第12話 消えゆく家族の絆~Sideヴェーデル伯爵家~

 ヴェーデル伯爵は朝食後、自室に戻ろうと廊下を歩いていた。


「たくっ! 金庫の金がなくなったせいで夜も眠れん」


 イライラを募らせながら、自室のドアに手をかけたとき、外から何やら騒がしい声が聞こえてきた。

 不思議に思ったヴェーデル伯爵は玄関のほうに向かってみる。

 すると、執事の一人が貴婦人と揉めており大きな声をあげていた。


「うるさいぞ、一体どうしたのだ」

「だ、旦那様っ?!」


 執事の言葉を聞いて、憤慨していた貴婦人はヴェーデル伯爵に詰め寄る。


「あなたがヴェーデル伯爵かしら?」

「ええ」

「ちょうどいいわ、伯爵夫人はいらっしゃるかしら?」

「妻でしょうか……おりますが、お茶会のお誘いでしょうか?」


 顔を赤くさせて怒っている様子にもかかわらず、呑気な質問を返すヴェーデル伯爵。

 その返答に顔をひくつかせてさらに怒りを募らせながら、貴婦人は言う。



「あなたのとこの夫人とうちの旦那が不倫をしているのよっ!!!」



 その言葉を聞いて初めて事の重大さを理解したのか、はたまた思考が停止したのかヴェーデル伯爵は口をあんぐり開けて目を見開いて言った。



「なんだとおおおおおおーーーーー!!!」



 それから貴婦人から不倫の証拠を聞き出し、ヴェーデル伯爵は必ず謝罪に向かうと言って部屋に戻った。

 そんなことはつゆ知らず、ヴェーデル伯爵夫人は夫の呼び出しにルンルン気分で向かう。


「まあ、いきなり呼び出すなんてジュエリーの一つでもくださるのかしら?」


 そういって夫人はドアを開けると、執務机に座る伯爵の姿があった。


「あなた、どうしたの、珍しいわね?」

「アメリ―」

「なに?」

「これは一体なんだ」

「──っ!」


 机には不倫の証拠としてアメリ―のものと思われるネックレスがあった。

 アメリ―は不倫相手の家に行くときになくしたと思っていたが、実は不倫相手の自室のベッドの下から出てきたそうだ。


「これはどういうことか説明できるか?」

「あ、あなた! 違うのよ! これはたまたまお茶会に行ったときにっ」

「確かお茶会だと行って何度かその家に行ったことがあったな。その時か」

「違うわ! そうっ! 具合が悪くなった私を休ませてくださって……」

「妻がいて自室に女を連れ込むバカがどこにいるんだっ!!!!!!!」

「ひぃっ!」


 アメリ―はヴェーデル伯爵の怒鳴り散らす声と机を叩く音に恐怖で思わず尻餅をつく。


「お前は自分がしたことを理解しているのか??!!! 不貞行為だぞ? しかも向こうは聞けば公爵ではないか! それにお前が誘惑したそうだな!?」

「違うわっ! あの人が私に……っ!!」


 その自白ともいえる言葉を聞いて、ヴェーデル伯爵は大きなため息をつく。

 力なく椅子に座る伯爵は机に突っ伏す勢いでうなだれる。


「相手は公爵だ、公爵夫人を侮辱した罪は重い。うちはこれからどうなるか……」

「……謝ればなんとか」

「謝ってすむ問題かっ!!!!!」


 ヴェーデル伯爵が再び大声を出してアメリ―を叱責する。


「お前といい、エミーリアといい、なんてことをしてくれるんだ」



 ヴェーデル伯爵の力なき声は、絶望するアメリ―にもう届いていなかった──

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