第2話 現状を把握をして見る

ようやく、先生から俺がなぜ保健室にいるか理由を聞き出した。

事の顛末としては、茶髪ポニーテールの子、名前は皐月英梨さつきえりさんがクラスの友達と会話をしていたところ、隣に座っている男子がいきなり頭を押さえつけて唸るものだから、心配して声を掛けようとしたらしい。


そしたら、鼻血を垂れ流して、血走った目であたりを見回す不審者だったため、思わず手を振りぬいてしまったという。


俺が高校の教室にいた?


なぜ自分が教室にいたのかについて考えを巡らせるも先生の問いかけによって思考が霧散してしまった。


「……あなたあなた、自分の名前とか分かる?」


保健室の先生が不意にそう尋ねてきたため、自分の名前を答える。


「………」

「………」


すると先生と、皐月さんは押し黙る。


あれ? 俺何かやっちゃいました?


「あなた、記憶の混乱が見られるわ、待ってて今ご両親を呼ぶから」


俺の返答を聞くやいなや、そう言い残し、駆け足で保健室を出ていく先生。どうやら俺は記憶喪失扱いとして対処されるらしい。


俺たちはそのまま保健室に取り残されてしまった。


「ねえ? 皐月さん?だっけ。これは…どゆこと?全然状況が把握できないんだけど…」


アイスブレイクの意味を込めてとりあえず、こちらを心配そうに見つめている皐月に話を振ってみる


皐月はこちらを見て、幾許いくばくか逡巡したあと、重々しく口を開いた


「お前は……そうか記憶がないんだったな…」

「え?いやあるけど?何なら、おとといの朝ごはんの内容も思い出せるんだが?!」


一昨日の朝ごはんは、ご飯と納豆だったと声を上げて見るもガンスルー、皐月は憐憫の目を向けてくるのみだった。


いや、なんで道端で干からびているミミズを見るような目で見てくるんだ?


「違う。何度も言うが、お前の名前は小鳥遊 亮だ。」

「た、小鳥遊?」


誰だよ、そのかっこいい名前のやつ。少なくとも俺に隠された名前が!とかそういうのはないぞ?


「そしてこの学校の名前はわかるか?」


皐月は続けざまに聞いてきた。


「いや、わかんないけど…」

「…中学校という教育機関は知っているだろう?この学校の名前は帝都第1魔道大学付属中学校、通称、魔道1中だ。」


皐月は亮の目をしっかり見て話した。二つの真っ赤で透き通るような、宝石で例えるならルビーのように、力強く、それでいてすぐ壊れてしまいそうな目で。


どうやら俺は、異世界に転生?憑依してしまったらしい……はぁぁああああ!!!?





§






突然だが俺が、よく読むラノベの設定で一番好きなものは?と聞かれれば、友人や、悪役に憑依するものと答えるだろう。


オタク歴を重ねるに比例して、性格もねじ曲がり、排水溝のヘドロのようにばっちくなった俺の心に対して、王道ものは俺の存在を浄化してしまう凶悪な兵器になった。


そんな荒んですさんでしまった俺は新しいジャンルに出会ってしまう。


それが、友人や悪役キャラに憑依や転生して、成り上がっていくというものである。


友人ものであれば、ひたむきにコツコツ頑張る姿や、主人公が鈍感で救ってくれない出来事に介入して助けることで、ヒロインが少しづつ友人キャラに引かれていくのだ。


また、悪役モノでは、悪い噂と根のいい主人公とのギャップに惚れていく。その過程で、死ぬはずだったキャラを助けて、惚れられたり、仲間にしていく。そして最終的には周りに認められるのだ。

特に婚約者は主人公の噂と実際の印象にギャップに惚れていく。


そんな風に物語が展開していくのが、もっとも好きでたまらない。


だから異世界転生をしたら、友人や悪役ポジでそんなことがしたかったのに……どうして、どうじでだよー!!!!


どうして主人公に転生してしまったのか!!!!

そんなんじゃつまらないじゃないか!!!(意味不明)

友人キャラが主人公からヒロインを寝〇ってこそ俺の魂は満たされるというのに!!!(手遅れ)


しかも、この憑依した世界は、「花は咲かず砕け散る」というラノベの鬱でまみれた世界、ハッピーエンドなんて存在しない。それがまた亮を発狂させる一因となってしまった。


分からせなどならまだ許容出来る。しかし鬱って何?


誰も幸せになれないじゃん!


友人キャラはどこだ? 誰がヒロインを幸せにするというのか! 誰が俺からヒロインを寝〇ってくれるんだ!(狂気)


もはや寝〇らせという新たな扉が開き始めた今日この頃…そんな亮に神からのくだらない啓示が舞い降りる。いや、舞い降りてしまった…


そうだ!!!!!!

友人にその役をやらせればいいんだ!

いや~俺って天才だわ。ないなら、作ればいい!!はっきりわかんだね。


よし、そうと決まったら当面の目標は友人キャラを作るところから始めようか。


こうして脳みそが破壊されてしまったかわいそうな人間は自分の欲求を叶えるため、最低な理由で友達作りをはじめたのだった。

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