彼女と彼女と彼女

「探しました」


「何の用だ?」


男と男!切羽詰まっているようで、焦りを抱えながら話してくる。


「絶望と切望が合わさらなければならない」


「そこを何とか」


「さすれば、記憶の一部が残り続ける」


「それでもいいです!葵と生きていきたい。それしかいらない」


「俺もだ!葵しかいらない」


「そうか!ならば、仕方ない」


そう言って私は、それを手渡した。結局は、夫婦であるしかないのだ。どちらも同じ。願っている幸せを手に入れたのに、結局夫なしでは、生きていけなかったか…。この夫婦も同じだ!


私は、何千と夢を叶えたけれど…。結局、皆幸せになれなかった。だけど、不思議と元通りの夫婦になると幸せになるのだ。


結局は、夫婦でその願いを叶えたいだけに過ぎないのだという事がわかった。相手を嫌いになったわけじゃなく、相手と一緒にいたいからなわけだ。

夫が別人に変わると、その願いは必要ないわけだ。


結局、隣の芝生を覗いて手に入れても、自分の芝生に戻りたくなるわけだ。


人間は、いつまで経ってもないものねだりを繰り返す。どこかで、足るを知らなければいけないのだ。


小さな頃から、何でも手に入る環境にあったら何でも手に入る気がして、何も欲しいものを手に入れられなかったら意地でも欲しくなる。


いつまで経っても、欲しい欲しいを繰り返す。お金があろうがなかろうが、幸せな人は世の中に沢山いる。なのに、それを見ようとも知ろうともしない。


入れ替わって初めて、誰かの世界を見ようとし、誰かの世界を知ろうとする。そしたらいつも皆、口々にこう言うのだ。「夫に会いたい」「妻に会いたい」と…。結局は、前の暮らしが幸せだったのだ。


切望した彼女もそう。


絶望した彼女もそう。


切望した彼女は、すぐに夫が必要だと気づいていたけれど…。絶望した彼女も実は、奥底で感じていた。私は、それを知っている。

でも、入れ替わらなければ望みを手に入れられなかった。結局は、夫婦は一生離れないのだ。選んだ相手がよっぽどの極悪人でない限り一緒にいるのだ。




「死ぬのは、およしなさい」


私は、新しいターゲットに声をかける。


絶望と切望が重なりあった時、それは発動する。


そして、ターゲットは新しい幸せを手に入れる筈だ!


死ぬなら生きる方がいいのではないだろうか?


別の人間としてでも、生きるのが…。


私は、彼女を見つめていた。


「隣の芝生何て覗かなければ、その青さを知る事はない。それと同時に、その青の中に入った所で…。あなたは、幸せなのだろうか?人なんて、取り繕って幸せを演じてるに過ぎないのだ!本当は、叩かれてるかも知れない。本当は、罵りあっているかも知れない。本当は、お金に困ってるかも知れない。本当の事なんて、夫婦にしかわからない。なのに、表面を見てそっちに行きたいと願い、そっちが幸せなのだと絶望する。結局は、あなたが変わらなければあなたの住む世界もやってくる人も変わらない事を知らないだけだ」


私は、さっきの彼女を見ながら長い長い独り言を話していた。


さあー、次は誰を助けてあげようかな?


ズルズルと重い老婆の体を引きずらなければいけない。


まだ、私は二十歳!


私もかつて、絶望した一人だった。


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