第21話 優しい手


 「それにしても奏真さん……」


 風呂上がりに用意したハーブティに口をつけると目の前に座るレヴィアはじっと俺の顔を見ていた。


 「何でこんな雨の中に戻ってきたんですか?」

 「レヴィアが会いたがってたからに決まってるだろ?」


 俺はスマホでレヴィアが送ってきたLIMEのメッセージを見せると送った本人は「うぅ……」と恥ずかしそうな顔をしていた。


 「たしかに送りましたけど……! でもすぐに明日にしてくださいと送りましたよね?」

 

 頬を赤くしながら俺の顔をみるレヴィア。

 

 「そんなの来たっけ?」


 と呟きながらLIMEのメッセージをスライドしていくと


 「あ、来てた」

 「って今気づいたんですか!?」

 「まあな!」

 「もう……!」


 レヴィアは俺にも聞こえるぐらいのため息をついていた。

 メッセージを見てすぐにスマホをライディングジャケットの内ポケットに放り込んで帰る準備をしていたし。


 「そんなに怒るなよ、無事に帰ってきたからいいじゃん」

 「そうですけど……!」


 レヴィアは大きく深呼吸をする。


 「……ものすごく心配したんですから」

 

 と、小さな声で呟いていた。

 やばい、レヴィアの表情とセリフにグッときたんだけど!?



 「それにしてもよかったんですか?」

 

 俺が色々な衝動を我慢していると、レヴィアは俺のコップにハーブティを注いでいた?


 「何が?」

 「杏子さんと、その……お話ししていたんじゃないですか?」

   

 レヴィアは申し訳なさそうな顔をしていた。  


 「それに奏真さんにとって杏子さんは……」

 「杏子とは単なる家族だよ」

 「家族……?」

 「ずっと一緒に住んでいたしな」


 レヴィアは気まずそうな表情をしていた。

 どうやら、昨日モモが余計なことを言ったせいで変な気を使わせてしまったらしい。


 「それに俺にはレヴィアがいるしな!」


 重苦しい雰囲気を打ち消す様に俺はオーバーに言い放つ。

 まあ、事実だしな。


 「それに杏子も彼氏作っててさ、こっちがドン引きするぐらい惚気話しかしないし、まいったぜ!」

 

 俺がマシンガンのごとく話をしている間、レヴィアは何も話さずキョトンとした表情のままだった。


 「だから俺もお返しに、レヴィアとの惚気話をたっぷりしておいた!」


 最後の話を聞いたレヴィアは目を大きく開ける。


 「な、何を言ったんですか!」

 「そりゃあ、レヴィアとの出会いからあったこととか——」


 俺は杏子に話したことを指折り数えながら伝えていく。

 話していくたびに、レヴィアの顔が赤く染まっていった。

 

 「つまりはレヴィアと一緒にいられる毎日が最高ってことを言ったわけなんだが」


 と言ったのはいいが、ちょっと恥ずかしすぎて顔が熱くなってきた。

 それを誤魔化すためにわざとらしくレヴィアに向けてピースサインを向けた。


 「いえーい!……ってどうした?」


 レヴィアは下を向いていた。

 やばい何か怒らすことでも言ったかと不安に感じていると、彼女の顔の下のテーブルにぼつぼつと水の様なものが落ち始めていた。


 「……ってレヴィア、何泣いているんだよ!?」


 下を向いたままレヴィアは泣いていた。最初は声を出していなかったが徐々に苦しそうな声をあげてむせび泣いていた。


 「ちがう……です……つらいとか……!」


 レヴィアは泣きながらも必死に言葉を出そうとしていた


 「悲しいとか……じゃなく……」

 

 レヴィアは顔を上げる。


 「奏真さんに、喜んでもらえて……!」


 最後までいうことはできずまた下を向いて大声を上げて泣き出していた。

 俺は腕を伸ばして、彼女の頭に手を乗せると驚いたのか肩がビクッとしていた。

 黙ったまま俺はレヴィアの頭を撫でる。ふわっとした髪の触り心地がよくてずっと触っていたいと思ってしまう。





 どれくらい経ったのだろうか、ふと部屋にある時計に目をやると良い子も悪い子もとっくに寝てる時間になっていた。

 いつの間にかレヴィアのむせび泣く声が聞こえなくなっていた。その代わり、穏やかな寝息が聞こえてくる。

 

 「泣き疲れて寝ちゃったのか……」


 レヴィアの髪に触れていた手を離す。

 

 「うぅ……ん」


 レヴィアは声をあげると同時にゆっくりを顔を上げる。

 完全に寝ていたのか、完全に覚醒していないようだ


 「悪い、起こしちゃったか……ってこんなところで寝たら風邪ひくぞ」


 俺の言葉にレヴィアはゆっくりと席を立ち、寝室に向かって行った。


 「……大丈夫か?」


 心配なのでレヴィアの後を追う様に彼女の寝室に向かうことにした

 ……言っておくが邪な考えなどないからな!



 寝室に行くとレヴィアは布団をめくって中に入っていった。

 

 「大丈夫だな、それじゃ俺も戻って寝るか」 

 

 部屋を出てドアを閉める。


 「……奏真さん」


 ドアの奥からレヴィアの声が聞こえてきたのでもう一度開けて

 ベッドの方をみると、レヴィアが布団の中からちょこっと顔をだしていた。


 「どうした? もしかして一緒に寝てほしいとか?」


 俺は彼女がいう『如何わしいこと』を考えてそうな声で答える。

 どうせ「ちがいますっ!」と言われると思うけど、怒った彼女の顔をみるのもそれも一興だと思っていたが——


 「——今日は一緒に寝たいです」

 

 予想外の答えが返ってきたことに戸惑ってしまう。


 「ちょ……ちょっとまってくれ、色々と心のとかその他もろもろと用意が」

 「……奏真さんが考えてるようなことじゃないです」


 あっさりと否定された。何で俺の考えてることがわかるんだよ。

 レヴィアは布団で顔を隠すとギリギリ俺の耳に入るぐらいのか細い声で


 「今日は……奏真さんのぬくもりを感じたいんです」


 と呟く。

 その言葉に俺の理性が遠い彼方へと吹き飛びかけていた。

 

 「大きく深呼吸をして……」 

 

 理性を取り戻すために俺はラジオ体操の最後にやる深呼吸をしてからレヴィアの方を向く。


 「しょ、しょうがないなあ……」

 

 断る理由もないのですぐに彼女が待つ布団の中に入って行った。

  

 


 「なぁ……レヴィア?」

 「何でしょうか?」

 「……蛇の生殺しってこういうことを言うと思うんだけど」

 「そうかもしれないですね」 

 「だからさ、俺を助けると思ってさ……」

 「ダメです」

 「まだ何も言ってないじゃん……」


 奏真さんが布団に入ると私はすぐに飼われた猫の様に体を奏真さんに抱きついて目を瞑る。

 すると私の心臓がドクッ……ドクっと激しく動く音が聞こえてくる。

 

 「寝ちゃったのか……」


 奏真さんは残念そうな声を出していた。

 もちろん寝ていないし、そもそも寝ることなんてできそうもなかった。

 会えないと思っていた奏真さんに会うことができな嬉しさと、少しでも彼を信じてあげることができなかった悔いの気持ち……他にもいろんな気持ちが混ざって眠気なんか吹き飛んでしまっていた。


 それに……


 「いった!? 何でつねるんだよ!」

 「防衛反応です」

 「ロボットかよ、ってか起きてるだろ……!?」

 「起きてません……むにゃむにゃ」

 「……誤魔化し方下手すぎだろ」 


 私が寝たとわかった途端、奏真さんの手が頻繁に動き出したので

 全て防ぐとなるとオチオチと寝てなんていられなかった。

 ——意外とそれも楽しいと思えてしまう自分がいる。


 「レヴィア、お願いがあるんだけどさ……」

 「如何わしいことはダメです」

 

 私は目を瞑ったまま答える。


 「さすがに手をすっと同じところに置くのは疲れるし、寝れないんだよ……」


 奏真さんは私に妨害されるたびに動かす手を膝に戻していた。

 薄目をあけて彼の顔を見ると、辛そうな顔をしていた。


 「しょうがないですね……」

 

 私がそう言うと奏真さんは「マジ!?」と喜びの声をあげる。


 「……昨日も言いましたけど、奏真さんに頭を撫でられるの嫌いじゃないですよ」


 もちろん真実。昨日もそうだし、さっきも泣いている時、撫でられた途端気持ちが落ち着いた。

 変な言い方かもしれないけど、気持ちよかった。


 「……わかったよ」


 奏真さんは理解できたようで、片腕を私の頭に乗せる。

 

 「ひゃぅ……」


 思わず変な声がでてしまう。それに心臓の音がさっきよりも激しくなっていた。


 「……って変な声だすなよ、そんな声だされたら理性がふっとぶぞ」


 と奏真さんは笑いながら話していた。


 奏真さんは自分の指に私の髪を絡ませながらゆっくりと手を下ろしていく。それを何度も続けていくうちに私は……


 「……これだけでも軽く理性吹っ飛びそうなんだけど」


 そんなこと言わないでください……!

 わ、私だって……理性を保つのに精一杯なんですから!


 私は今の状況を知られない様にするために彼の体を力強く抱きしめる。






 「えー! 夜中にお兄ちゃん帰っちゃったの!?」

 「そうよ、出来立てホヤホヤの彼女に会いたくなって飛び出して行ったわよ、雨の中」

 

 お姉ちゃんは鼻歌混じりに靴ひもを結んでいた。


 「何でわたしがいるのにあの女のことを!」

 「仕方ないわよ、モモも知っての通り、奏真は一途だからね……よし!」 


 ぎゅっと靴ひもを締めると、立ち上がりバッグを手に取る。


 「何でお姉ちゃんも今日なの? 明日帰るって聞いたけど」

 「夏休みの宿題を早く終わらせなきゃって思ったのよ。 ってかモモちゃんと宿題やってる? 夏休みももうすぐ終わるわよ」

 「せっかくの夏休みを満喫してるのに宿題のことなんて言わないでよ!」


 わたしが答えるとお姉ちゃんはふふっと笑っていた。


 「それじゃ、またねモモ。 今度は奏真に迷惑かけちゃダメだからね」


 お姉ちゃんはスマホの画面の上をスライドさせながら玄関のドアを開けて外へと行ってしまった。

 昨日の強い雨が嘘だったかのごとく、外は雲一つない青空が広がっていた。


 「もうー! お姉ちゃんのバカー! 二度と帰ってくるなー!」


 バタンとドアを勢いよく閉める。

 

 「何でお姉ちゃんもお兄ちゃんも……私から離れて行っちゃうの」


 今までは家に帰れば2人のうちどちらかがいるから、家にいることが楽しかったのに、今は嵐が去ったかのごとく静かだった。


 気分が最悪なので今日は不貞腐れて寝てやる!

 そう思って2階にある自分の部屋に行こうとした時、ふと靴箱の上にあるチラシに目が行った。

 さっきお姉ちゃんが郵便ポストから持ってきたものだった。


 チラシには『入居者募集』とキラキラと装飾された大きな文字で書かれていた。

 

 「そうだ……!」


 そのチラシをとると急いで両親がいるリビングへと走って行った。


==================================


【あとがき】


お読みいただき誠にありがとうございます。

明日もお楽しみに!


■作者の独り言

書いててドキドキしました・・・・

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

読者の皆様に作者から大切なお願いです。


「面白そう」

「続きが気になる」

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