第2話 カルネ村の惨状

 デミウルゴスと共にカルネ村に転移し、アインズは周囲の光景に驚いた。

 死屍累々たる死体のほとんどが人間のものだった。

 辺境の村であり、モンスターに襲われることを回避するための高い防塁が焼け焦げている。


 物見台も倒され、射かけたのだろう矢のほとんどが木造の民家に突き立っている。

 アインズは空間からお面を取り出し、顔にかぶせた。通称『嫉妬マスク』だ。さすがにそろそろ素顔でもいいのではないかという気がしたが、カルネ村ではずっとお面をつけていたので、もはや習慣となっている。


「あ、あなたは……」


 村人だろう。アインズは、どこかで見たような記憶がある若い女が、半壊した民家の影から呟くのが聞こえた。


「どこかで会ったか?」

「い、いいえ。ただ、この村には、救世主様の像がありますので……あの……アインズ・ウール・ゴウン様でしょうか?」


「救世主様か……」

「まさに、その通りかと」


 背後で嬉しそうな声を出すデミウルゴスは置いておき、アインズは目の前の女に話しかける。


「お前の名は?」

「ブリタと申します」


 聞いたかもしれない。まあ、忘れていてもいいだろう。それほど親しいわけではないのは、さっきからの態度で明らかだ。


「村長に会いたい」

「はい。すぐに呼んできます」

「どこにいる?」


「今は、家だと思います」

「わかった。少し、村の様子を見てから行く。先に知らせておいてくれ」

「はいっ」


 ブリタと名乗った女が走っていく。


「アインズ様、気になることでもございましたか?」


 デミウルゴスは、アインズの態度が不思議だったのだろう。アインズの興味を引いたものが何かがわからなかったのだ。デミウルゴスは優秀だが、他の守護者同様、自らが強すぎるがために、見落としがちなものがある。


「ああ。この村は、私が最初に人間と出会った村だ。ゴブリンやオーガと共存し始めていたから、人間の兵士に簡単に滅ぼされはしないだろうが、あの数は多すぎる。ゴブリン将軍の角笛を授けたが、それだけであれだけの人間を殺せるものかと思ってな」


「確かに……どれだけのゴブリンがいれば……ということですか」

「そうだ。ルブスレギナの報告では、ゴブリンの数は十数匹だということだったからな。人間の死体は数千もある」


 アインズは村の外に向かって歩き出す。

 半壊した門を出た時、小さな姿が目の前に飛び出した。

 小さく、緑色をしたゴブリンだが、普通のゴブリンではない。

 立派な服に、頭にはきらびやかな頭巾をかぶり、手にふわふわした扇を持っている。


「どなたのご来訪かと思いましたが……おそらくは、噂に聞く魔導王陛下でしょうか」


 羽扇を持ったゴブリンは、静かに腰を折った。


「ああ。アインズ・ウール・ゴウンだ。お前は?」

「エンリ将軍閣下の配下、ゴブリン軍師でございます」

「……ゴブリン軍師か……軍はどこだ?」


 アインズは、軍師というぐらいだから、軍を率いているのだろう。と解釈して言ってみた。ゴブリン軍師とはなんだと大声で問いたかったが、背後にデミウルゴスがいるために聞くこともできなかった。

 守護者の前で、自分の無知は出したくなかったのだ。


「はい。エンリ将軍閣下の命で、村の安全を確認するため、近くの森をしらみつぶしにしております」

「アインズ様、先ほどから出ているエンリ将軍閣下というのは、かつてアインズ様が助けられた人間でしょうか」


「……おそらくな。私も、将軍になったとは聞いていないが、この村の村長になっていたはずだ」


 背後からこっそり聞いたデミウルゴスに気を使って、アインズも振り向かずに答えたので、知者である悪魔がどんな表情をしているのかはわからない。アインズはゴブリン軍師と話を続けた。


「お前たちは、角笛で呼ばれたのだな?」

「はい。その通りでございます」

「この村を襲った人間の兵士を殺したのも、お前たちか?」


「その前に、激しい戦闘がありました。呼ばれてすぐに駆けつけは致しましたが、村人にも、先任隊の同胞にも被害を出してしまったようです」

「それは仕方のないことだが……では、召喚したエンリ将軍に、これからも仕えるのだな?」


 重要なことだ。角笛で召喚されたゴブリンは強い、らしい。ユグドラシル時代では省みもされなかった弱兵だが、監視役の戦闘メイド、プレアデスの一人ルプスレギナの報告では、集団戦を巧みにこなし、トロールゾンビすら倒して見せたという。


 ふつう、トロールに遭遇したゴブリンは逃げ惑い、蹂躙されるものだ。

 それが、この村にとどまり、エンリ・エモットに仕えるというのなら、まさに一大勢力になり得るのだ。


「はい。エンリ将軍閣下にお仕えするのが、我らが存在意義ですので、そのつもりです」


 どこかで聞いたような言葉だ、とアインズ思い、いま背後にいる悪魔から聞いたのだと思いだす。


「ならば、この地はお前たち……いや、エンリ将軍に任せてもよさそうだな。ああ……呼びに行かせたつもりは無かったのだが、あちらから来てくれたようだ」


 ブリタという女に伝言を頼んだが、待ちきれずに迎えに出てきてくれたようだった。村の中から、以前と変わらない汚れた服を着た村娘が走って出てきた。


「この地を……お任せいただける?」


 ゴブリン軍師は、言葉をかみしめるかのようにゆっくりと発言した。仕えるエンリ将軍が走ってきているのに、そちらに視線を軽く向けるだけだ。それだけ、重要なことだと理解しているのだ。

 軍師を名乗るのは、伊達ではないのだろうとアインズは思った。


「大事な話だ。将軍殿と一緒に話そうではないか」

「はっ」


 ゴブリン軍師が腰を折ったとき、当のエンリ村長がアインズの前で停止した。


「ア、 アインズ様……わたし、わたし……また、やっちゃいました」


 泣きだした。アインズは驚く。村を守ったのだ。ゴブリンの軍勢を召喚したのだ。何を泣くことがあるのか。


「ど、どうした?」

「アインズ様から頂いた……角笛、使っちゃいました」

「よいのだ。そのために渡したのだから」


「で、でも、あんな高価なもの……弁償できません……」

「一度渡した物を、買いとれとは言わないさ。そんなに高価なものか?」


 この世界でのマジックアイテムの価値を、アインズはいまだに掴みかねている。ゴブリンを召喚するというと、どうでもいい品でしかないように思えるが、軍勢を召喚したというのなら、それなりの価値があるのだろうか。


「エ・ランテルで鑑定してもらったら……金貨数千枚だって……」


 確かに、それは多い。ちょっともったいなかったかと、アインズは思う。デミウルゴスの作戦、通称『ゲヘナ』が成功した今、ナザリックに金銭面での不安はないが、少し前まではこの世界の金貨が足りなくて頭を抱えていたのだ。


 ゴブリン将軍の角笛は山ほどある。だが、売りさばいて、ゴブリン軍勢があちこちに発生されても……困りはしない。


「アインズ様、賠償させるべきかと」


 デミウルゴスが囁く。まあ、お前はそう言うだろうと思いながら、アインズはエンリとゴブリン軍師に視線を向ける。


 ゴブリン軍師の顔色はわからなかったが、エンリは青い顔をしていた。突如、アインズの脳裡にひらめいた。何も、賠償をエンリにさせなくてもいい。そもそも、そのためにこの村に来たのだ。


「そうだな。村の損害、村に軍を送りつけた行為そのものに対して、そこにゴブリン将軍の角笛の代金を上乗せして、王国に請求することにしよう。そのうち、ゴブリン将軍の角笛の代金分を私に渡してくれれば、残りは村のために使うといい」


 エンリはぱっと明るい表情になった。高価なマジックアイテムを消費してしまったことを気に病んでいたのだろうか。だが、ゴブリン軍師は顔を曇らせた。


「素直に応じるでしょうか」

「応じさせるさ」


 アインズがデミウルゴスを見る。デミウルゴスは、任せてくれと言わんばかりに深く礼をした。


 ※


 カルネ村を訪れたアインズとデミウルゴスは、村長のエンリと召喚されたゴブリン軍師に案内されて、戦場の痕を見て回った。

 激しい戦闘と同時に、いかに村人が鍛えてきたか、先任隊と現在では呼ばれている19人のゴブリントループがどれほど勇敢に戦ったか、十分に理解できた。


 先任隊の19人のうち、生き残ったのはゴブリン隊長ジュゲム以下12人であり、7人が死亡した。

 村のほぼ中央に掘られた穴に、村人と一緒に並べられている。その他、トブの大森林から助けを求めて転居してきたゴブリンやオーガの死体もあった。


 掘られた穴、並んだ死体の傍に、ゴブリントループの隊長ジュゲムが立っていた。エンリの姿を見つけ、頭を下げる。


「姐さん、葬儀はいつでもできますが……そちらは……アインズ・ウール・ゴウン様では?」


 激しい戦いを潜り抜けたと聞いていたが、既に完治しているのは、魔法を使って治療したのだろう。アインズは片手を上げた。


「ああ……済まないな。我が国の戦いに、巻き込まれた結果になって」


 アインズは死者たちの前に立ち、頭を下げた。慌てたのはエンリである。


「ち、違います。ア、アインズ様が来てくださらなければ、騎士たちが来た時に、村は皆殺しになっていました。アインズ様には感謝しかありません。どうか、頭を下げるようなことはしないでください」


「……そうか。しかし、ゴブリン殿、呼び出されたゴブリンは強い。埋葬しなくても、復活の魔法に耐えられるかもしれないが」


「それは、お断りさせていただきます。ありがたい話ですが。俺たちは、エンリの姐さんを守るために存在しています。そのために戦って、死んだんです。本望でしょう。それに……復活の魔法は、生命力を削るって聞きます。姐さんに世話になって、生き返って……それで弱くなっていたら……逆に、どうしてそのまま死なせてくれなかったんだって、怒るでしょうよ」


「わかった。私がここにいては、村人も気を使うだろう。村長殿の家に行っている方がいいと思うが」

「はい。ご案内します。ゴブリン軍師さん、お葬式の準備をお願いします」

「心得ました、エンリ将軍閣下」


 エンリは、『将軍閣下』と呼ばれて少し恥ずかしそうだった。

 アインズは、『気持ちは解る』と言いたかったのを、ぐっとこらえた。


「アインズ様、被害の査定でしたら、おおよそ終わっております」

「さすがだ、デミウルゴス。だが、しばし待て」

「はっ」


 声をかけてきた悪魔にアインズが命じると、当の悪魔であるデミウルゴスは恭しく礼をする。


「この村に、まだご用があるのか……さて、アインズ様のことだ、何かお考えなのだろうが……ううむ……」


 独り言だろうが、アインズの耳まで聞こえてきた。本気で悩んでいるらしいデミウルゴスだが、たまにはこういうことも有りだろうと思い、アインズは放っておくことにした。

 デミウルゴスを従え、アインズは村長の家に向かった。


 ※


 村長の家で出迎えてくれたのは、エンリの妹ネム・エモットと、ンフィーレア・バレアレだった。

 アインズを見て無邪気に喜んでいるネムの頭を撫でながら、アインズはンフィーレアに尋ねた。ンフィーレアはエンリの恋人に収まっているが、本来は命を助けられたアインズの所有物となった身である。魔法薬の研究をさせており、ナザリック強化計画の一端を担う存在だ。


「研究は、あまり捗っていないようだな」

「すいません」


「恐れることはない。仕方のないことだ。私がこの村に住むように言ったのだし、この村は、色々とあったようだからな。村長が戻るまでに時間があるだろう。葬儀に出たいかもしれないが、何が起こったか、客観的に話してくれ」

「……はい」


 アインズは、当事者であるエンリやゴブリンたちと同時に、近くで見ていたンフィーレアやネムからも情報を得るべきだと感じた。

 複数から聴取することで、事実が真実に近づくというものだ。


 その話の中で、アインズは何度もおどろくべきことを聞かされた。特に、ゴブリン軍が総勢5000もの大所帯で、エンリを守る側近の者たちは13レッドキャップスだというのだ。


 レッドキャップはアインズも知るレベル43のモンスターで、おそらくこの世界のアダマンタイト級冒険者よりも強い。その他のゴブリンたちも、話を聞く限りレベルは20前後だろうと想像できた。人間の冒険者であれば、ミスリル級に匹敵するだろう者たちが、5000人だという。


「……なるほど」


 話を聞き終わり、アインズは自分の考えに没頭した。といっても、何かを考えていたというわけではない。やることがなくなって、暇になったのだ。

 隣を見ると、デミウルゴスは本気で考えているようだった。なら、任せておけばいいだろう。


 ンフィーレアが緊張して硬くなり、アインズはネムを手招いて遊んでいると、エンリが戻ってきた。ゴブリン軍師と、先任隊のゴブリン隊長ジュゲムをつれている。


「ネム、失礼よ」


 エンリ村長が慌ててネムに手を伸ばした。ネム・エモットは、アインズの膝の上にいた。


「いいや、構わないとも」


 言いながら、アインズはネムを床に下ろす。アインズの股には肉が無いため、骸骨とばれると思い、太ももにクッションを敷いてあった。


「……なるほど、解りました……ようやく……しかし、まさかあの時に、ここまで読まれていたのか」


 ぶつぶつとデミウルゴスが呟いている。

 エンリとジュゲム、ゴブリン軍師がアインズの正面に座る。ネムも姉の真似をして正面に移動した。


「よほど恐ろしい目にあったのだろう。私のことを見て安心できるのであれば、嬉しい限りだ」


 怖がられてばかりいるという自覚があるため、ついそんなことも言ってしまう。エンリが恐縮しながらも前に座るのを見て、アインズはデミウルゴスに視線を向けた。


 デミウルゴスがしばらく考え込んでいたことが、ついに解き明かされたらしい。この優秀な男がどんな結論に至ったのか、聞いてみたくなった。


「では、子細はお前に任せてもいいかな? デミウルゴスよ」

「はっ。アインズ様のお考え、一端でも理解できたと思います。最善を尽くしたいと思います」


 一々さっと立ち上がり、深々と礼をする。誰がどう見て立派な、と見える紳士なだけに、礼をされるアインズはきっと大会社の重役の様に見えるだろう。

 実際には、国王なのであるが。


 アインズはエンリに向き直った。デミウルゴスが再び座ったのを確認して言った。


「デミウルゴスから具体的な話があると思うが……まず……この村に何が起きたのか、ンフィーレア君に聞いた。大変だったようだね」

「……はい。ちょっと大変でした」


 変な言い方だ。言葉としては可笑しいのだろうが、エンリの実感とアインズへの遠慮が言葉をおかしくさせているのだと思うと、却って印象度が上昇した。


「この村を襲撃したことに対する責任と、復興のために必要な費用は、私から王国に要求する。これは、先ほど言った通りだ。その中から、角笛の代金は徴収させてもらう。これで、私たちの間には貸し借り無しとしようじゃないか」


 アインズは笑顔を作ろうとしたが、顔には肉がなく、そもそもお面で隠れている。

 エンリ村長は座ったままぺこりと頭を下げた。


「はい。ありがとうございます」

「できれば、友人としてこれからも頼む」

「はいっ! ありがとうございます」


 アインズの本心だった。エンリのことも、その妹のことも、アインズは出会った当初からは考えられないほど気に入っていた。


 死んだとしても惜しくはないが、死んでほしくはなかった。それに、守護者たちのようにひたすらに平伏されるより、より親しく付き合える人間関係を作っていきたかった。それは無理な願いだと思わなくもないが、挑戦してみてもいいのではないかと考えた。


 エンリの隣で聞いていたゴブリン軍師が羽扇を置いて、まじめな顔をして尋ねた。


「先ほど、魔導王様はこの地を我々に任せるとおっしゃったようですが……」


 まじめな話、アインズは、一国の王であるという責任を少しでも減らしたかった。カルネ村は、支配地にしたエ・ランテルよりナザリックに近い。つまり、カルネ村は魔導国の一部なので、その統治をエンリやゴブリンに丸投げしたいというのが本音なのだ。


 だが、それをして問題はないだろうか。アインズは、先ほどから何やら深く理解しているらしいデミウルゴスに視線を向けた。


「デミウルゴス、出番だ」

「はっ。お心に叶いますよう、努力します。では、ゴブリン軍師殿、不肖このデミウルゴスが話させていただきます」

「よろしくお願いします」


 ゴブリン軍師は、ゴブリンとは思えない理知的な顔をデミウルゴスに向けた。体つきはゴブリンだ。より体が大きく、知恵が回るホブゴブリンではない。そこに奇妙な違和感を覚えつつも、(実際に目の前にいるんだから、仕方ないよなぁ)などと思いながら耳を傾ける。


「まず、この地を任せるということだが……この地というのは、カルネ村のことではない」

「……と申しますと?」

(よく尋ねた。頑張れゴブリン軍師)


 優秀すぎるデミウルゴスの考えることは、アインズにも理解できないことが多いため、必死に食い下がるゴブリン軍師を内心で応援する。


「このカルネ村を北限として、南一帯を領地として支配したまえ」

「よろしいのですか?」

「この辺りは、アインズ様が治める魔導国の領地だ。その一部を、エンリ将軍に譲渡する」


 デミウルゴスは言ってから、アインズをちらりと見た。間違っていないかどうかの確認だろう。

 確かに、5000人のゴブリン軍団をカルネ村だけで維持できるはずがない。もっと広い土地が必要だ。

 アインズは頷き返す。


「領地として与える。つまり、魔導国の貴族に叙せられるということでしょうか?」


 間違いなくそうだろうとアインズが思ったことを、ゴブリン軍師は尋ねる。隣でエンリが青い顔をしている。アインズは、(「わかるよ」)と言いたかったが、我慢する。デミウルゴスは、首を振った。


(違うの?)


「この地より南を、エンリ女王を頂くゴブリン王国としたまえ。君たちは周辺各国よりも精強な軍勢を従えている。さらに、繁殖力の強いゴブリンや、ゴブリンを友とするオーガも受け入れている。エンリ将軍を慕って大陸中からゴブリンやオーガが集まってくるだろうからね」


「……魔導国から、独立せよと?」

「もちろん」

「属国ではなく?」


「アインズ様はおっしゃられた。友達付き合いとしよう。同盟国でもない。そうだね、友好国といったところだ」

「カルネ村から南、すべてでしょうか?」


 ゴブリン将軍の問いに答える前に、デミウルゴスは再びアインズを見た。アインズは、デミウルゴスの狙いがわからなかった。せっかく魔導国を建国したというのに、さっそく領土を割譲してしまって、いいのだろうか。


(南……南? スイレン法国か……)

「東の境界線は必要だろう。だが、もともと明確な境界があるわけではないのだ。増えていくゴブリンの数に従って、徐々に南下すればいい。どこまでを領土とするのかは、その都度相談しよう」


 ゴブリン軍師はアインズを直視した。アインズはいたたまれなくなった。エンリに視線を向ける。エンリは歯をがちがちと鳴らしていた。

 アインズの視線に気づいたのか、エンリが身を乗り出す。


「あ、あの、アインズ様……わたし、そんな……王だなんて。わたしはただの村娘なんですよ」


「以前はそうだった。だが、今は違うさ。不安があるのはわかる。少し、話そう。デミウルゴス、ここは任せる」

「はっ」


 アインズは立ち上がった。エンリにも立つよう促し、外に出る扉に向かう。


「さあ、エンリ王よ……失礼、エンリ女王と言うべきか」

「や、やめて……はぁ。わかりました」


 受け入れた。アインズの手が導くまま、アインズが自ら開けた扉に身を入れる。


 後のことをデミウルゴスに任せ、アインズは部屋を後にした。

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