第9話 元パーティーの言い分

 俺は公営ギルドに様子を伺うため顔を出していた。

 中を見渡したが、以前よりも活気が出ている気がした。

 しかも強そうなパーティーがゴロゴロといる。


「ロック、こっちはどうだ? 運営に支障は出ていないか?」

「見てのとおりだぜ。競合するどころか、むしろ栄えてきた。お前のエリクサーの噂が外に広がってな、あちこちからAランクの冒険者がここに足を運ぶようになったんだ」

「お互いに栄えてきたってことか」


 俺の運営している私設ギルドも忙しくなってきている。

 強くなったソフィアの噂が広まり、新人冒険者たちが集まるようになったのだ。

 主に訓練をさせて簡単な依頼をこなすのが主な内容だが、それでも繁盛するようになって嬉しい。


「そういえば、お前が来る少し前に元メンバーが騒ぎを起こしてな」

「ハルトたちか……」

「ま、あいつら今回の依頼で失敗するだろうし、もうここには来れなくなると思うんだが」


 ロックの言っていることがすぐに理解できた。


「そうか、あいつら五回連続で失敗か。そんなに無茶をしたのか?」

「ジャイアントモンキーの討伐だったかな。つまり、お前の力がなきゃBランクの依頼もこなせない奴らだったってことだ」

「ソフィアみたいにコツコツと倒していけば強く成れたかもしれないのにな……」


 ロックと話していると噂をすればだ。

 俺は気づかれる前にこっそりと隠れた。

 あまり関わりたくない。


「おい……すぐにハルトの手当てをしてほしい!」

 グルドが真剣な表情でロックに頼み込んでいる。一方、ロックはハルトの容態を見て呆れているようだ。


「派手にやられたな。お前ら自業自得って言葉知ってるか? 他の奴から依頼を横取りするからこうなるんだ」

「いいからマスター! 治して! これには訳があるのよ!」

「ほう……だがこんな酷い状態じゃあ治療で治せねーよ。最近ウチで発売することになった高級品のエリクサーを使わねーとこりゃ無理だろうな」

「いくらなんだ!?」

「金貨十枚だ」


 グルドとミネスは愕然としているようだ。

 あいつらなら今まで俺と一緒に稼いでいた分があるから決して払えない額ではないはず。

 金はどこへいったんだ?


「そんなに持ってないわ……毎回討伐の打ち上げと遊びで使ってしまったもの……」

「頼むからなんとかしてくれ!」

「ま、理由はなんであれ見殺しにはできねーな……後払いだぞ」


 エリクサー瓶をハルトの口元に注いでいった。


「う……ここは……」

「ギルドよ。さ、これから猛抗議の時間よ」


 ミネスはロックにギロリと睨みつけている。

 コイツら治してもらっておいて何のつもりだ。


「前のキングモンキーもそうだったけど、今回のジャイアントモンキー……あれ変異種よ! あんなのSランクじゃなきゃ倒せないわよ!」

「あ!?」

「おかしいじゃないの。私たちが負けること自体が! Aランクなのよ!」


 そうか、やはりこいつら俺が錬金していたエリクサーの効果を理解していなかったようだ。

 何度も説明していたが納得していなかったもんな。

 むしろポーションが全部このような効果があると思い込んでいたらしいから仕方ないかもしれないが。


「やれやれ……今飲んだエリクサー、誰が作ったか知ってんのか?」

「そうか、俺はエリクサーを飲んで復活できたのか……。だが何故かポーションのような気もする……」

「ほう、味覚は覚えているのか。これを錬金したのはレオンだ」

「「「は!?」」」


 ロックが俺の方をジロリと見てきた。

 出ていくしかないか……。


「久しぶりだな」

「レオン、お前エリクサーを作っていたのか!?」

「これはあくまでポーションだ。だが俺は何度もお前らにエリクサーのような効果があると言ってきたはずだが、頑なに栄養剤としか言ってこなかったよな」


 別にごまかしていたわけではないし、全く信じてくれていなかっただけなのだ。

 三人とも呆然としている。


「じゃ、じゃあジャイアントモンキーを倒せなかったのは……」

「このポーションにはステータスを倍加させる効果がある。これも教えたが信じていなかっただろう」


「信じなかったお前たちの責任だ。このエリクサー代はきっちり払ってもらうし今回で五回連続の任務失敗なんだ。ギルドカードは返却してもらう」


 ハルトは俺を物凄い顔で睨みつけてきた。

「いや、信じないぞ! そもそもお前が後方で何もしてこなかったからこういう結果になったんだ! 責任を取れ!」


「何の責任だ? お前たちのパーティーにいらないと言われたから従ったまでだが」

「ふざけるな!」


 ハルトが襲ってきた。

 まぁコイツの性格だったらそうなるだろうな。

 だが……。


「な……何故受け止められる……!?」

「確かにエリクサーの効果でお前のステータスは倍増している。だが、俺もこうなることを予想し、挨拶する前に予め飲んでいた。これなら対等だろ?」

「ふざけるな! 後方で何も役にも立たなかったレオンが……」


 いちいち説明するのも面倒だ。

 拳を払い除けて倒れた拍子にハルトは残念な格好になった。


 ロックがすかさずハルトを取り押さえた。

「おいおい、ギルドマスターであるレオンに手を出すのはご法度だよなぁ。ここまで騒ぎを起こせばどうなるかわかってやってたんだろうな?」

「ギルドマスターだと!?」

「レオンは今や私設のギルドマスターだぞ。そんなことも知らなかったとはな。冒険者同士の争いには目を瞑るが、運営側に手を出したお前たちは永久追放となる」


 ハルトは必死に捕まった体を振り解こうとしているが、エリクサーを飲んでいるにも関わらずロックには敵わないようだ。

 さすがロックが元Sランク冒険者だけのことはある。

 もしくはハルトたちが弱体化してしまったのかもしれないな。


 三人はギルド会員剥奪どころか、罪に問われる始末となった。

 もう二度と冒険者家業はできないだろう。

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