第25話 天ぷらでワクワク

最後の残り雪が降ると温かい風が吹いて春が来た。

俺も3歳になった。

去年の夏の終わり頃から林派の下の兄が空き地の畑に姿を出すようになり、今では学校を終えると当り前のように顔を出していた。

上の兄は畑の手伝いもせずに熟れた野菜を強奪して行く。

他の奴らは魔法のトラップで対処しているが、上の兄は姉さんに任せている。

トムが逃げてジェリーが追い掛ける光景だ。


「ア~ルの野菜を返せ」

「掴まるかよ」

「ドロボウは駄目」

「アルの物は俺の物だ」

「ア~ルの物は私の物よ」


兄も姉も同じ事を言っている。

俺の物は俺の物だ。

二人の追い駆けっこは日常茶飯事であり、手伝いの農夫も笑みを浮かべている。

学校に通っている子も手伝っている。

但し、新しい子らは責任者が俺ではなく、手伝いの農夫と思っているようだ。

まぁ、いいか。

目立つなと言われているのでそのままにした。

因みに下の兄はちゃんと手伝っている。

下の兄が一番まともに見える。


下の兄が目の色を変えたのは、ククミスを言う果物を食べてからだ。

ククミスはメロンのような果物であり、種を担当官さんから貰って春の半ばに植えた。

夏の終わりに収穫し、手伝いの皆に配ると大評判となった。

下の兄は大量にククミスを育てると張り切っている。

去年食べた後に残った種が沢山残してある。

菜種を収穫してから植える予定だ。


また、畑の拡張も順調だ。

食べきれないほどのククミスを育てても問題ない。

だが、その種を植える前にする事がある。

そうだ、見渡す限りの黄色い花の海が目の前にあった。

一面にバァ~~~っと広がる菜の花畑だ。


花が咲く前に一部は美味しく頂きました。

皆の家で食べきれないほど採取しても広がっている菜の花畑は揺るがない。

空き地の八分の一が菜の花畑になっていた。

我が家がある六区画が二つほどスッポリ入る広さだ。

本当に一面の菜の花畑になっていた。

今年は大量の油が取れるぞ。


 ◇◇◇


この地区は西に高い山々が聳えているので、『かまくら』ができるほど雪が降らない。

その代わりに吹き下ろしの空っ風が粉雪を降らした。

そして、河の一部が凍るほど寒くなる。

菜の花などの寒さに強い種は冬を越す。

定期的に供給されていた野菜が採れなくなった。

芋の料理が毎日続いた。

そこで冷蔵庫の必要性を感じた。

我が家には靴屋以外に倉庫がない。


鳴かぬなら鳴かせて見せようホトトギス。

ないなら造ればいい。

俺は家の下にチマチマと穴を掘ると、アーチ状のトンネルドームを幾つか完成させた。

俺の冬の手仕事だ。

下の兄と姉さんには粘土を用意して壺を作って貰った。

俺が作る方が早いが、姉さんは暇になると俺で遊びたがる。


「姉さん、お願います」

「ア~ルが言うなら仕方ないわ。手伝って上げるわ」

「ありがとうございます」

「当然よ。私はア~ルのお姉ちゃんだもの。シュタも手伝いなさい」

「俺もか?」


完成した壺を最後に手直しして乾燥と硬化の付加を掛けておいた。

こうして中央のドームを物置として利用し、東側を菜種油壺などの倉庫、西側を冬越し用の冷蔵庫に利用する予定だ。

屋根が落ちて、家が無くならないように丈夫に造るのに時間が掛かった。


「アル君、これは何?」

「地下の物置です」

「どうすれば、こんな巨大の物が造れるのよ」

「闇の魔法で穴を掘り、土の魔法で壁を強化しながらドームを広げるので苦労しました」

「苦労したらできるのね」

「地下なので目立っていません」


項垂れた担当官さんからOKオーケーも貰った。

油入れの壺も沢山出来ていた。

完璧だ。

菜の花が黄色い花を咲き、そして、実がなり、種が付いた。

愈々いよいよ、収穫の時だ。

一度に出来ないので少しずつ刈って行く。

風の刃で一気に根元から切ると、子供らがそれを集め、大きな桶に入れて茎を取り除き、さやから種を取り出してゆく。

さやは少し触れるだけで弾け飛んでしまう。


「わぁ、弾けた」

「気にせず、桶の中に落として下さい」

「ア~ルの言う通りにするのよ。判るわね。気合いを入れてやるのよ」

『はい』


皆、姉さんに従う。

誰がボスかよく判っていらっしゃる。

第一回の収穫が終了した。

多少、さやの破片や葉っぱの切れ端が残っているが関係ない。

大きな桶に半分くらいが種で埋まった。

だが、採取した菜種は広さにすれば、家一軒分だ。

まだまだ残っている。


「アル君、これをどうするの?」

「圧縮機があれば、絞って油を取り出します」

「圧縮機は高いのよ」

「やはり高いですか。仕方ありません。林の木を何本か貰っていいですか?」

「一様、何をするのか聞いていい?」

「なんちゃって圧縮機を作ります」


担当官さんが溜息を吐きながら許可をくれた。

だが、目の前にある桶の菜種は魔法で処理する。

なんちゃって圧縮機はカモフラージュだ。

急ぐ事はない。

木の魔法が『火・風・水・土』の四大魔法に数えられない。

その理由は使い勝手が悪いからだ。

主に植物の成長とかに影響する魔法だった。

賢者の世界では長く不思議な魔法と思われてきたらしい。

だがしかし、世界が変われば、見方も変わった。

木の魔法は分子変換の魔法だ。

賢者が現代知識を応用して解明してしまった。


テレビで理科の実験を見て閃いたそうだ。

大気中の窒素ちっそ水素すいそと反応させてアンモニアを作る。

完成したアンモニアを硝酸イオンに変化させ、硝酸イオンにカルシウムイオンと結合させて、硝酸カルシウムを作る。

それを炭酸カリウムと結合させると硝酸カリウムと炭酸カルシウムが完成だ。

硝酸カリウムは硝石と呼ばれる肥料の一種だ。


植物を媒介にするのは、緑の精霊の力を借りて、分子構造の変換した方が効率的なそうだ。

賢者は原理を解明したが、あの世界では実験できなかった。

賢者が悔しがっていた。


「待って、まったく理解できないわ」

「魔術士なら判ると思います。後でわら半紙に書いておきます。説明は魔術士に任せます」

「判ったわ。お願いする」


毎度あり!

魔法陣と詠唱と説明書で銀貨3枚と交換だ。

最近の副収入になっている。

魔術士と担当官さんはお得意様だ。

大切にしよう。


さて、木の魔法は、中級になるとウッドゴーレム、ロックゴーレムなどの魔法へと変化するが、賢者もこの分野が苦手らしく、継承できる知識はないと告白していた。

賢者も万能ではないようだ。


「まず、木の魔法で種の繊維に働きかけて、構造を分解して柔らかくします」

「構造って意味が判らないけど、柔らかくするのね」

「柔らかくなった所で水の魔法の『水切りウォーターカッター』でミキサーします」

「ミキサー?」

「水の刃を回転させて細かく切ると言う意味です」

「アル君。何度も言うけれど魔法って、そんなに便利じゃないのよ。水の刃を回転させるとかできないからね」


もう、うるさいな。

魔法理論になると担当官さんはまるで壊れたラジオだ。

無視しよう。

ともかく菜種を細かく切り裂く。

綺麗にミキシングを終えると、再び、木の魔法で繊維や余計な分子を集める。

集めた分子が重さで自然と下に沈む。

残されたのは水と油だ。

それもしばらく待つと、水と油が分離して二層に分かれた。

油だけを他の桶に移すと完成だ。

手伝った子らに小さな壺に油を入れて手渡した。


「貴方は頑張ったから二個上げるわ」

「ありがとう」

「まだまだ続きがあるわ。明日から頑張った子には沢山上げるから頑張って頂戴」

『はい!』


子供らが元気に返事をした。

俺は壺を1つ運び、姉さんも1つの壺を大事に持っている。

下の兄と担当官さんには2つ運んで貰った。


「アル君。私は手伝いじゃないのよ」

「地下室を他の子に見せる訳に行かないので手伝って下さい」

「も~う、こんな姿を他の人に見られたら・・・・・・・・・・・・」

「下層地区に役人は来ません」

「これでも士官なのよ」

「後で油壺1つと天ぷらのレシピを上げますから我慢して下さい」


三度往復してその日の作業が終わった。

大量の油をGET(ゲット)だぜ。

今日は天ぷらだ。


PS.野菜のかき揚げ天ぷら、美味しゅうございました。

かき揚げを食べたら、エビ天を食べるしかない。

イカ天を食べたい。鳥天が食べたい。

逆に食欲が湧いて収まりません。

河にザニガニでもいないかな?

天つゆも欲しいな。

俺の所為で兄姉が食欲魔に育っているとは気づいていなかった。


なお、担当官さんはお土産の油を持って帰るのを見られて、さぁ大変。

新料理の『天ぷら』のお茶会を開いて誤魔化したとか?

後で苦情を言われました。

知らんがな。

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