第28話 レールガン擬き

母さんもいつも忙しくしている。

貧乏暇なしだ。

いつもべったりの姉さんだもまったく暇と言う訳でもない。

女の子は針や織物の技術が必要と言われる。

母さんも針仕事は得意だ。

夜鍋をして繕い物を仕上げている所を何度も見ている。

針仕事ができないようでは嫁の貰い手がないらしい。


「ア~ル、家で大人しくしているのよ」

「はい」

「ぜっ~絶対よ。勝手に外に出ちゃ駄目だからね」

「姉さんも気を付けて行って下さい」

「早く帰って来るから、駄目だからね」


週に2日、姉さんは8区の裁縫士の家に習いに行く。

その家では裁縫を無料で教えてくれる。

針が基本だが、センスの良い子は服や織物も教え、出来の良い品は商店街の古着屋で置かれる事もある。

何故、古着屋かって?

練習で使っている布が古着だからだ。

パッチワークを流行らせたのは誰だろうか?

何となく判る。


その中から腕の良い子はスカウトされて、商業区の工房に入る事もあるらしい。

先生は昔、工房長だった人らしい。

スカウトまで行かなくとも織物の下請けができるようならば、かなり嫁げる。

姉さんは嫌がっている割に才能があった。

先生から是非に弟子に取りたいと言われている。

姉さんは絶対に行かないと嫌がっている。


「弟子になるならア~ルと一緒。一緒じゃなきゃ、絶対に弟子に行かない」

「アネィちゃん、良い話なのよ」

「絶対に嫌ぁ」

「う~ん、困ったわね」


母さんの困るは、おそらく俺がいつか王都に行く事を知っているからだ。

8歳まで保留された。

5歳で学校、8歳で弟子入り、16歳で成人というのが慣習らしい。

姉さんはそれまで週二に通う事になった。

上の兄も8歳で弟子入りする為に、今から親父の仕事場に出入りさせられている。

俺も会う時間が減るので助かっている。

野菜を盗む。

隠してあったお菓子を勝手に食べられる。

勝手に支給品の服を強奪する。

被害は甚大だが、余り責めると母さんが困るので許してやった。

家は貧しいので、俺以外は晴れ着の1つもないのだ。

支給品の服を繕い直せば、良いシャツが作れる。


家庭参観日で良い服を着たいから?

意味が判らない。

えっ、女の子の両親に良い格好を見せたいって?

結婚相手は両親が決める。

色付きやがって・・・・・・・・・・・・どうでもいいか。


姉さんが見えなくなるとお出かけだ。

俺は倉庫街の南にある林の広くなった場所に移動した。

秘密の特訓だ。

まずは、棚に上げた究極の初級魔術だ。


『レールガン』


自転車くらいの速度で小さな鉄球が撃ち出される。

本当は銀貨でやりたいが勿体ない。

鉄なら工房区のくず鉄が貰える。

農夫からこっそり鍋などの修理を請け負って代金として貰っていた。

鉄の鍬を作っているのを見られちゃったんだ。

ちゃんと内緒にして貰っている。

先に演算を終わらせる事でファイラー1つ分の魔力を使って小石を撃ち出せるようになった。

威嚇にはなるが、攻撃力は皆無だ。

レールガンの演算が無茶だ。

でも、他の候補が見当たらない。

とにかく、俺は演算力を鍛えに鍛えていた。


だがしかし、これ以上の速度を求めるとパソコンがいる。

演算はともかく、プラスとマイナスと変換するゼロコンマ以下の管理を感性で出来ない。

知覚時間を早くする付加魔法を自分に掛けて倍の速度にした。

だがしかし、それでも自転車からスクーターの速度に上がる程度が限界だった。

打ち砕く貫通力は得られない。

やはり使えない。


『加速装置のゲート』


指で弾いた小石が闇のゲートをくぐって、倍の速度に加速する。

闇の魔法の重力を操る魔法だ。

賢者は身体能力で劣っていたのでゲートを作って一瞬だけ速く動き出した。

勇者や戦士に付いて行く為の苦肉の魔法だ。

指で弾いた小石が小さなゲートを通って倍の速度となって撃ち出された。


体を鍛えて時速160kmの豪球を投げる投手になれば、ゲートを通って時速320kmで撃ち出される。

ここまで来ると投石の威力ではない。

だが、やはり使えない。


俺は3歳だ。

魔力で肉体強化をしても人並みにしか走れない。

魔力なしならヨチヨチ歩きだ。

時速160kmの豪球なんて何時の話だ。

10年以上は掛かる。


『バレット!?』


属性を付けない無属性の魔法弾を撃った。

魔力圧縮で強度を高め、撃ち出すだけにファイラーの一発分の魔力を込めた。

この一発でファイラー2発分の魔力を消費する。

ファイラーアローと威力は同じだが、無詠唱で撃ち出せるので使い勝手が良い。

木の幹が深く抉れていた。

これは使える。


圧縮するイメージを円錐にできれば、もっと威力が上がりそうだ。

一発分の属性を付ければ、威力はさらに上がりそうだ。

しかし、一撃必殺となり得ない。

やはり中級魔法が必要か?

担当官さんとの相談した事を思い出す。


「アル君、中級魔法が書ける魔術具はと~~~ても高いのよ」

「やはり高いですか」

「この町の魔術具屋では滅多に入らないわ。それに普通は初級魔法陣が1つ保存できる魔術具が主流なのよ。アル君の魔術具も凄く高いわよ」

「これもですか」


俺は金のない。

魔術具は買えないので中級魔法に頼る事ができない。

初級魔法を工夫して威力を増すしかないのだ。


現代化学を使えば、対策が無い事もない。

が、色々と問題があった。

例えば、空気を酸素と窒素に分解し、酸素を集めれば、爆発力を上げる事ができる。

分解する時間をどうやって稼ぐ?

それに・・・・・・・・・・・・出来る限り遠くで分解をやってみる。

5m位が限界だった。

上がった威力で自分にダメージを受けそうだ。

やはり使えない。


俺は鞄からおやつのミルクレープ擬きを取り出した。

収納魔法の目途も立たない。

流石の賢者も収納魔法を知らなかった。

ゲームでは当り前だが、現実には難しい。

魔力云々という問題ではない。


小さなミルクレープを囓り付く。

うん、薄い甘みで美味しい。

砂糖は高すぎるので、芋水あめを代用した。

木の魔法を応用すると時間が大幅に短縮できたのだ。

この発見は大きい。


生地に使った小麦粉は畑で取れた自前品だ。

やはり、菜の花畑の後は小麦がいいか?

そろそろ決めないといけない。

小麦があれば、うどんやパスタなどが作れる。

夢が広がる。


この世界にはうどんやパスタがすでにあるが割と高い。

米、麦、豆、キビ、アワの順だ。

米が高いのは、この土地で取れないからだ。

寒冷地用に品種改良すれば、採れると思うのだが、そんな事をする人は居ないのだろうか?

我が家がキビやアワを潰したオートミールのような食事が主流だ。

金のある貴族様は狡い。


もう一口に囓り付く。

物足りないが、残りは一口分だ。

何層のミルクレープを名残惜しく、口に放り込んだ。

今度は何十層のミルクレープを作ろう。

何十層・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それだ!


『ゲートを使ったレールガン擬き』


俺は両手を前に向けて小さなゲートを幾つ並べて、小さなゲートに鉄球を入れた。

シャぃ~~~~~~~~~!

まるで白い稲妻だった。

音は静かでサイレントを装着した銃が風を切り裂くような音がした。

ズゴぉ・・・・・・・・・・・・ズゴゴゴゴゴォォォォォ!

一直線に森を抜けて城壁の壁を撃ち抜いて終わり・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・のハズだったのが、城壁の内部から爆発が起った。

えっ、何が起った?

壁が爆発って何だ?

大きく抉れた城壁の一部が崩れ出す。

意味が判らん。


カン、カン、カン、カン、遠くで緊急事態を知らせる鐘の音がした。

門番の兵が俄に騒がしくなり、大声を上げていた。


『敵襲~、敵襲~、敵襲~!』


ヤバぃ、ヤバぃ、ヤバぃ。

城壁が集まってくる前に逃げよう。

戦略的撤退だ。

ゲート15枚は大失敗だ。

本当に撃ち出せると思っていなかったぞ。

何だ、あの威力は?

ははは、完全に音速を超えていた。

ビー玉くらいの鉄球だぞ。

あはぁ、ヤバぃ~な。


俺は林を疾走しながら頬が緩むのを止められなかった。


【レールガン擬きの加速表】

最初の加速陣を通過すると秒速40cmへ加速し、時速に換算すると時速1.44kmです。


0陣;時速0.72km、

1陣;加速1.44km、

2陣;加速2.88km、

3陣;加速5.76km、

4陣;加速11.52km、

5陣;加速23.04km、

6陣;加速46.08km、

7陣;加速92.16km、

8陣;加速184.32km、

9陣;加速368.64km、

10陣;加速737.28km、

11陣;加速1474.56km、

12陣;加速2949.12km、

13陣;加速5898.45km、

14陣;加速11796.48km、

15陣;加速23592.96km。


15陣を通過した時、音速の秒速340.296mを20倍近くの秒速6553.6m、時速23592.96kmで発射されます。


有名な357マグナムでも442m/s(1591.2km/h)です。


ライフル弾の初速が1600m/s。

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