第12話 仲直り

「ルー!」


私は首を撃ち抜かれたルーに掛けるよ、すぐに煙幕を使って視線を切る。

私が攻撃に気付けなかった事や、傷の状態からしてルーは狙撃されたんだ。


――いや、ルーが狙撃されたんじゃない。

私が狙撃されそうになったのを、ルーが庇ってくれたんだ。

喧嘩して、つい数秒前まで文句を言っていた相手に対して、ルーは身を挺して守ってくれた。

そう考えると、途端に胸が締め付けられるような気分になり、すぐに行動に移す。

途中で拾った閃光手榴弾のピンを抜くと、秒数をしっかり数えた上で煙幕の外へ投げる。


こうすることで、スナイパーは煙幕から飛び出した何かをスコープで覗く。

その瞬間、閃光手榴弾が破裂して激しい光がスコープを通して目に突き刺さる。

そうして怯んだ隙に、安全な場所へ逃げる。


閃光手榴弾が破裂した事を確認すると、すぐにルーを抱えて走り出し、安全な階段を目指す。

全力で廊下を駆け抜け、狙撃できない場所まで来るとすぐに階段へ飛び込み、階段を駆け下りる。

ジャンプを多用して高速で階段を駆け下りると、急いで『ヒュギエイア』を探す。

そして、階段の裏にホコリを被った『ヒュギエイア』を見つけ、すぐに蓋を開いてルーを入れる。


蓋を閉めると『ヒュギエイア』は問題なく動き始め、ルーの首の傷を治し始めた。

その間、私なずっと『ヒュギエイア』にしがみついてルーの事を見つめ続けた。

ルーを失いたくないという気持ちに心を支配され、治療が終わるまでずっと放心状態だった。


しかし、治療が終わって蓋が開くと我に返り、すぐにルーに抱きついた。


「ルー!!」


半泣きになりながらルーに抱きつくと、ルーは優しく抱き返してくれた。


「なんで……なんであんな事したの…?」

「ミドリを守るためだよ」

「なら!あれじゃなくても良かったよね!?あんな…ルーが死ぬかもしれない方法で助けなくても…」

「ミドリ…涙を拭いて」


いつの間にか涙が溢れ出していた私に、ルーはハンカチを渡してくれた。

でも、そんなので涙が止まるわけじゃない。


「ミドリ…こっちに来て」


ルーは階段の裏の扉を指差すと、私と一緒に部屋の中へ入る。

どうやら小さな物置部屋らしく、それなりに広いスペースがあった。

ルーはそこに寝袋を敷くと、私を抱いたまま横になる。


「落ち着いて。私はここだよ」

「うぅ…ルー…」


私がさらに力を入れてルーを抱きしめると、ルーも力いっぱい抱きしめてくれた。


「苦しくない?」 

「ルーが大丈夫なら…苦しくない」

「ふふっ…ちょっと大袈裟じゃない?私達、まだ出会って一ヶ月も経ってないよ?そんな恋人みたいな――「違うの?」―え?」


大袈裟だと笑うルーの顔を睨み、もう一度聞く。


「ルーにとって私は、一体何なの?溜まった性欲を吐き出すためのはけ口?」

「ち、違うよ!」

「じゃあ何?恋人じゃないんでしょ?」

「……」


私が問い詰めると、ルーは口を閉ざして困った顔をする。

私は、優しい答えが欲しくて唇を重ねる。

何故かルーは受け入れてくれなかったから、勝手に唇を弄ぶ。

すると、ルーは手で私の顔を押すと、唇を離した。


「喋れないでしょ?…もしかして、言葉で聞くのが怖い?」

「…うん」

「そっか…でも大丈夫。怖くないよ」


背中を優しく撫で、涙を拭いてくれるルーの表情を見ると、なんだか安心してきた。

ルーはその事を察すると、やさしい口調で話す。


「あの喧嘩で私分かったよ。恋人の関係は私達にはまだ早い」

「……」

「でも、まだ出会って一週間ちょっとなのに、私達はお互いを親友以上に信頼してるよね?」

「……」

「恋人未満・親友以上。今そんな関係で、少しずつ恋人に近付けて行こうよ」

「……」

 

私はルーの言葉に対し、強くルーを抱きしめることで答える。

すると、ルーはニッコリ笑って頭を撫でてくれた。


「甘えん坊だね。そんなに私を失いたくない?」

「…ルーは、私の大切な人。世界で唯一、私を愛してくれた人…だから、失いたくない」


私が泣きそうな顔でそう言うと、ルーは何やら嗜虐的な笑みを浮かべた。 

それが何を意味するかは、簡単に理解できた。

『コンソール・リング』の力で一瞬で服を脱ぐと、ルーに抱き付くのやめて寝袋の中に潜る。

すると、ルーは舌舐めずりをして寝袋に入って来て、煩わしい衣服を脱いだ。


「まずは一歩かな?」

「分かんないよ、そんなの。でも、その内私達は取り返しの付かないくらい離れられなくなる。それまで絶対離さない」

「……楽しみにしてるよ。私達が共依存する関係になるのを」


そう言ってルーは唇を重ね、舌を私の口の中へ入れてくる。

それが始まりになり、階段裏の物置部屋に寝袋が擦れる音と、二人の女の艷やかな声が響いた。









「大体回収出来たかな?」

「そうだね。……それと、こっちに来て」


私はルーに誘われて、暗い部屋のベットに連れて行かれる。

しかし、ルーの顔を殴って止めると、暴走しそうになったルーを叱る。


「まだ早い!午前中だよ?」

「でも…」

「でもとか無いから。キスだけなら良いけど、それ以外はダメ」

「ちぇっ…」


ルーは不貞腐れた顔をしつつも、私に近付いてきてキスをしてくる。

しっかりと舌を口の中に入れた、濃厚なキス。

私も負けじとルーの舌を絡め取り、右手で頭を、左手で腰を抑えて離れられないようにする。

お互いの口からヨダレが垂れてくるけど、そんなのお構いなしに舌を乱雑に動かし、口の中を荒らす。


しかし、それも長くは続かなかった。


「今のは…」

「チッ…なんて間の悪い」


ここからかなり近くで銃声がした。

私達は、すぐに武器に手を伸ばして警戒心を強める。


音を注意深く聞き取りながら扉へ向かうと、静かに簡易バリケードを退けて、ゆっくり扉を開けて外の様子を確認する。

しかし、見える範囲には誰もおらず、それらしい影も見えない。


「……別の階か、ここからは少し遠い場所っぽいね」


近くに誰もいない事を確認すると、二人で銃声のした方へ向う。

お互いの事を信用し、相手に背中を預けながら私達は全方位を警戒した。

その事実に、私はルーと仲直り出来た事を確信し、内心とても喜んでいた。



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