第26話 捨てる娘あれば拾う娘あり。
放課後の帰り道。
俺は繁華街のカラオケ屋に立ち寄った。
学校で女子に告白するも玉砕してしまった心を癒やそうと思ったのだ。
ちなみに友人どもは冷やかししかしないため、ひとりである。
店内のカウンターで店員さんに話しかける。
すると。
「ただいま大変混み合っていまして、20分ほどお待ちいただくことになりますが」
20分か。
まあそのくらいなら我慢しよう。
30分以上待たされるようなら諦めたかもしれない。
俺は、会計を済ませて、ロビーに備え付けられた椅子に座った。
すこしして、自動ドアがガァァっと機械音を立てて開いた。
制服姿の女の子が入ってくる。
彼女も歌いに来たのだろう。
俺の前を通り過ぎて、カウンターへ。
「――1時間ほどお待ちいただくことに――」
「なんだってそんなに待たされるのよ!」
「――大変混み合って――」
「ふっざけんじゃないわよ!」
弱々しい店員の声は、店内BGMにかき消されてちょっと聞き取りづらい。
だが、怒りを爆発させている女の子の声は、はっきりと聞こえた。
女の子に引き下がる様子はないようだ。
店員に向かって、割り込ませろだの、他の客を放り出せだのと無茶なことを言っている。
このままでは、女の子が店内からつまみ出されるのも時間の問題だろう。しかし、そんな胸くそ悪い光景を見て、調子をさらに下げるのもごめんだ。
ひとりでしんみり歌うつもりだったが、やかましい女の子と一緒もいいかと、俺は思って、席を立ち彼女の肩を軽く叩いた。
「なあ」
「なによあんた。あたしを止める気? はっ、そんなの無駄だからね」
「いやちげえよ。俺は15分後くらいに呼ばれることになってるんだが、寂しいことにひとりでな」
「だからなんだってのよ」
「あのさ。よければ一緒に歌わないか?」
「……なにそれ。口説いてるの?」
まあそう思われても仕方がないか。
でも、一方的に勘違いされているのも気分がよくない。
だからあえて彼女の意向に沿ってみる。
「さっきからきみの会話を聞いていたんだがすごく綺麗な声だと思ってさ。ぜひとも聴いてみたくなったんだよ」
「ふ、ふん。それくらいお世辞だってわかるんだからね!」
まんざらでもない様子。
もうひと押し。
「それに俺、学校で振られたばっかりでさ。きみみたいな可愛い子になぐさめてもらえたら復活できそうなんだよ……」
「な、なぐさめっ!? あ、あ、あんた。あたしに何をさせようと!」
「? 普通に失恋ソングでも聴いてもらって気を紛らわせたいだけだが?」
「勘違いするような言い方をしないでよね……あーもうびっくりしたじゃない」
勘違いってどんなだろう?
俺にはさっぱり見当がつかない。
俺が腕を組んで首をかしげていると、肩を横からパンっと叩かれた。
「わかったわよ。あんたと一緒のルームで我慢してあげる」
「よろしく頼むよ。歌姫」
「う、歌姫!?」
今度は俺の胸をパンパンと平手で叩いてくる女の子。
あはは、可愛いやつめ。
よくよく近くで見ると、外見もかなりよかった。荒々しい口調の割にどこか気品のある顔立ち。どうしてそう感じたのかはよくわからないが、まつげが長いのは確か。それも化粧ではない自然なものだ。モデルとかやっていても不思議ではない。
「ふ、ふんっ! そこまで言われたら仕方がないわね。あたしの美声をたっぷり聴かせてあげるわ!」
「期待してるよ」
こうして俺たちは一時の間、互いの声で語らい合った。
初対面の印象はよかったとは言いがたいが、なかなかどうして歌ってみると声質が似ていることに気づいてしまった。デュエットのハモり具合がすごかった。ふたりでもうノリノリ。
退室時間になる頃には連絡先を交換する仲になっていた。振られたショックはどこへやら。俺はとても晴れやかな気持ちで、彼女の隣を歩きながらカラオケ屋を去ったのだった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます