第十二話 コンテスト当日 天才の実力とシャルロッテの秘密

 大勢の観客がいる中、審査しんさ員と出品者が少し離れた場所で対面していた。

 審査しんさ員はなかば出来レースのこのコンテストが早く終わらないかと考えながら、出品者は――一部を除いて――この後の仕事について考えていた。


 そんな双方の気も知らず審査しんさ員と出品者を囲む観客達はがやがやとしている。

 コンテストは観客にとって普段見ることのできない最新鋭の道具を見る――一種の娯楽ごらくのようなもの。

 今回は何が出るか全員が楽しみにしていた。


 そして司会者らしき人が現れた。


「皆様お待たせしました。ランド商会共催きょうさい魔道具コンテストを始めます」

「「「おおおー!!! 」」」

「まず初めに――」


 ★


「は、始まりましたね」

「そうだな。しかし何だね、この演説のような気持ちの悪い話は。さっさと終わらんのかね。こんな中身のない単なる商品宣伝なんて客は求めていないと思うのだが、どう思うかい? バトラー」

「そうですね。退屈している、という感情をひしひしと受けます」

「ヒィ! バトラーさん?! 」

「全く古今東西ここんとうざいどうしてえらそうな人間の話は長いのか研究してみたいものだ。ま、予想はついている。差し詰め自分の知識が他よりもすぐれているのを証明し優越ゆうえつ感にひたりたいのだろう」

「それを貴方が言いますか? シャル」

「私は有意義ゆういぎ長話ながばなししかしないのが信条しんじょうだ。だんじてあれらとは違う」


 司会者の方を向き「早くさせろ」と目線で訴えた。

 すると何か感じたのか声のテンポが速くなった。


「——ではお楽しみ下さい」

「あ、ありがとうございました! では審査しんさに入ります。まずは――」


 緊張しているのだろうか最初の頃よりも声が高い。


「何かあったのだろうか? 」

「……自覚がないのですか? 」

「何がだい? まるでボクが犯人のような口ぶりじゃないか」

「Sランク冒険者が少し睨んだだけでも一般人には十分に脅威だと思いますが」

「それを君が言うかい? 」

「は、始まりました! 」


 自分の事をたなに上げてボクをめるバトラーに溜息ためいきをついているとニアの興奮気味な声が聞こえてきた。


 目を戻し、審査しんさ員達を見る。

 やはりというべきか目にやる気が見えない。恐らくもうすでに誰の出品を最優秀賞にするか決めているのだろう。

 彼らは以前からこの町にいた魔技師と聞く。

 金をにぎらせられているのか、弱みをにぎられているのかわからないがこの出来レースにうんざりしている様子だ。


「——そしてこちらが最後になります! 出品者は魔技師工房『カーヴ』よりニアになります」


 その言葉に会場にどよめきが走る。


「カーヴ工房?! 」

「ニアちゃんが出したのかい?! 」

「ほほう。面白くなったじゃないか」


 と、観客がり上がる中、運営側は少し苦々にがにがしい表情だ。

 へぇ、カーヴの野郎は中々にうまくやってたみたいじゃないか。


 嬉しいねぇ。

 ここにいないのが悲しいが。

 全く本当に何をやってるんだ。

 あの馬鹿は。


 しかし運営側のあの表情。

 これは思った以上にやりやすいかもしれない。

 観客がニアに味方している中でわかりやすい不正が出来なくなったんだから。


「は、運ばれてきますよ」


 そう言われ審査しんさ員の方を見る。

 すると彼らの顔には驚きの表情が見えた。


「な、何だこれはっ! 」

「こんなの聞いてない! 」

「美しい……」


 会場の運営側にいるランドの顔が苦虫にがむしつぶしたような顔をしてる。

 はは、そうだろ、そうだろ。

 ここ数日で気付いたが彼女の才能は本物だ。

 みがけば領内、いや国内に名をせる職人になる。

 自分に自信が持てないのが傷だがそれを差し引いても彼女自身が宝石の原石だ。


 立体六連魔法陣。

 これはこの短期間で教えることができた限界だ。

 しかしこれだけでも十分に戦える。

 他の停滞ていたいしたボンクラ技術を見れば一目瞭然いちもくりょうぜんだ。


 そろそろボクの出番かな。

 軽く腰を浮かせ――


「……では審査しんさの結果をお願いします」

「ちょっと待ったぁ! 」


 そしてボクは会場に飛び出した。


 ★


「な、何ですか! 貴方は! 」

「ボク? ボクかい? ボクは魔技師工房『カーヴ』の者だ」

「カーヴの?! 」

「ああ。そして一言言いに来た」


 と、軽く審査しんさ員席の方に顔を向ける。


「君達は魔技師、でいいんだよね? 」

「あ、あぁ……。そうだ」

「俺達は魔技師だ」

「そうか、そうか。なら君達の中でどの作品が一番か、もう決めてあるのかい? 」

「……そうだ」

「決めてあることに関してボクがとやかく言うつもりはないけれど、どのような経緯けいいがあるか知らないけれど、君達は、君達が最高と思った出品物に審査しんさくだすんだね? 」


 そう言うとある者は少しうなずき、ある者は震える拳をにぎっている。

 彼らもわかっているんだろうね。


「君達は『魔技師』と言ったね? 」

「……そうだ」


 しぼり出すかのような声で、拳をにぎり、震えながら、ぼそりと呟く。


「魔技師として審査しんさくだすのならばそれを尊重そんちょうしよう。しかし――選んだしなに関して責任はとってもらうよ? 」

「どういう」


 何が言いたいのかわからないような声を上げて上を向いた。

 そんな彼らに一枚の――純白のカードを見せつける。


「そ、それはっ! 」

「まさか、ありえない! 」

「なんでこんな小さな町に!!! 」

「魔技師ギルドの名誉めいよ統括とうかつにして創始者そうししゃであるこのシャルロッテ・エルシャリアが――君達を審査しんさしよう」


 ★


 (何が……。何が起こっている)


 ランドはただ一人混乱していた。

 いつものように終わるはずだった。

 商品の広告をして我が商会の一番商品の発表会のようなものだった。

 そのはずだった。


 なのになんだ! あのニアとか言う奴の指輪は!

 これならば先に奴を取り込んでおくんだった!


 きわめつけは魔技師ギルドだ。


 魔技師ギルド。聞いたことがある。

 商業ギルドや冒険者ギルドとは違いここ百年程で出来た魔技師達の寄合よりあいだ。

 しかしその影響力ははかり知れない。

 だから影響力の少ないこのルーカスの町を選んだというのに、なぜ今になって出てくる!!!


「……商会長。これ以上は」

「ふ、ふ、ふ、ふざけるな!!! 」


 熱い、体が熱い。


「何が魔技師ギルドだ! 何が名誉めいよ統括とうかつだ! おかしいだろ?! 何でそんな大物がこんな町にいる! 偽物だぁ!!! 」


 前に、行く。

 自然と足が動く。


「一体貴様は何者なんだ! 」

「君は耳が悪いのかい? ゴミ君。ボクは魔技師ギルドの名誉めいよ統括とうかつ名誉めいよ職とはいえ独自どくじでギルドに所属する者の審査しんさ権限けんげんを持つものだ」

「嘘だ! 偽物だぁ!!! それにそこにいる魔技師道具共はギルドに加入してないはず! 仮にそうだとしても貴様の権限けんげんおよばない!!! 」

「確かにそうだ。だがボクが彼らを審査しんさすることで魔技師としての資質ししつを疑われることになる。そのリスクをってでも彼らは君の味方をするのかな? 」

「そ、そんなふざけた話!!! 」

「やれやれ、これでも君よりかは年上なんだがね。ま、駄々だだっ子は牢屋ろうやでしてくれ」


 肩に何か感じる。

 つかまれた感触だ。

 振り向くとそこにはこの町の憲兵が二人。


「商人ランド。貴様には殺人及び様々な容疑がかかっている。詰め所までご同行どうこうねがおう」

「きさっ――」


 衝撃と共に意識は暗転あんてんした。


 ★


「で、今ならまだ間に合うけど……どうする? 」

「……足枷あしかせが無くなりすっきりしました」

「解放された気分です。名誉めいよ統括とうかつ

「むろん、この中で一番はニア殿でしょう」


 審査しんさ員達が緊張が解けたかのように椅子にだらりと背をあずけ、少しだらしなく座り込んで審査しんさくだす。

 すると周りの観客が大歓声を上げた。


「……にしても恐ろしいまでの才能ですな」

「あの若さで立体六連魔法陣とは」

「普通ならば二つの魔法陣をつなぐ単純並列魔法陣をければ上出来な年齢」

「どのようにして宝石の中に組み込んだのか気になる所ですが」

「教える訳ないでしょう? 」


 はぁ、と溜息ためいきをつきながらも満足げな顔をする彼らをおいて席へと戻った。

 しかしそこには驚きのあまりか固まったニアがいる。


「し、し、し、し、師匠って……え、え、え、えらい人だったのですね」

「ん? そうでもないよ。ただの引きこもりエルフさ。ただ不本意な二つ名や肩書かたがきを持つだけの」

「シャル。このままでは大騒ぎになりそうですよ」


 軽く周りを見渡すと他の職人達がこちらをじーっと見ていた。

 不快だな。


「よし。帰ろう! 」


 こうしてボク達は指輪を回収し、工房へと帰った。

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