ギャルゲーの主人公に転生したはいいけど、選択肢がエロゲ(ギャグ)のそれ。

深谷花びら大回転

こんな選択肢……俺は知らないぞ!?

〝俺の名前は鏑城かぶらぎ雅也まさや。何の変哲もない極々普通の高校2年生だ〟…………なんて冒頭だったか。


 姿見に映っている『灰色の恋模様』の主人公――鏑城雅也が、何故か俺の意思に従って表情を変える。


 俺の知っている鏑城はもっとこう、世の中の汚さを知らない純情無垢な顔をしていた気がするが……中の人が違うだけでこうも腐るとは。まったく、同じ高校生だってのに。


 どうやら俺はギャルゲーの主人公になってしまったようだ。実感はまだない……だからこの結論に辿り着くのも早いことでもう6度目だ。未だに信じられない。


 プレイ中、一枚絵として何度も目にした主人公の自室。


 自分の思うがままに動く主人公。


 夢ならとっとと覚めてくれと思いっきりつねった右の頬はまだ痛む。



「……現実の俺はなにやってんだか」



 作中では終始〝優しさ〟が先行していた鏑城が、正確の悪そうな目つきで鏡の向こうから俺を睨んでくる。



「まーーーさーーーやーーーッ!」



 と、聞き覚えのある声が俺の耳に届いてくる。


 ドタバタと元気そのものみたいな足音が近づいてきている。俺は姿見との睨めっこをやめ、部屋のドアへと顔を向けた。



「起きてーーッ! もう朝だよッ! ――――ってあれ? 珍し、もう起きてたの?」



 勢いよく開かれたドアの先――明朗めいろう快活かいかつという言葉が似合う女子を目にして、懐かしさが蘇る。


 腰の辺りまで伸びた繊細な銀髪に翡翠ひすい色の瞳、フィクションならではの風体はまさしく『灰色の恋模様』のヒロインの一人、粟島あわじま琥珀こはくだ。


 ディスプレイ越しの住人、作中の登場キャラとこうして対面している現状に驚いている自分と、奥底に眠っていた当時の記憶が溢れ感慨深さに浸る自分がいる。


 俺が初めて手に取ったギャルゲーが『灰色の恋模様』だった。それまでは興味があったけども中々踏み出せなかったジャンルだった。どうしても抵抗感がつきまとってきてたのだ。


 画面越しの二次絵を見つめてニヤニヤしている自分を想像してしまったりもしていた。普通の人生というレールから外れてしまいそうな気すらした…………なにが普通なのかも説明できない分際で、強迫観念に駆られたようにただただ曖昧な普通にこだわっていた。


 偏見があったのだ。まあそれも、中学生の浅い視野からなるもので、結果的には興味が勝ったのだが。


 罪悪感を覚えながらプレイしていたのも初めの内だけ、俺はあれよあれよと『灰色の恋模様』に嵌っていった。それはもう、寝る暇も惜しむほどに。


 馬鹿に思われるかもしれないけれど、当時の俺は眼前にいる彼女に心底惚れていた。琥珀ルートの最後がまた泣けるんだ。


 これはこれでいいのでは? とさえ思えてくる。いや、思えてくるじゃなくてもはや乗り気だ。開き直りの精神で行こうじゃないか。



「……ん? 雅也ったらどうしちゃったのさ。黙っちゃって」



 無反応のままいた俺に琥珀は訝しげな視線を向けてくる。



「え? ああいや、別に。なんでもないよ」


「ふ~ん……で、さっきの続きだけど、雅也がちゃんと起きてるなんて珍しいね。どうしちゃったの? どこかで頭打っちゃった?」



 俺の知っている序盤の会話とは違うが、無理はない。なにせ鏑城雅也の生活はだらしなさの塊で遅刻の常習犯だからな。


 本来であれば寝ている雅也を琥珀が叩き起こすところから始まる。が、この時点で起床していればそりゃ対応も変わってっくるわけで。


 さて、どうしたものか。雅也然として振る舞うべきか、もしくは俺のままでいくか。



「んん? まただんまり……ほんとにどしちゃったの?」



 いかんいかん、迷っている時間ははないか。怪しむ琥珀を見て俺は素のままでいこうと決め、口を開こうとした――――――その時だった。





 1・「どうしても日の出を拝みたかったんだ。君と比べてどちらが美しいかを知る為にね……結果、君の方が美しいとわかったよ。あぁ……琥珀と付き合えたならどれだけ幸せなことか」とさりげなく告白する。






 2・「どうしても日の出に拝ませたかったんだよ。俺の自慰行為をね……結果、朝の陽光を浴びてのオ〇ニーが言葉に表せないほど気持ちい良いことがわかったよ。あぁん……琥珀の穴を突けたのならどれだけ幸せなことか」と大胆に暴露する。






 琥珀含めた目に見える景色の全てが薄暗くなり、空間に2つの文章とカウントダウンを意味しているのであろう数字が突如として発現したのだ。

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