先輩の下着選び

先輩は寛大かんだいな心で包んでくれた。

こんなダメダメな俺を。


偶然とはいえ、俺は蜜柑先輩とデートしてしまった。よく考えれば、断るという手段もあった。なのに……。


「どうしたの、愁くん。蜜柑とのこと、気にしてるの?」

「……はい。改めて謝罪を。ごめんなさい」


俺はさっきの修羅場を見て感じ――今回の件を浮気同然だったと、ようやく理解した。俺と先輩は『恋人のふり』の関係……だから、恋人・・なんだ。


愚かなことをした。

先輩の気持ちも考えず……なんて身勝手な行動を。


同棲だってする予定じゃないか。


それなのに、俺は……浮かれて青春を追い求めしまった。馬鹿だ、俺は。


「許してあげる。だからもう気にしないで」

「ですが……!」

「十分、反省しているでしょ。それにね、わたしの彼氏は愁くんじゃないと嫌。他の人なんて考えられない」


「……先輩」


あまりの優しさに俺は目が熱くなった。

やばい……涙腺が崩壊しそうだ。


だが耐えた。

これ以上、情けないところを見せるわけにはいかない。



「さあ、気分を変えてどこか行こっか」

「そうですね、先輩の好きな所へついていきます」

「じゃあ、せっかくだから近くのショッピングモールへ行こっか」


決まりだ。

俺は先輩と共に歩き始めた。


気持ちの良い風が吹く。

少し涼しくて爽快感があった。


先輩が自然と手を繋いでくれた。たったそれだけの行為なのに、嬉しくて、嬉しくてたまらなかった。



* * *



ショッピングモール内を歩いていく。

先輩はどこへ行くつもりなんだ?


「先輩、買いたいものとかあるんですか」

「うん、あるよ。愁くんに選んで欲しい」

「俺に? なにを?」

「んー、行けば分かる」

「行けば――ですか」


いったい、なにを買う気なんだろう。

ちょっと楽しみでもある。

こうして柚先輩と本格デートも初めてだし。――そうか。俺はなにげに先輩とデートしているんだ。ならば楽しまないとな。


歩いて向かうと、先輩はある場所で足を止めた。



「ここね」

「……ここって、うわッ!!」



そこには女性ものの下着がズラリと並んでいた。……まさか、俺に選んで欲しいって下着ー!?


「選り取り見取りだよ、愁くん。好きなのを選んでね」

「んなッ!!」


まてまて、ここは男子禁制の絶対聖域サンクチュアリだろう。俺が入った瞬間、ド変態のレッテルを貼られる。お巡りさんのお世話になること間違いなし。死刑判決だ。



「入ろうか」

「――ダメです!」

「あぁ、大丈夫だよ。わたしのそばを離れなければ通報されないって」

「そういう問題では! こんな場所に入れないですよ」

「ちゃんと彼氏ですって言うからさ」

「し、しかしですね……」


だが、俺は連行されてしまった。

先輩に。


……下着売り場に踏み入れる日が来ようとは……。


「ねえねえ、愁くん。これ可愛くない?」

「み、見せつけないでくださいっ!」

「でも、見てくれないと好みの下着にできないよ」

「自分で決めてください……。もういいですか、俺が絶滅します」

「え~、選んでよ。じゃないと、帰れないよ?」


俺が先輩の下着選びをしないと帰れないのか……マジか。くそう、さっさと終わらせて店を出よう。他の人に見られたら……危険が危ない。



「そ、そうですねー…。どの色も似合うと思いますが、いて言うなら……ピンクとか」

「じゃあ、これでいっか。愁くん、持ってて」


「ちょ、先輩……!」

「顔真っ赤だねえ、愁くん」

「当たり前です! ていうか、俺に下着を持たせないでください! これでは変態魔人ですよ!?」


「あははー、愁くん面白い」


先輩は笑って先へ進む。

まだ俺に選んで欲しいらしい。

そ、そんな……。



――なんとか下着を選び終え、俺はお店の外で溜息を吐いた。



「……はぁ」

「お待たせ。って、疲れた顔してどうしたの?」

「そりゃ、こうなりますって。女性店員が俺を不審者扱いして睨んでいましたし……」

「気にしない気にしない。彼氏なんだから大丈夫だって」

「そこが救いです。で、どうします?」

「ここからは任せる」

「俺のターンというわけですね。……分かりました、そうですね」


先輩に今日のお詫びをしたい。

なにかプレゼントを――お、近くに雑貨屋があるじゃないか。なにかアクセサリーでも贈ろう。

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