【Living Doll《リビング・ドール》】

日傘差すバイト

第零章――リビング・ドール――

第1話 埋葬

 酷い雨だった。


 土砂降りの雨が降っていた。


 砂地には、雨が溜まり。


 水たまりが映す空は、色のない世界だった。



 誰もが軒下に逃げ込みたいであろう景色に。 

 


 ざくり、ざくり、と音が鳴る。


 


 スコップを突き立て。

 土をかき出し。


 黒い服に身を包んだ幾人かの男たちが。

 懸命に穴を掘っている。

 

  

 作業の傍らには、真っ白な棺が置かれていた。


 死者を入れた、小さな棺桶が。


 埋葬の時を待っていた。



 つまり、これは。

 とある村で行われている、葬儀だった。

 

 その村は。

 土葬が主流で。


 

 それを見守るのは、死者の親族だ。

 

 通例、参列者が居れば、埋葬を手伝うものだが。


 村人の参列は皆無。

 

 たった、2人の親族のみが。


 その死者の、参列者で。

 


 しかして厳かという雰囲気ではない。

 

 傘を差し、雨を防ぎ。


 ただ立って時間を待つ。


 面倒な作業をこなす。 


 そんな親族の二人だった。



 やがて。

 埋葬用の穴を掘り終わった葬儀業者のうち、二人が閉じられていた棺の蓋を開ける。


 棺に入れられていたのは。

 まだ、幼い容貌の美しい少女で。


 肢体は幾つもの花で彩られ。


 傍らには幾重にも鎖で縛られた『箱』が一つ、寄り添っていた。


 葬儀業者の一人が、棺の傍に跪き、告げる。


「これで最期です。彼女に何か言葉をかけてあげてください」


 業務の定型句のような言葉。


 だが。

 参列する二人の男女は、どちらも微動だにしない。

 傘をさしたまま。 


 男は言う。


「いや、良い。続けてくれ。この後、商談の予定があってね、時間が無いんだ」 

 

 女は言う。


「良いから早く閉めて。さっさと埋めて頂戴」


 葬儀業者は。


「そうですか。解りました」


 事務的に答えると。

 

 少女の入った棺を閉じる。


 そうして、小さな棺を、深い穴の中に運び込んだ。


 


 ざくり、ざくり、と音が鳴って。

 棺に土がかけられていく。


 葬儀業者の手によって。


 葬儀業者のみ●●の手によって。


 傍の木に立てかけられた二本のスコップを手にする者は居らず。


 

 結局、葬儀も埋葬も。

 全ては、葬儀業者だけで行われた。



 


 誰一人として。

 死んだ少女のために涙を流すことなく。


 

 


 無情の葬儀が、終わりを告げた――。

  

 


 

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