第6話 少女の村

 なんで俺がエルフの村のことを知っているのかというと昔に一度だけ助けたことがあるからだ。

 大きな魔物が森に住み着いて、エルフの結界を破壊して村に入って来た。こういう場面に出くわすから勇者なのか、たまたま俺達は森を歩いていた。


 その時はユニコーンも使役してなくて、仲間も野良猫のチェルシーだけだった。

 森を歩いていると悲鳴が聞こえた。森から聞こえる悲鳴って、すべて鳥の声に聞こえるのだ。

 すげぇー鳥が鳴いているなぁ、と思って歩いていたら、「お前は勇者のくせにエルフを助けねぇーのか?」とチェルシーが言った。


「お前これが人の声ってわかっているんだったら早く言えよ」

「どっからどう聞いても人の声だろうが。そして森で聞こえる悲鳴は大抵エルフだ。俺の知識を舐めるな、人間」

「鳥の声にしか聞こえねぇーよ」

「お前の耳が腐ってんじゃねぇーのか」


 そんな会話しつつダッシュで悲鳴が聞こえる方に向かって走った。

 そこにいたのは5つの顔を持つドラゴン。ゴ◯ラの敵で出て来そうな怪獣である。倒した後から知ったけど、そのドラゴンの名前はラドン。


 俺はラドンに踏みつけられそうになっていた母親と幼い娘を助け、安全な場所に2人を置いてからラドンと向き合った。


 エルフの村はすでに半壊していた。

 それから俺達は頑張って、……こういう大きな怪獣が出た時はチェルシーは隠れるから、俺達っていうか、俺1人が頑張って、ラドンを倒した。


 そして壊れた結界を俺が張り直して、←なんで結界を張れたのかというと、目の前に技名のAR表示が出てくるからである、というのは嘘である。なんとなく結界が張れるんじゃないかと思って試してみたら、結界が張れたのだ。


 基本時に俺が使える技・魔法は何となく使えそう、と思ったものは使える。

 空を飛ぶことを鳥が知っているように、穴を掘ることをモグラが知っているように、自分が出来ることは何となくわかった。


 ちなみにエルフの村に貼った結界の効果は外部から見えなくすることである。

 気配も感じないから、場所を知らないと村に入れないのだ。


 めちゃくちゃ久しぶりにエルフの森に入った。お昼なのに木々が太陽を遮断しているせいで視界が少し暗くなる。

 土の匂い。風で葉が揺れる音。虫や動物が隠れている息遣い。生命反応が濃厚になる。


 俺は御者席ぎょしゃせきに座り、手綱を握った。ちなみに御者席というのは運転席のことである。


 魔物の気配を察知すると、たしかに大きな魔物が住み着いている。

 それに森に入った時から2人のエルフに俺達は監視されていた。



 馬車が結界を超えた。

 昔に行った場所だから実はエルフの村に行けるのかな? ってちょっと不安だった。


 10年前に異世界に来てから記憶力が良くなったような気がする。若返ったせいもあるのかな、と思ったけど、たぶん初回限定特典で記憶が良くなっているんだと思う。←初回限定特典ってなんだよ。

 もしエルフの村に行けなかったら物言わぬ彼女に道を教えてもらおう、と思っていた。どうやって聞き出すのかは不明だけど。

 その時になったら考えたらいいや、ぐらいに思っていた。

 

 昔に張った結界は、もう壊れかけていた。

 レベルが低い時に張った結界だから強度が低かったみたいである。


 結界のヒビが、日々の日常の中でビリビリになって結界を壊していくのだ。←韻を踏んでみました。


 結界の中に入ってすぐに2本の矢が飛んで来た。

 森に入った時から俺達のことを監視していた2人のエルフが俺に矢を飛ばして来たのだ。

 もちろん気配を察知していたし、殺気を放ったこともわかっていたので、飛んで来る矢には対応できた。

 もし矢が刺さったとしても俺にダメージを与えることは出来ないけど。


 飛んで来た2本の矢を俺は掴む。

 矢を飛ばす理由もわかっている。自分の家に知らない人が入って来たのだ。そりゃあ矢だって飛ばす。彼等にとっては正当防衛だろう。

 

 俺はユニコーン達を止めた。

 御者席から地面に降りる。

 エルフは木の上で気配を隠しているようだった。

 俺からしたら丸見えである。

 木に隠れたエルフを俺は見た。


 正直に言うと俺のことは覚えていると思った。

 俺やで、とめちゃくちゃ関西弁で伝えたい。

 昔、この村を救った勇者やで。

 でも、そのセリフはダサいので言わないことにする。

 自分のこと覚えていてくれたら嬉しいな、程度で気持ちは収めておく。


「そこにいる2人のエルフさん出て来てください。私は何もしません。街で捕まっていたエルフの少女を連れて来ました」

 私、と一人称を使うのは社会人だからである。

 あんまり見ず知らずの人や社外に対して『僕』とか『俺』とか一人称は使わない。


 それでも2人のエルフは俺に矢を飛ばして来た。

 コチラの言葉を聞かずに、とにかく結界に入って来た者は排除したいのだろう。

 それに完全に俺が勇者であることを覚えていない、あるいは知らないみたいである。残念である。


「私は何もしません。矢を飛ばすのは止めてください」

 飛んで来る矢を掴みながら言った。

「この村にエルフの少女を帰しに来ただけなんです」

 でも俺の言葉は聞いてくれない。


 その時、キャンピングカーの扉から黒髪のエルフの少女が出て来た。

 少女に矢が飛んで行く。

 俺を攻撃していた2人のエルフは、仲間であるはずの少女を狙った。


 俺は瞬間移動で彼女の前に立ち、少女に飛んで来た矢を掴んだ。


 木の上で弓をひく2人のエルフの元へ俺は飛んだ。飛んだというよりもジャンプした。

 あまりにも早すぎて急に目の前に現れたように2人のエルフには見えたんだろう。彼等は驚いていた。

 彼等。2人のエルフは男だった。短髪で金髪の髪。整った顔立ち。木々に溶け込むために作られた緑の服。

 幼いように見える。エルフって見た目じゃ年齢はわからない。でも身長が低かった。

 2人の首根っこを掴み、俺は木の下へ2人を降ろした。


「なぜ攻撃する?」

 と俺は低い声で尋ねた。

 なぜ自分達の仲間の少女を攻撃する? という質問だった。

 彼等は怯えて、何も言わない。

 1人のエルフが震えながら俺に弓をひいた。

 飛ばされた矢を俺は掴んだ。


「お前は誰だ?」と震えながら少年エルフが言う。

「俺はココに君達の仲間を連れて来ただけの者だよ」

 本当は元勇者でこの村を救ったことがあるんやで、と関西弁で伝えたい。

 でも俺の目的はエルフの少女を家に帰すことなのだ。今は自分が元勇者であることはどうでもいい。

「なぜ俺が連れて来たエルフの少女を攻撃する?」

「魔力を失ったエルフは殺さなくちゃいけない」

 少年エルフは涙目で語った。その表情は苦痛に歪んでいる。

「なぜアニーの魔力を奪った」と少年が涙目ながらに叫んだ。

 どうやら彼等は俺がエルフの少女の魔力を奪った犯人だと思っているらしい。


 魔力を失ったエルフは殺さなくちゃいけない、と俺は頭の中で言葉が繰り返した。

 それじゃあエルフの少女をこの村に連れて来てはダメじゃん。ココにいたら彼女が殺されるじゃん。

 エルフの少女がいた場所に振り返った。

 もう、そこには黒髪のエルフはいなかった。

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