第10話朝チュン

翌朝


目覚まし時計コンソール・リングの鳴らす機械音で、私とルーは目を覚ました。

軽く体を伸ばしなが起き上がると、体に違和感があった。

何故か肌寒く、布団やシーツが濡れている。

それも、体に直接触れているのだ。

目を擦り、ぼやける視界の中自分の状態を確認すると、下着すら着けていない全裸。


(頭痛い…昨日お酒飲んだのか?)


二日酔いと思われる頭痛がある。

記憶がないのは、お酒飲んだのが原因なのかも知れない。

けど、お酒を飲んだ覚えもない。

多分、飲酒前後の記憶があやふやになってるんだろう。

横を見ると、いつものようにルーが…っ?!

ルーの方を向くと、たまたまルーもこっちを見ようと振り向いていたらしく目があった。

しかし、私はルーの姿に我が目を疑った。


「「……」」


私が見たルーは、私と同じように全裸で、髪がクシャクシャに乱れていた。

私達はこのよく分からない状態に、目をパチクリさせて呆然としていた。

しかし、お互いの姿に疑問を持った瞬間記憶がフラッシュバックする。


「「あっ…ーッ!!」」


思い出した…いや、思い出してしまったと言うべきだろう。

昨夜の行為を…









「「……」」


私とルーは、対角線上に座って黙食を貫いていた。

少しでも目が合うと、顔から火が出そうな程真っ赤になるから、対角線上に座ってる。

そして、何か話しても同じ状況になるから無言で朝ごはんを食べる。

そんな時間が続いていた。


「ごちそうさまでした」


私は早々に朝ごはんを食べきって、ルーに背を向けて銃の手入れをする。

そうでもしないと恥ずかしくてやってられない。

昨日の夜は、それくらいのことをした。

…具体的には、出会って三日目の完全に信用出来ない女性と――女性だよ?――私は、そんな女性と一線を…


黒歴史確定だ…

今はそれよりもこの気まずい雰囲気をなんとかしたい。

これじゃあ、まともに会話も出来ないし、探索も気が散って危険すぎる。

いっそ開き直ってもう一回ヤるくらいの雰囲気で…いやいや!私はそんなに淫乱な女じゃない!!


「…ミドリ」

「ッ!!な、なに?」

「その、夜の事はごめんなさい。反省してるわ」


なんと、ルーの方から謝ってくれた。

まあ、手を出してきたのはルーだし、ルーは私よりも二歳年上だから、年上としての矜持的なあれがあるのかな?


「あー…その、えっと〜…アレは半分私が悪いし…気にしなくていいよ。…その、何なら今後もガス抜きとして一緒に…」

「それは…考えておくよ」


一瞬凄く嬉しそうにしてたのは見逃してないよ?

まあ、私としてもそうしてくれた方が嬉しいからいいんだけど。

それでも、まだちゃんと顔を合わせるのは恥ずかしい。


「そう言えば、ミドリに渡さなきゃいけない物があるんだよね」

「え?そんな物あったけ?」


私が振り返ると、ルーが《コンソール・リング》で何かを探していた。

指の動き的にショップを見てるのかな?

そして、何かを買ったルーは、ストレージから買った物取り出す。

ルーが取り出したものはタバコだった。


「はい、昨日のお酒のお返し」

「いいの?五箱ももらって…」


ルーが渡してきたタバコは五箱。

今日明日で吸い付くしそうな量だけど、頑張って押さえれば一ヶ月は持つはず。

一日三本か…辛いなぁ。


「一ヶ月は持たせてね?ミドリはタバコ吸い過ぎだから少しずつ量を減らしましょう」

「確かに沢山吸ってるけど…別に、ルーが気にするような事じゃ…」

「だって…キスするときにタバコ臭かったから…」


うっ!それを言われると厳しいなぁ…

確かに、軽く一日一箱開けてるから臭いは酷いだろうけど。

でも、吸ってないとやってられないって言うか、これが無いと生きた心地がしないんだよね。


「将来的には、数日に一本くらいに抑えてほしいって思ってるよ」

「そ、そんなに?」

「もちろん。だって、ミドリがタバコに依存してる理由は、精神的苦痛を紛らわすためでしょ?少しは信用出来て、肉体関係まで持った相手がいるんだから、もうタバコはいらないでしょ」


ルーの言ってる事は間違ってない。

私は、辛い現実や過去から目を背ける為にタバコを吸ってた。

そのせいでタバコに依存してしまった。

ルーと出会ってからはかなり良くになったけど、それでもニコ中であることに変わりはない。

そして、今もタバコを吸いたい程依存は治ってない。

まあ、何もしてないんだらか当然だけど。


「それに、どうせ吸うなら私のを…吸ってほしいな」

「…」

「ちょっと!何その気持ち悪い物を見るような目は!!」


私が冷ややかな視線を送ると、顔を真っ赤にしたルーが怒ってきた。


「だって…なんか気持ち悪かったし」

「酷い!恥ずかしいのを我慢して言ったのに!」

「だとしても、これはちょっと…」


すると、ルーが私の手の中からタバコの箱をぶん取って、タバコを取り出す。


「今日はタバコ禁止ね」

「はあ!?そんな横暴な!!」

「なに?完全に取り上げた方がいい?」

「ぐぬぬぬぬ…」


私が『不機嫌ですよオーラ』を放ちながらルーを睨むと、ルーは私の目の前でタバコを吸い始めた。

それも、私に見せつけるように。

うわっ!しかも腹立つ笑みまで浮かべて…


「…喧嘩売ってるの?」

「ミドリにはそう見える?私はただ嫌がらせをしてるだけ何だけどなぁ」

「余計にたちが悪いじゃん…」


はぁ…私もタバコ吸いたい。

一回の喫煙で五本くらい吸いたい。

でもそれをするとルーが怒るだろうしなぁ。

でも、ルーには色々と恩があるし、タバコは我慢しないと。


「いつまで私の事睨んでるの?」

「ルーが私に優しくしてくれるまで」


私がそう言うと、ルーが私の隣にやってきて頭を撫でてくれた。

こうやって頭を撫でられると安心するんだけど、ルーがまだタバコ吸ってるせいでちょっとイライラする。


「…ダメ?」

「とりあえず、そのタバコをどうにかしてほしいかな」


私がそう言うと、ルーはタバコを灰皿に捨てる。

そして、今度は手を繋いできた。


「これでいい?」

「まあ、いいよ。今日は私の前でタバコ吸わないでね」

「分かった。今日は吸わない」


ルーは私を抱き寄せて嬉しそうにしてる。

…こうやって人に甘えるのもありだね。

私もルーのに寄りかかって、軽く抱きつく。

信用出来ない相手にこんな事はしないから、私がルーを信用してる証拠。

すると、ルーが私の顔に手を当てて上を向かせる。


「ちょっと、キスするつもりじゃないよね?」

「ダメ?」

「タバコ吸ったばっかりでしょ?というか、キスのときにタバコの臭いがするからって、私からタバコ取り上げたの誰だっけ?」


私が眉をひそめて嫌がると、ルーは残念そうな顔をして私の顔から手を離した。

落ち込んじゃったかな?

かわいそうだし、頬にキスしてあげるか。

私がルーの頬にキスすると、ルーが目を見開いてこっちを見てくる。

思わずニヤニヤしていると、怒ったルーが私の事を押し倒してきた。


「今謝るならほっぺで許してあげるけど…どうする?」

「謝る?私はルーのためにキスしてあげたのに…」


私がそう言うと、何故か舌なめずりをしたルーが飛びかかってきた。

後のことは想像にお任せするよ。










廃ビル


ホテルで使えそうな物を拝借した私達は、いくつかのビルを経由してジップラインで少し遠くの廃ビルに来ていた。

何故か、私はげっそりしていて、ルーは元気そうだったけど。


「ここはスナイパーに狙われそうで危険ね。元の世界の建物を再現してるらしいけど、一体どこにこんなボロボロの建物があるのやら…」

「私はよく見てたよ…紛争でめちゃくちゃになった都市でゲリラ戦したことあるし…」


はぁ…余計な事に体力を使ったせいで、ちょっと息が上がってきてる。

ルーにはもうちょっと自重してほしいよ…

まあ、それはさて置きこの雰囲気は懐かしいね。

あの地獄を思い出すよ。

息を殺して建物に隠れ、無防備に姿を晒した正規軍や米軍を蜂の巣にした懐かしの戦場。

出来れば二度と戻りたくない嫌な思い出だ。


「ほら、あれ見て。アレは、火炎瓶を投げ込まれた後だね。こんな感じのビルに立て籠もってる連中を焼き殺してたんだよ」

「へぇ〜」


私が指差す先には、黒焦げになったコンクリートがあった。

私も隠れてた部屋に火炎瓶を投げ込まれた事があった。

その時は、運悪く直撃した革命軍の一人が火だるまになって死んでいったね。

私はあんな風に死ぬのが嫌でよく高い階に居たけど、ビルごと壊された事もあった。

正直、アレで死ななかったのが不思議でならないけど。


「火炎瓶か…目立つからあんまり使ったことないね。せいぜい過激派のテロを助長するときに役所に投げ込んだくらい」

「流石スパイと言ったところかな。私みたいな雑兵と違ってクールだね」

「ミドリはクールさが少ない分、戦闘能力が異常だよ。これでも喧嘩では誰にも負けたことないんだよ?」


喧嘩ねぇ?


「そりゃあ、そうでしょ。ルーはあくまで喧嘩の格闘術。対して、私はガチの殺し専門で実戦で鍛え上げた殺人特化格闘術だもん。クールなスパイさんが使うようなキレイな戦い方はしてないよ」

「戦地で鍛え上げた無駄のない格闘術か…私もミドリとなんども殺し合えば身に付くかな?」

「身に付くだろうけど、訓練のたびにサンドバッグになる覚悟をしてね?」


そもそもの話し、私とルーには身体能力と格闘センスの壁があるから、何度も殺り合えば身に付く訳でもないけどね。

もちろん、回数を重ねればある程度出来るようになるだろうけど、私のを完全再現出来るかと聞かれれば、答えはノー。

この格闘術はあくまで私用わたしようのモノ。

誰にでも使えるように作られた格闘術とは訳が違う。

ルーが使いこなせるモノじゃない。


「まあ、戦闘用の格闘術ではミドリには勝てないだろうけど、ベッドの上の格闘術では私の方が強いから」

「ふ〜ん?そうやって胡座をかいてられるのも今の内だよ。いつか絶対一方的に責め立ててあげるから」

「へぇ…それは楽しみだね」


ルーは余裕たっぷりの表情で私の事をニヤニヤしてる。

いつか必ずこの余裕の顔を壊す。

そして、私の色でめちゃくちゃにしてやる。

私がルーにされたことを仕返すんだ。

私の事をここまで穢したんだ。責任はとってもらわないと



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