第14話 桜が咲く景色

闇落ちとは本来、善人・味方側だった人物が悪人・敵側(ダークサイド)へ落ちることを意味している。


「花は咲かず砕け散る」の小説では桜 彩さくら さやが闇落ちするなんてことはなかったが、作者曰く桜が闇落ちして主人公と対立するプロットは存在していたらしい。


亮に理解されず、拒絶されたあと心が壊れてしまい、信じられるのは自分自身だけだと思うようになり、闇落ち。自己中心的で快楽主義の殺人鬼となってしまう。


それを踏まえてもう一度桜のセリフを聞いてほしい。


「このボクが確信しているならそれでいいじゃないか。誰に理解されななくても私が知っていれば……」


なんかそんな片りんが垣間見える。見える気がする。見えてればいいな…


どした? 話聞こうか?


なんてナンパ師じみたことを言えるわけもなく… 


………………


はあ~そういうさ、原作から離れたことされると困るんだよね~(特大ブーメラン)


「なんだ?いきなり。お前らしくもない…」

「ボクらしくないか…」


いや、誰にも相談せず独断専行し、自爆してる感じは、桜そのものだが。

今まではここまで酷くなかった。桜の自分一人で解決すると言う性格は他人を思いやってしまうがうえに、そして相手の感情をダイレクトに知覚してしまうがうえに出来上がったものだ。


だから、桜の行動にはいつも優しさが含まれている。相手が気付かないように包み隠しているが。


しかし当の桜は顔を俯かせているため、表情は見ることができない。

 

地雷を踏んだか…


まあ、次に飛んでくる言葉は大体予想できる。あれだろ、あれ


「君が思う、ボクらしさって何だい?」


ほらきた、アニメやラノベで見る、ヒロインたちが病んだり、闇落ちする際に言うありきたりの問いかけだな。


部分点は許されない、完答のみが求められるクソ問。All or Nothing

ここで桜を闇落ちさせてみろ。次の瞬間には俺の人生がThe ENDだわ。


「まあ、とりあえず君のその荷物を返してもらってもいいかい?」


こちらに手を出し、有無を言わせぬ圧力をかけて来る。別に返しますとも、ええ。

俺の持っている体操服を返却するように催促される


「ああ、はい」


とりあえず、体操服を渡す。



「え?なんで?なんで?!そんな!……違う!どうして…」

「?どうした?桜」


俺が渡すと、いきなりブツブツと呟き始めた。迷子になった子供のように視線をあっちこっちに彷徨わせて、そしてもう一度俺を視線を向けて来る。


「…ああ、そうか、そうだよね、あはっあははははははあ!!!」


そして、体操服をひっくり返して目を向けたかと思うと、いきなり笑い始めた。こいつ情緒不安定かよ。怖すぎる、人間理解できないことに対しては無条件で恐怖を覚えるようにできているらしい。


何とかして、桜を落ち着けよう…死ぬの嫌だし…


「こんなっ、こんな!またボクは!」

「桜さ~ん。もしも~し?」

「うっぐ、うっ…ごめんっなっさぃ」

「え、ええぇ~…」


そして、笑いが落ち着いたとおもったら今度はいきなり息を詰まらせながら泣き始めた…

もう、どうしろってんだよ…やっぱコイツ情緒不安定だわ(断定)


まあ、桜もつらかったのだろう。46時中敵意を向けられているんだ。自分でも気づかなうちに精神を消耗していてても不思議ではない。

とりあえず皐月の体操服に顔をうずめながら泣いている桜をとりあえず慰めようかな?


なんも理解できてないけど。




§





「つまりボクは人の魔力を感覚で区別することができるのさ」

「それは、なんというか…すげえな」


泣き止んだため、事情を聞き出してみると、どうやら俺をいじめの主犯と勘違いをしていたらしい。


そんな誤解をするなんてやっぱり桜も精神的に来ていたのか。


それにしても、実際にこのレベルの魔素操作をみてみると天才という肩書は過大評価でないということを実感させられる。


「それで英梨の持ち物に君の魔素が付着していたからね。早とちりをしてしまったというわけさ」

「まあ、それはしょうがないな…途中で気づいてくれて助かったよ。でも、なんで誤解が解けたんだ?」

「ああ、君が術式を施行した直後だったからね。何の術式かが薄っすらとだが感じ取ることができた。」


やっぱ、天才なんて肩書は過少評価だわ。使用した術式を判定できるなんて、どんな化け物だよ…


「それにしても、まさか君が気づいていたことに驚いたよ」

「…何のことだ?」

「ここまで来てまだ認めないのかい?君も案外頑固だね…いや、不器用なのかな?」

「…その目を止めろ」


なぜか、生暖かい目で見てくる桜。ニヤニヤとまでは行かないものの、揶揄っていることは理解できた。


そもそもこんな形でバレるとは思いもしなかった。最近は作業じみてきて気が抜けていたのがダメだったと反省する。


「そもそも、彼…霧島くんの行動からして不自然だったと事をしっかりと考察するべきだったかな…」

「は?不自然?」


どういうことだ?霧島クンの行動にさして問題は無かったはずだ。

霧島と皐月は同じバスケ部で面識があるはずだ。それならば助けるという行動は自然ではないのか?


「霧島も何か思うところがあったんじゃないか?

 皐月と同じ部活なんだ、助けようと思うだろ。それに人は成長するものだ。今までの行動と違う事をしてもそんなに不思議ではないんじゃないか?」

「おや? 君は知らなかったんじゃないのかい?」

 

こいつ!鎌をかけたのかよ!いやもう今更感出てるけど…

これからの桜の扱いどうしようかなあ


これからのことについて頭を抱えて考えていた。


「まあ君が知らないのも無理はないか」


俺のそんな姿を見て桜は苦笑した



§



もう隠し通すというか、惚けることも難しいと判断したため、ある程度のことを桜にゲロって理解者になってもらった。


もちろん、友人キャラを成り上げると言った狂気じみたことは言ってない。だが、皐月のことは霧島に一任しているということだけは、伝えておいた。


まあ、桜は納得してない感じだったが、詮索はしないようだった。


そんなことを話しているうちに、生徒を憂鬱へと誘う授業開始のチャイムはとっくに仕事を終え、次は希望のチャイムを鳴らすために準備をしている。


つまりは、要約すると、要点を述べるならば授業を切ったのだ。断じてサボったわけじゃない。


そして流石に授業へと復帰しようと教室へ、休み中、昼夜逆転の生活を送ってしまったため、眠気混じりに会社に向かう新社会人のように足を運ぶ。


大学というモラトリアムを自堕落に過ごし、バイト先のレジ打ちもまともにできない人属人科が、ただただ俺は大卒だと言わんばかりに鼻高々に肩では風を切って歩く


ひょっとしたら社会のゴミ以下、お荷物どころか社会そのものを壊さんとするガン細胞であることを自覚せずに


こうして自分の傷を広げながら歩いていると、後ろから、またもや質問が投げかけられる。


「そういえば、君にボクらしさって何か聞いてなかったと思ってね」

「いや…もういいだろ」

「へーー」

「何ですか?桜さん、そのジト目は…」

「いや、別に?そんな寂しいことをされてしまっては、思わず口が軽くなってしまうと思わないかい?」


つまりこいつは、遠回しに言わなきゃバラすぞと言っているのだ。こんな、脅しをしても聞き出したいことらしい。


「……お前らしいねえ…それは名前が表しているんじゃないか?」

「名前…桜 彩かい?」


この世界の重要ポジにいるヒロインの名前は、すべて花の名前が入っている。

それは性格を表したり、容姿を表していたりと様々だ。

まあ、当たらずとも遠からずではないだろうか?


桜の彩りさくらのいろどり…はあまりにも安直すぎるが…少なくともいろどりの美しさ、そして病気になりやすいことはお前以外も知っていることだろ?少なくとも、俺はその。」


桜が人一倍打たれ弱く、病みやすいことも。

そして春は桜のピンク、秋は紅葉の赤とコロコロと変化するように桜の感情も色鮮やかであることも。


「だから、自分の美しさを、一人占めするなんて、何よりもったいない。………桜はお花見してなんぼだろ…」


恥ずかしくなり、最後は投げやりに言い捨てる。


「なんだい?君はボクのことを桜のように儚いなんていうのかい?」

「儚い?お前はどちらかというと、移り替わりやすいだろ?美しく桜を咲かせたと思ったら、それを散らして、緑の若々しい葉をつけて、そしてその葉っぱさえも色図いて散らす。」

「ころころと変わるお前の表情にそっくりじゃないか。」


未だに、うつむいていて表情は見えないが、闇落ちは食い止められただだろうか?


個人的に桜には幸せになってほしいと思ってるから病まないでほしいところだが…


「ふふ…あはははははは」


これは傑作とばかりに、いきなり笑い出した桜に嫌な予感がビンビンとし始める。


「お前…まさか………」


それは、やっちゃいけないことだろ!?めっちゃ気を使ったじゃんか!!

それ以上に恥ずかしい!!!


「まあでも、悩んでたのは本当の事さ。」

「あ? どういうこと?」


ホントにどっち?俺は揶揄われたのか?揶揄われてないのか?A〇の清楚系は本当に清楚なのか?オタクにやさしいギャルは存在するのか?


とても大事なことだ。


「いや、他人のことが全然わからなくなってしまってね。少し参ってしまったらしい。君を、いじめの主犯と勘違いするくらいには…」

「……」

「こっちは君を疑ってしまってから、これをいうのは少しためらわれるが…君はボクを信じてくれるかい?」


なんだ、そんな質問か…


「ああ、お前は絶対俺のモンブランを食べたと信じている。」


それを聞いた桜はきょとんとした顔になり、そしていきなり笑い出した。


「あはははは、君はいつまでそれを根に持つかな~?本当にボクは食べてないよ。実際に食べていたのは亮のお母さんだよ?」


「マジか!? そうだったんだ…疑って悪い…」


「ああ、そういえばあのモンブランどこで売ってるんだい?もう一度食べてみたいんだが?」

「ああ、それなr……って、やっぱお前食ったんじゃないか!」


それを聞いて、今度はお腹を抱えて、転がりながら笑い出した桜。


こいつ、落ち込んだり、笑ったり忙しいな…


桜の笑いが大分落ち着いてきた後、手を差し伸べて言う。


「俺はお前の等身大を信じるよ。ちゃんとお前を見ているから、安心してくれ」


一瞬、びっくりしたようにこちらを見てくるが、すぐに笑い、


「いひひ、ああ、ちゃんとボクをしっかり見てくれ、せいぜい……ね」


そう言って、亮の手を握って立ち上がった。


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