第9話 メガネで見えたもの。

「本日よりお世話になります、高崎千夏です。よろしくお願いします」


 朝のホームルーム。

 突然の転校生にクラスメイトたちが湧いた。


 小柄な体格で、黒髪は床につきそうなほど長い。童顔なところがまた愛らしい。

 一言で表すのなら、妖精ってところだろう。

 それよりも気になるのが……。


「ねえねえ、その眼鏡って度はどうなってるの!?」


「ばっか、すげえ目が悪いに決まってんだろ!」


「ちょっとかけさせてくれない!?」


 どいつもこいつも。

 びん底眼鏡がそこまで珍しいか。


「みんな静かに! 高崎さんは目が悪いから前の席になってもらう。だから、そこの列だが一個ずつ後ろにずれてくれ」


 担任の教諭が指示を飛ばした。


 ぶうぶう文句を垂れるクラスメイトたち。

 そんななかで俺はひとり興味なく、一限目にむけて教科書をちら見していた。


 のだが……。


 待て待て、その列が後ろにずれていくとなると隣は。


「よ、よろしくね……」


 弱々しい声音で新しい隣人はつぶやいた。

 初の顔合わせで緊張しているだけではなさそうだ。


「このクラスって眼鏡が珍しいんですかね……」

「ん? まあ他にかけているやつはほぼいないからな」

「変かな?」

「古風な感じではあると思う」


 あう……、と彼女はうつむいてしまった。


「でも俺は好きだな」

「そう、ですか!?」


 彼女がやってくるまでは、俺が唯一の『眼鏡くん』だったわけだし。

 おちょくられる気持ちもわかる。


 だから。

 俺は担任の先生に見つからないよう、床を這うように腕を伸ばし、握手を求める。

 すると、マシュマロに似た感触がついてきたのだった。

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