見上げてぽつりとバトラーが呟いた。


 (シャルにしては珍しいド派手な魔法。まさか彼女に危険が?! )


 シャルロッテが負けるはずはないと思いながらもどこか胸のあたりをぞわぞわさせるバトラー。

 今までバトラーはシャルロッテが負けた所を見たことがない。

 何が起こっても勝ち気で負け知らずな彼女が負ける姿すら想像つかない。

 しかしどこか不安が彼を襲っていた。


 (急がねば)


 巨大な銀狼はついに東の森へ突入した。


 ★


「ははは! 攻撃がざつになってきていますね! 」

うるさい! 魔法威力増大マジック・ブースト: 風刃ウィンド・カッター


 マヴルに向けて巨大な風刃を放つ。

 地面をえぐりながらマヴルに当たるが、ものともしない。


「うぐっ! 」


 逆に魔弾を放ってきて、それを受け、少し後退。

 しかし加速した体で次のポイントへ移動する。


魔法威力増大マジック・ブースト: 風刃ウィンド・カッター

「攻撃が単調たんちょうすぎます」


 またもや地面に傷をつけながら風刃を飛ばすが抵抗レジストされてしまった。

 魔力の大幅おおはばに増大した為かさっきまでかけていた弱体化魔法が解けている。

 すぐさま距離を詰め、拳を――


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 」


 ドン!!! という音を立てながらマヴルがはじけ飛んだ。


「……ふぅ。危機一髪ききいっぱつ。君にしては遅かったね」

「むしろ間に合ったことをめて欲しいのですが」


 マヴルにタックルをかました銀色の巨狼を見上げて、少し愚痴ぐちりながら、だけどたのもしい仲間が来てホッとする。


「にしてもなんか君、蒼白く光ってない? 」

「さて。自分では自分が見えませんから何とも」

「後で鏡を貸すよ」


 そう言いつつマヴルが吹き飛んだ方向を見る。


 遠視ロング・センス


 火傷のようなものを負ったマヴルが立ち上がろうとしていた。

 タックルであれほどにダメージを与えたとは。

 これはバトラーの変化が原因かな?

 しかし好都合。

 今日こそは逃がさない。


 こちらにせまろうとしているマヴルを見ながら地面に刻まれた魔法陣を全て展開させる。


「不滅結界」


 そうとなえた瞬間地面が光る。

 魔法陣が発動したのだ。

 そして連動するかのように次々に無数の魔法陣が、風刃により作られた疑似的な魔導線ラインが光り出す。

 当然のごとく異臭を放っているわけで、隣のバトラーの顔は見るまでもなくどんな表情をしているのかよくわかる。


「……貴方さえ、貴方さえいなければ僕はっ! 僕はっ! 」


 マヴルを閉じ込めるための結界を張り逃げれないようにした。

 しかし亡者もうじゃごとくブツブツと呟きながらこっちに寄って来る。


「マヴル。君の主張しゅちょうは聞ききたよ。バトラー」

「分かっております」


 バトラーに声を掛けると彼から蒼白い『聖光』が放たれて――魔人『マヴル』は消滅しょうめつした。


 ★


「いやぁ。呆気あっけなかったね」

「……にしては随分ずいぶんと苦戦していたようですが? 」


 マヴルがいた場所へ足を進めながらバトラーに軽口かるぐちを叩く。


「そんなことは無い。まだまださくはあったさ」

「その指輪リングですか? 」

「そうさ。故に奴を閉じ込めるための結界も準備していたわけで」


 ニカァっと笑いながら狼獣人状態のバトラーを見上げる。

 そこにはどこかさみしそうな顔をするバトラーが。


「い、いや。君が必要なかったわけではないわけで。そんな顔をしないでくれたまえ」

「……頼る時は頼ってください」


 それを聞き、すぐに口角を上げる。


「いいんだね? 本当に。頼って」

「いや、今の無しです」

「なんでさ」

理不尽りふじん要求ようきゅうをされそうだったので」


 ちぇ、こき使ってやろうと思ったのに。

 まぁ良いか。


「さて、これだが」


 足を止めて一つの大きな石を拾い上げる。


「魔石ですね」

「ああ。あのマヴルのだ。彼は元はエルフ族の人間。しかし邪神教団に入ることにより魔人となり、モンスターへと変貌へんぼうした」

「話しを聞くだけでもおかしなことばかりです」

「ま、それだけ世界は未知にあふれているという訳さ。そしてこの魔石の価値は――はかり知れない」

「……冒険者ギルドに提出するのですか? 」

「……」

ふところに入れないでくださいね? 少なくともどこか、誰かには報告してください」

「えぇ~」

「ええ~、じゃありません。これ以上問題になるようなことを起こさないでください。いいですね? 」

「……わかったよ」

「ならいいのですが」


 そう言いルーカスの町の方を向く。


「さ、帰ろうか」

「ええ」


 こうしてボク達は森を出た。

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