第4話 それが私のレゾン・デートル


 「涼しすぎる……俺もうここからでたくない」


 レヴィアを連れて駅直結のショッピングモールの中に入る。

 外の茹だる暑さをかき消してくれるような涼しい空間になっていた。


 「奏真さん、服をパタパタとさせないでください!」

 

 真夏の太陽が燦々と照らしている外にいて、しかも途中から走ったものだから体中汗だくになっていた。

 この涼しさを早く体に染み込ませたいため、Tシャツを豪快に捲りあげてからばたつかせていたのだが、後ろにいたレヴィアに怒られてしまう。


 「大丈夫だって、誰も見てないから平気だって」

 「私が気になるんです!」

 

 レヴィアは俺を睨むような顔で見ていた。

 ……これ以上やるとレヴィアの期限を損ねてしまいそうなので、やめておこう


 「で、まずはどこに行きたいんだ?」


 何事もなかったかのように入り口付近にあるフロア案内板の前に立つ。

 レヴィアは「もう……」と言いたそうな顔で俺の横に立って案内板を見ていた。


 「そうですね、食料品は多くなっちゃうので最後にして、まずはここにいきたいです!」


 レヴィアは指で差していたのは『いのさわ書店』と書かれた箇所。


 「……これって本屋だっけ?」

 「はい! この前読み終わったので新しいの欲しいんです!」


 レヴィアは目を輝かせながら答えていた。

 そういえばゲームでレヴィアが本を読んでいる姿を何度か見かけことを思い出す。

 何を読んでるのか聞くこともなければ教えてくれることもなかったが。


 場所を見ると『3F』の枠の中に書かれていた。

 たしか今いるのが2階だからエスカレーターでいけばすぐだろう


 「俺も見ている漫画が発売してるし、ちょうどいいな!」


 そう言って俺が先導して案内板の真後ろの上りエスカレーターへ向かっていった。



 「えーっと……文学作品っと」


 本屋はエスカレーターで3階にあがった真横にあり、中に入るとレヴィアが検索機の前に立ち、画面をタップしていた。

 レヴィアが探しているのは芸術性に重点をおいた純文学の本。

 気になって横から見ているが画面に映し出されているのは表紙もさながらタイトルからして堅苦しそうなものばかりだった。


 ……漫画やアニメとかライトノベルを読んでいる俺には無縁の物だ

 

 「見たいのが、奥みたいですので行ってきますね」


 レヴィアは自分の欲しいものがある方向を指差していた。

 

 「わかった、俺はこの辺にいると思うから」

 「わかりました!」


 レヴィアは嬉しそうな表情のまま店内の奥に向かっていった。


 「俺は漫画っと……」


 辺りを見渡して『少年コミック』と書かれたプレートが貼ってある場所へと歩いていく。


 「あったあった、って最後の1冊か危なかった……」


 目的の本をとり、レジに向かっていった。


 「お買い上げありがとうございます! またどうぞお越しください」


 レジで清算を済ませ、丁寧に頭を下げられながらレジカウンターを後にする。周りを見てみるがレヴィアの姿はなかった。

 

 「しょうがない行ってみるか……」


 奥に進んでいくと参考書やビジネス書と自分とは無縁の本ばかりが並んであった。さらに進むと文庫のコーナーになっていた。

 文庫と言っても、ライトノベルのような気軽に読める物ではなく国語の教科書に載ってそうな固い文章で綴られた作品ばかりだった。

 そのためか、人はあまり多くなかったので目的の人物を探すのに苦労することはなかった。


 レヴィアは本を一心に手に取った本を見ているようで、俺が近づいているにも関わらずこちらに気づく様子もなかった。


 「何かいいの見つけたのか?」

 「ひゃっ!?」


 本に夢中になっているレヴィアの後ろに立って声をかけると突拍子もない声をあげるとすぐに俺の方を向いていた。


 「そ、奏真さん、驚かさないでください……!」

 「いやいや、普通に声かけただけだろ?」

 「むぅ……そうですけど」


 バツが悪そうな顔をしながらレヴィアは持っていた本を閉じる。


 「どんな内容の本なんだ?」 

 

 彼女が持っている本を指差しながら聞くと……


 「人間に恋をした精霊と男の子の恋愛模様を描いた恋愛小説なんです! 精霊の方は禁忌を破って男の子のために尽くすんですが——」

  

 あまりみることのない興奮気味のレヴィアが饒舌に本の内容を喋り出していた。どうやら本のことになると、熱くなってしまう性格のようだ。

 登場人物の行動についての考察や感想などずっと話していた。


 「この本買ってきますね」

 「い、いってらっしゃい……」


 しばらく一人でずっと話していたが、終わると本を持ってレジの方へ向かっていった。


 「……レヴィアに本のことを聞くのはやめておこう」



 購入した本の内容が面白かったのか、清算を終えたレヴィアは笑顔で入り口付近で待っていた俺の元にやってきた。


 「お待たせしました!」

 「次はどこにいくんだ?」

 「あのお店に行きたいです!」


 レヴィアが差した場所は女性向けのアパレルショップ。

 ここからでも女性向けの服が見えていた。

 

 「洋服があまりないので今のうちに買っておきたいので!」


 そう告げると同時にアパレルショップの方に進んでいくレヴィア 

 その後ろを追いかけていくが、入り口で足が止まってしまう。

 

 店の中にいる大半が女性だけという状況でいくらレヴィアがいるとはいえ、さすがに場違いにもほどがある。


 「あれ、奏真さん? 中に入らないんですか?」

 

 俺の心情などわかるはずもないレヴィアは俺に声をかけてくる


 「いや、外で待ってるよ、俺のことは気にしないでゆっくり楽しんでくれ!」

 「え、は、はい! わかりました……」


 不思議そうな表情のままレヴィアは店の中に戻っていった。



 「……全然帰ってこねえ」


 店の外で待つこと1時間ほど。

 レヴィアが戻ってくる気配は全くなかった。

 

 「女が服を選ぶのが時間かかるってマンガだけの話じゃないのか……」

 

 店の隣にある自販機で買ったペットボトルの中身が空になっていることに気づき、自販機の横にあるゴミ箱へ捨てに行き、店の前に戻るがレヴィアの姿はなかった。


 ズボンのポケットからスマホを取り出して待とうと思っていると……

 

 「あれー、大神先輩じゃん!」

 「あ、ほんとだー」


 俺の呼ぶ声が聞こえたので目の前を見ると、あどけなさがたっぷり残った幼顔の女が2人立っていた。

 ……顔の割には随分と露出した格好している。


 「何だおまえらか、中学生がこんなところにいていいのかよ?」


 俺に声をかけたのは中学の時の部活の後輩たちだった。


 「大神先輩言ってることがオッサンくさいよ!」

 「生活指導の先生みたいなこと言ってるー!」

 「オッサンとかいうな、お前らと対して年齢かわんないだろ……!」

 

 俺が返した言葉にケラケラと笑い出す後輩2人


 「大神先輩、イケメンなのにそんなこと言ったら台無しじゃん」

 「おまえらまだそれを言うのか……」

 「みんな言ってるよ、大神先輩はテニス部で一番のイケメンだって」

   

 中学3年間テニス部に所属していた。

 俺は全く思っていないが、当時の後輩たちにはよくイケメンだと言われていた。


 「だって、いろんな子からコクられてたじゃん」

 「でも全部フったんでしょ?」

 

 事実だから否定する気はないが。

 中学の時は、よく告白されていたさ……

 主に年下に。

 そして、俺は同年代以上にフラれるという。


 「ってかさ、先輩こんなところで何してるの?」

 「もしかしてデート?」

 「あ、もしかして逆ナン待ち?」

 「……んなわけあるか」 


 そもそも逆ナンなんて現実にありえるのか?


 「暇だったらデートしようよー先輩」

 「あー! どさくさに紛れて逆ナンしてる!ずーるーいー!」

 

 何か目の前で後輩2人でどちらが俺とデートするか話し合い始めていた。言っとくがどっちが勝っても俺はその気はないからな!? 


 「こうなったら公平にじゃんけんで決めよう」

 「おっけー、それじゃいくよ!」


 2人の「じゃんけん」の声と一緒に互い手を差し出し

 勝敗が決まろうとしていた時……

 

 「奏真さん、お待たせしました!」


 俺の後ろから待ちかねた声が聞こえた。

 声のする方に振り向くと店のロゴが入った大きな袋を持ったレヴィアの姿があった。


 「……やっと戻ってきたよ、長かったあ」

 「すみません、お店の人がたくさんすすめてくるので……」


 話をしていると次第にレヴィアの視線は俺の後ろにいる後輩2人へ


 「……奏真さん、後ろのお二人は?」

 「あぁ、中学の時の後輩、さっきバッタリと会ったんだよ」

 「そうですか……」


 何か、声のトーンもそうだけど視線が怖いんだけど……?

 ……何かゲームのイベントであったけどもしかして修羅場に発展!? 


 「ち、ちが……! 本当に偶然会っただけだから!」


 悪くはないはずなのに、何故か弁明をする俺

 レヴィアはゆっくりと俺に近づく。


 ——レヴィアは袋をもっていない手を俺の腕に絡ませる。


 「奏真さん、それじゃ帰りましょう」


 そう言って、出口の方に向かって歩き出す。

 俺は後輩2人に手を振りながら引っ張られるようにその場を後にする



 「うそ、大神先輩に彼女がいるなんて……!」

 「見た感じ同年代な感じだよね……!」

 

 後輩2人はお互いの顔を見ながらスマホを取り出す。


 「「LIMEで共有しないと!」」


 


 

 「レヴィア、どうしたんだよ? さっきから様子が変だぞ」

 

 レヴィアに腕を組まれてから引っ張られるようにショッピングモールを出て、来た道を黙々と歩いていた。

 

 「奏真さんは——」

 

 立ち止まると同時に今にも消えそうな微かな声で呟く

 

 「…え?」


 「——奏真さんは私だけの人なんです!」 


 今度は大きな声ではっきりと話し出す。


 「お、おう……」


 嬉しいやら驚いた……そんな感情が一瞬に俺の体にまとわりついて

 どうしようもない返答しかできなかった。

 ……口元がピクピクしてるからたぶんニヤつきながらだと思う。


 ただ、言った本人も恥ずかしかったのか、顔はわからないが横から見える耳が真っ赤になっていた。


 こういう時、何て言えばいいのかわからず戸惑う俺。

 その時、ある場所から雰囲気を和ませる音が聞こえた。


 ぐぅ〜……と俺のお腹から。


 それを聞いた俺たちは一斉に笑い出した。

 スマホの画面を見たらお昼をとっくに過ぎている時間だって。


 「コンビニでお昼買っていきましょうか」

 「そ、そうだな!」


 再び歩き出したレヴィア。

 まだ、腕を組んだままなので引っ張られるように歩く俺だった。


 「奏真さんの気持ちが離れたら……私は消えてしまうから」

 

 レヴィアは誰にも聞こえることのない微かな声でそう呟いていた。



==================================


【あとがき】


お読みいただき誠にありがとうございます。


明日もお楽しみに!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

読者の皆様に作者から大切なお願いです。


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