第04話 劇薬注意でござる
少し時間
「これはどうした事だ」
上忍筆頭であるアカヘビが目を見開いて驚いていた。
医務室に並んでいるのはメソメソと泣いているニンジャたち。
皆シーツをかけられているが、何故か股間がテントのように張っている。
「はっ。この者たちはアルザの去り際に手裏剣を放ち、返り討ちにされました」
「そんな事はわかる。一体何故このような」
何故、揃いも揃って
彼らは「屈辱!」だの「情けなさすぎて死にたい」だの「ムスコが言うことを聞かん坊」だの喚いていた。
「アルザは手裏剣を全て投げ返し、彼らの
「!!」
アカヘビはつつ、と頬に汗を流す。
呼吸法と組み合わせることでニンジャは爆発的な魔力を生み出すのだが、ここに深いダメージがあると魔力は暴走し、体の至る所に障害が出てしまうのである。動くはずのものが動かず、動かないはずのものが動くようにである。
「やはり本性を隠していたか。流石はイザヨイの名を継いだ男」
アルザに彼らをけしかけたのは、何を隠そうこのアカヘビであった。
ここで股間にテントを張っている皆は「リア充死すべし慈悲はない」と息巻いていた精鋭たち。首を持ってくるかと思えばまさかの全員返り討ち。しかも生きながら
「いかがいたしましょう。アルザを追いますか?」
「今は放っておけ。それよりもヤツの工房だ。先代イザヨイが――そう、『
アカヘビはため息をついて医務室を出ると、急いで
秘伝は工房の中にある。アルザが持っていないのは確認済みだ。私物は服と何の
秘伝は巻物か、それとも魔法の羊皮紙か。
――ようやくここまで来たとアカヘビは思う。
イザヨイたらしめる何かを求めるニンジャは多い。このアカヘビもその一人である。
ライラが弟子を拾ったとこのギルドに住み込み数年。常にその背を狙ってきたが隙が無い。寄宿舎
残った弟子は従順なのか嘘なのか、強いのか弱いのか実力の底が見えない。ただ、着々と下忍たちの信頼を得ていたのには
しかも、信頼を得ていたのは時には男を
どうやって
正面からあたってもこちらも無事では済まない。
盗みに入ったところで
ならば選ぶは
アカヘビはニンジャギルド本部への虚偽報告や追放の体裁を整えに整え、反論も出来ないほどに追放理由をでっちあげる。
他の上忍を抱き込み、万全の状態で評議会を開いてようやく、秘伝のあるだろう工房とアルザを引き
最後のような抵抗は意外ではあったが、もはや
さあイザヨイに至る力を我が手に――
「ぎゃあああ!」
寄宿舎は三階建ての木造建築。一階と二階にニンジャたちの私室が並び、三階が工房があつまる。その奥の
部屋の前では何人ものニンジャ達が倒れていた。しかも様子がおかしい。倒れる誰も彼もが、石像のような灰色の肌になっている。
「何事だ!」
「石化の毒が! アルザの工房には毒が詰まっています!」
「バカな。秘伝はどうした!?」
「ぐあああ! 筆頭……た、助けて……」
工房から出てきたニンジャが、足から少しずつ石になっていく。
アカヘビを見て助けを求め伸ばしたその腕は、すぐに石像の如く固まった。
「こ、これはバジリスクの魔眼の!? だが、
その時、コロコロと石になったニンジャから転がるもの。
目玉だ。
それを見てアカヘビはバッと口元を腕で塞いだ。
「罠!? 全員待避だ! 誰か薬師の班を呼んでこい! ここは封鎖する!」
急いで階段を下るアカヘビ。その顔は怒りで歪んでいた。
「おのれ
ちなみに先程からアカヘビの言う
なのでアカヘビはこれを罠だと決めつけているが――
実を言うと
部屋の中で「なんじゃこれ?」とビンを開けたまま固まる下忍がそれを物語っていた。
◆
「あー、バジリスクの目玉。あと二日くらい月で清めていたら、肩こりに効く薬になってたのにな」
ガッカリと肩を落とすアルザ。
忍工房には素材を月で清めたり塩で漬けていたりと作成途中のものが多かった。中でも石化で有名な
素材自体が危険な分、薬になると劇的に効くようで、女ニンジャの中でも巨乳な者たちがコッソリとアルザに頼み込んでいた。
「誰もビン開けないよな……ニンジャならちゃんと処理できるか」
もう過ぎたことだと、アルザは考えるのをやめた。一方でニンジャギルドは
そんなアルザは、ただいまソロでダンジョン入りをしている。
第一階層はベタに石造りの
恐らくは墓地のような場所。所々に
一体誰のもので、どこの国の様式なのか。
驚くべき事に発見されて数百年もの間、何もわかっていない。
ただ一つわかっているのは――
「やった! 宝箱が出たぞ!」
どこかの冒険者がモンスターを倒したらしい。
その魂が冒険者の念を媒介に形を変え、宝となって
これこそがダンジョンの恩恵の一つ。モンスターの魂が何故か宝や金に変わるのだ。
もちろんダンジョンの外ではこうはいかない。オマケに死体はそのままなので、モンスターの素材が取れる。
都合の良いことに、こちらが死んでも身体さえ無事ならば魂は天に昇る事がない。割高ではあるが、教会で
深く入れば入るほどその願望の
ハイリスクハイリターンかつ不可思議な場所。
死ぬ思いをすることもあるが、金さえ有ればワンチャン生き返ることもできる。それがダンジョンであった。
だからだろうか。無理をして大怪我を負う者や行方不明者が後を絶えない。入り口には「自重が命を救う!」と書かれた立て札もあるが、誰も見ていなかった。
「うーん、第一階層は通り過ぎるだけだったけど……よく見れば、
まるで
視線を落とせば、すぐそこに高価な
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