第39話 下水路を綺麗にしよう

この世界には上水路と下水路を完備した町がある。

異世界の知識を活用するとはこう言う事だろう。

北から川の水を引き入れると処理をしてから引かれている。

水道ではなく、井戸というのが中世的だ。

上水路があれば、下水路もある。

下水路には、流れなかった汚泥やドロが貯まっており、それを駆除するのがクエスト『ドブ攫い』だ。


「西通りの下水路は臭いわね」

「町中の汚泥が集まってくる所です」

「嫌だ。汚物まみれの中に入るのは嫌だ」

「シュタ兄ぃのクエストですよ。配達が嫌だと言ったのはシュタ兄ぃです」

「アル。そこ何とか?」

「諦めて下さい」


配達は付き添い見習い期間を終えてから始まる。

一年くらいは荷物持ちだ。

クエストの回数にならないが、駄賃が貰える。

壁の補修や軍の仕事は年齢的に駄目だと言われた。

それで年齢に関係ない『ドブ攫い』の手伝いクエストだ。

大人に交じって汚泥のドロを桶に入れる仕事らしい。


「私も嫌よ。ア~ル。何とかしなさい」

「姉さん」

「できるでしょう。ウチの下水路で使った魔法よ」


我が家に通っている下水路などは年に一度だけ夏前から初夏に掛けて住民で掃除をする。

砂な汚泥を集めて西通りの下水路に落とす。

見掛けは綺麗だが、汚泥まみれになる。

それが嫌だったので、俺は朝の内に清浄クリーン脱臭デオドランドを掛けておいた。

臭いも雑菌もない水遊びになった。

姉さんの目がヤレと言っている。

はぁ、俺は息を吐いた。


「判りました。俺が浸かる前に清浄クリーン脱臭デオドランドを掛けます。臭いと汚物が消えれば、タダのドロ攫いになります」

「うん。私もそれなら手伝って上げるわ」


一緒に作業をする冒険者が奇妙な顔をしそうだが無視しよう。

ドブ攫いに来る冒険者に魔法使いはいないだろう。


「済まんな。坊主」


到着すると責任者が頭を抱えて困っていた。


「午前中に冒険者がイザコザを起こして怪我人が出たので、今日の作業は中止になった。連絡が行き違いだ。わざわざ来て貰ったのに済まんな」

「困ります。家から追い出されます」

「そうは言っても・・・・・・・・・・・・子供にあれは動かせん」


手動のクレーンのようなモノだった。

綱を引いて板を上げ下げ、竿を回して大きな桶を荷車に乗せるようだ。


「あれ位なら何とかなるのじゃない」

「お嬢ちゃん。大男が二人で引き上げる奴だぞ」

「ア~ル。何とかなるわよね」

「何とかしましょう」

「おいおい、冗談を言うな」

「まぁ、見てなさい。ア~ル、やってしまいなさい」

「すたこらさっさ」


俺は梯子を下りて底に付く。

鼻が曲がりそうな臭いを我慢して水面から底まで魔力を這わせた。

領域確保。

水門と水門に挟まれた区画は、細長い100mプールのようだ。


清浄プチ・クリーン、続いて脱臭プチ・デオドランド


濁っていた水に透明さが戻る。

念の為に壁や道具にも掛けておいた。


「なんじゃそりゃ」

「責任者の叔父さん。見なかった事にしておいてね」

「今、何をした?」

「気にしない。気にしない。泥が無くなればいいのでしょう」

「確かにそうだ」


粒子が集まって底に落ちたがドロはドロだ。

下の兄が雪掻きのような道具でドロを集め始めると水がまた濁ってきた。

集まったドロを大きな桶に入れて行く。

これは重労働だ。

姉さんは余裕で風呂桶のような大きな桶にドロを積み込んで行くが、俺ではすぐに体力が尽きそうだ。

下の兄も10周ほどした所で足が鈍ってきた。

と言う訳で休憩だ。


「いやぁ、大したモンだ。餓鬼にしておくのは勿体ない」

「それより桶を満タンにするのが大変ね」

「本来、10人掛かりで3日掛けてヤル仕事だからな」

「なるほどね」

「汲んでも持ち上がらない事には何ともならんぞ」

「それは大丈夫よ」


姉さんは気軽に責任者さんと話していた。

下の兄はバテて声も出ない。

俺は指輪に集中して魔法陣を書き直した。

石人形ロックゴーレムを改良し、泥人形マッドゴーレムを作る魔法に書き込んだ。

自立したゴーレムは中級魔術以上になるが、魔力が届く範囲ならば初級魔術でも作れる。

準備が出来たので再開だ。


泥人形マッドゴーレム


下水路の底の泥が集めったスライムになると、ほいさ、ほいさ、ほいさ、そんな感じで移動して桶の中に入って行った。

責任者さんは顎が外れたように口を開いていた。


さて、桶が満タンになると引き上げた。

俺は桶と一緒に板に乗って闇の魔法『浮遊レビテーション』を発動し、姉さんに綱を引っ張って貰う。

浮遊レビテーション重力クラビティーを反転させた魔法だ。

重力を軽くすれば、姉さんなら簡単に引き上げてしまう。

上がった所で下の兄が滑車を回し、荷車の側に移動させた。

最後に軽くなった桶を三人で持って荷車に置いた。

責任者さんが荷車を移動して、次の荷車を用意した。

後は反復作業ルーティーンだ。

その日の夕方まで5台分の汚泥入り大桶を荷車に積んで終了した。


「意味が判らんが、坊主が凄い魔法使いとは判る」

「出来れば、ご内密に」

「承知している。誰にも言わん。だが申し訳ないが、30人分の作業完了書を渡したいが、1日一人5枚までという規定がある。許して欲しい」

「別に良いわよ」

「俺もそれで構いません」

「待て、30枚あったら貰える賞金が違うし、7級に昇進できるんだぜ」

「別にシュタが頑張った訳じゃないでしょう」

「しかし・・・・・・・・・・・・」

「貰うとしたらアルだけよ」


姉さんに諭されて下の兄が引いた。

嫌ならもう手伝わないと言われたからだ。

姉さんが嫌といえば、俺も付いて来ない。

下の兄は妥協した。


「それも急ぎの区画がもう1つある。頼むから引き受けて欲しい」

「私は明日の午後は裁縫があるのよ。明後日なら良いわよ」

「では、明後日の午後で良ければ、引き受けます」

「それで構わない。指定依頼を出しておく」


こうして一人当り5枚の作業完了書を持って冒険ギルドに戻ると賞金が貰えた。

ギルド担当になったお姉さんがびっくりしていた。

子供用の手伝い5枚でなく、正規の受領書が5枚だったからだ。

下の兄も無事に家に入れて貰えた。

仕事の後のご飯が美味しかった。

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