第12話 お粗末な自作自演

中学2年、桜 彩さくら さやは挫折して、主人公に対して執着するようになるわけだ。


まあ、こんなえぐい目にあったら誰でも心は折れるか…発狂しないだけまだましだな。それが、よりどころとしていた人から必要とされなくなったら、生きる意味を見出せなくなってしまっても仕方ないだろう…


まあこの鬱シナリオに対する対処は簡単で、根っこにある出来事であるいじめをなくせばいい。

え? 言うは易し、成すは難きだって?

いや、だって俺は関係ないもん。だっていじめを解決するのは霧島クンだし…(最低)


俺は、それとなくいじめを霧島君に気付かせ。彼に解決させればいいっしょ。そして、何も気づいていないように振舞えばいい。


なんて完璧なけ、い、か、く。


「亮~、おっす~…お前、髪切ったのか?せっかくならバッサリ切ろよー」

「ああ、霧島か~、余計なお世話だ、ん?朝練してきたのか?おつかれ~」


噂をすればなんとやらである。歩くイケメンこと霧島 きりしま こう君のお出ましである。


「そういえば、亮聞いたよ。記憶喪失になったんだって?大丈夫か?」


うっ。純粋な気持ちがまぶしい…彼を利用するというという罪悪感も相まって…


「だ、ダイジョウブだヨ~」

「なぜ片言?」


君に罪悪感を抱いているからだよとは言えず、乾いた笑いでごまかす。


「しっかりと、学校に来ることができたようだな? 小鳥遊。」


下駄箱で霧島と話をしていると、例の皐月が登校してきたようだ。


「まあな、皐月はバスケのマネージャーか?」

「ああ、朝練があるからな」


せっかくなので、3人そろって教室に向かうということになった。


たわいない話をしながら3人が教室に向かうと、そこは、奇妙な雰囲気に包まれていた。


亮たちが教室に入ると、こちらに目を向けてくるもの、明らかに目をそらすもの。


隣りの二人も明らかに何かが起こって居ることはすぐに気づいたようだ。


「おい、小鳥遊。お前の机見てみろ。」


皐月に言われ、視線を自分の机に向けてみると、


「…わーお随分なことをしてくれたね。」


亮が座るであろう机の上にマジックで、罵詈雑言が書かれていた。ふと隣の霧島を見ていると、目を見開いて驚いていた。よく見てみると、体が小刻みに震えている。


お前、そんな驚き方するのかよ。そんな驚き方するのは漫画の世界だけだっと思ってたわ。 いやそういえばこの世界ラノベの世界だったわ。

…まさかね


亮は霧島の行動に疑問を抱いた。


皐月が俺の机の前に行きいろいろと見ている間、俺は周りを見渡してみる。


やっぱり、こちらを見て笑うもの、目をそらすもの、そして教室に入ってきたいろいろいるな。まさに十人十色だ。


まあ、タイミングよく犯人がびっくりして、顔を青く染める現場には居合わせなかったか…。ぜひどんな反応をするのか見てみたかったが…まあしかし、犯人やいじめを指示した人がその後とる行動はある程度想像できるが…


「小鳥遊、すまない。お前の教科書も水でびしょびしょにされてしまっていた。」

「ん?いや、大丈夫だ。」


考え込んでいる亮を、落ち込んでいると勘違いした皐月が、励ましてくる。


「とりあえず、先生に報告してみよう。あとはそれからだ。」

「そうだな…おまえは冷静なんだな…すまない取り乱した。」

「いや、俺も内心は全然平気じゃない。」


きっとこれがでなければ少なくとも俺も取り乱していただろう


「…まない……」

「ん?」


皐月が何かをつぶやいているようで再び視線を向けると、


「すまない…」


消え入りそうな声で謝っていた。

なんか、こっちが罪悪感を抱くからやめて欲しいんだけど…


「どうしてお前が謝罪するんだ?皐月、何か知っているのか?」


再起動した霧島がそう問い詰めると


「つっ!!、すまない!」


そう言って、教室から出て行ってしまった。いきなりの行動にびっくりした霧島は、困惑した様子でその場に立っていたままだった。


あ!それ、俺もやられたやつだ!


§


「なんで、なんで……」


そう取り乱しているのはいつも、スマイルを欠かさないイケメンこと霧島 光きりしま こうである。


「まあ、落ち着けよ。気が高ぶってるといいことないぞ。」


「亮! お前はいいのかよ!?」


霧島がこんなに取り乱しているは理由がある。このいじめの件について担任に相談を行ったところ、全然取り合ってもらえず、それどころか仕事の邪魔だと追い返されてしまったのだ。


まあ、原作で皐月や桜が担任の先生に相談しなかったとは考えずらい。おそらく相談はしたのだろ。しかし、今の俺らのように取り合ってはもらえなかった。そもそもいじめを黙認していたようなクラス担任だ、こんな対応をされても不思議じゃない。


まあ、これは別にどうでもいいことだ。担任がだめなら、学年主任、校長、教育委員会まで、まだまだ告発すべき人間は残っている。


「霧島、そんなことより考えることがあるんじゃないのか?」

「ん? どういうことだ?」


そうだよ、霧島クン。君にはやるべきことがあるだろう?実際にいじめられている皐月を助けるという重要ミッションが。

俺をいじめから助けようとしたんだ、きっといじめられている人が別の人であっても助けるだろう。そうでなくても、霧島はこの件に首を突っ込んでしまった。


まあ、俺がさせなくさせたんだけど…


やっぱり、友人キャラは主人公のいざこざに巻き込まれるところからスタートするのが鉄板なんだよなあ(愉悦)


そこで問題を解決しようとしない主人公に代わってヒロインやそれに準ずる人を助けることで、主人公の無能さと、友人キャラの有能さを如実に表すのだ!!


「霧島…、今朝の皐月の様子が変だったことには気づいていただろう?なんでだろうね?」

「まあな…まさか皐月がやったといいたいのか?」


とぼけてみたが、霧島の早とちりな思考に苦笑する。


まあ、中学生だし短絡的な思考になるのは仕方がないか…

だがそれでは困る。将来的にはこの俺を超えて、ざまあを執行してくれないと…


「思い出してみろ、俺の机に書かれていた悪口の数々をさ。ビッ〇とか、アバ〇レ、とか男の俺にはなんか不適切じゃないか?」

「…」


少しだけ助け舟を出してみる。なんかここまでくると白々しいな。

霧島はないか考え込んでいるようだ。ここまでくればもう俺はいらないだろう。あとは、いじめの渦中にある皐月を救ってくれ。


さあこっから君が主人公だ!魅せてくれよ、悲劇のヒロインを王子様が救う物語を!!!


ちなみにこの日から霧島クンが話しかけてくることはなかった。


なんでやねん…

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