第6話 納得のいかないお話

「あなた……憑かれていますよ……」


 学校の帰り道。

 昼と夜が曖昧になる時間帯に、道端でそんなことを言われた。


 相手は制服の上から黒いローブのようなものを羽織っている。

 女子高生だろうか。


「あなた……憑かれていますよ……」


 同じことを言われた。

 正直、不気味な女の子だ。


「えっと……何に?」


 俺が聞いた。


「あなたが殺してしまった者に、です……」

「はぁっ!?」


 こっちとら普通の高校生だ。

 殺しなんてまったく脳裏になかったので、大声をあげてしまった。


「あなたは前世で女性を殺害し、自らも命を絶っているのです……」

「そんな妄想を信じる馬鹿がどこにいる」

「証拠はあります……」

「どこに?」


 ちょっと失礼しますよ、と女の子は言った。

 こめかみの辺りを両手で押さえられた。

 なんというか……得体の知れないものが循環している感じ。


「そのまま、そのまま……もうすぐ見えてきますよ」

「お?」


 何かぼんやり脳内に映し出される感覚があった。

 縁側で俺は女性と隣同士に座り合い、ひなたぼっこをしているようだ。


「見えましたか?」

「おう。でも誰だこいつ」

「顔をよく見てください」

「顔、顔ね」


 そういやよく見ていなかった。

 ……あれ?


「おわかりになりましたか?」

「まさか……この女性はきみか?」


 目の前にある顔に向かって意識が戻り、聞いてみた。


「そうです。私は重い病にかかり、治療の手立てもなく苦しんでいました」

「そ、それで?」

「愛する夫から、『お前を楽にしてやる。俺も後から追う。安心しろ』と言われ、私は首を絞められて殺されました」

「お、おう……」


 女の子は両の手を俺のこめかみから離して、少し距離をとった。


 いかん、足が震える。

 何をされるかわかったもんじゃない!


「あなたは生まれつき手首に大きな傷跡のようなものがあるのではありませんか?」

「見たのか? いや、制服で隠れているはずだし、包帯も取れていないぞ……」

「ふふふ……それこそあなたが前世で命を絶った証なのです」

「信じられると思うか!」


 女の子は片手で口を隠す仕草をし。


「ようやく出会えたのです。さあ……前世の約束を果たしてください……」

「や、約束? そんなもん知らんしらん! 無効だ!」

「無効にできるというのなら試してみてください」

「約束とやらがなんなのかもわからねえのにできるか!」

「では、おとなしく、私についてきてください……」

「くっ」


 俺は、何もしていないというのに、なんとも不気味な女の子と知り合いになってしまったのだった。

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