第4話仲間がほしい

ホテル屋上

ある程度内部の探索を終えた私は、危険を承知で屋上に来ていた。

屋上は見晴らしがいいぶん、遮蔽物が少なく狙撃されやすい。

また、ヘリやドローンで簡単に発見されることから、屋上でなにかするのはかなり危険だ。


けど、今回ばかりは来てよかったと思う。

そして、屋上に来て気付いた事がある。

それは建物に統一性が無いこと。

例えば、ビルと一言に言っても、国によって見た目が若干違う。

見渡せば、日本でよく見るビル。

中国にありそうなビル。アメリカにありそうなビル。イギリスにありそうなビル。

それだけじゃない。

中華風の建物もあれば、中世ヨーロッパのような建物、アメリカンな建物に、五重塔のようなものまである。

まるで、世界中から建物を切り取ってきて、寄せ集めたような雰囲気を感じる。

そして、その建物は主に屋上から線のような物が出ていて、他の建物と繋がっていた。


「これは…ジップラインってやつか。命綱も無ければ、一方通行でここでは使えないみたいだけど」


ジップラインというと、森の中をワイヤーロープに滑車を付けて楽しむアトラクションだったはず。

高い所から低いところに向かって、高速で滑り降りる?…表現合ってるのかな?…まあ、滑っていくのが普通だ。

しかし、このジップラインは滑車がメカメカしい。

中にモーターでも付いてるのかな?

ちょっと興味が湧いてきたので、使ってみることにした。

この電車の吊り革みたいな物を持てばいいのかな?

全体重を片手で支えながら、あの距離を移動する…相当な握力と腕力がいるぞこれ。

まあ、私ならこれくらい朝飯前だけどね。

吊り革を持って、明らかにこれだろという見た目のスイッチを押すと、どんな構造をしてるのか、モーターの回転する音と歯車がワイヤーロープを登っていく音が騒がしく鳴り、自動車並の速度でワイヤーロープを登る。


「お、おおお…」


想像していた何倍の速度でワイヤーロープを駆け登る。

こんなに速いと、あっちに着いた時に慣性でふっ飛ばされるんじゃない?

まあ、この程度の速度なら受け身取れるけど。

それよりも、この状態が一番危険だ。

凄腕のスナイパーが居れば、確実に頭を抜かれて死んでる。

そして、万が一相手が外したとしても逃げ場がない。

手を離せば数十メートルの高さから落ちる。

そうなれば、いくら私でも生き残れない。

どうかスナイパーに見つかりませんように。

私が出来ること、神頼み。

私は神を信じてるわけじゃないけど、人間とは都合のいい生き物で、信仰を持たないくせに神頼みをする。

なんの見返りもなしに他人へ頼るのだ。

何かは忘れたけど、『神は無償の愛を注いでくれる』っていう教えがあったはず。

キリスト教だったかな?それかイスラームか。

まあ、宗教には興味ないからどうでもいいけど。

…ここまで来て撃たれないって事は、気付かれてないって事でいいかな?

あと少しで着くし、今度は待ち伏せされてないか警戒しないとね。

私みたいにジップラインを使って登ってくる奴を狙う輩が居ないとも限らない。

先手必勝。殺られる前に殺るの精神で構えておく。

あと十秒くらいか。

狙われた時のシュミレーションをして、正し行動を取れるようにする。

そして、ジップラインが繋がっていたビルの屋上に辿り着く。


「誰も居ない…か」


屋上にはそれらしき人影も、気配も無かった。

一応警戒しながら階段を目指す。

…何もない。

これ以上はスナイパーに狙われる危険があるから、止めたほうがいいね。

幸い階段はすぐそこにあったおかげで、楽に中に入ることが出来た。

おそらくこのビルの中にも人はいる。

友好的な人かも知れないし、敵対的かも知れない。

群れ成して複数で襲ってくるかも知れないし、一人かも知れない。

この世界で生きていく以上、そう簡単には気が休まる事は無いだろうね。


出来れば仲間になってくれそうな人を見つけて信頼関係を築く。

そして、交代で警戒出来るようにすれば、安心して休めるかも知れない。

まあ、鉛と血が飛び交うこの世界で、信頼関係を結ぶなんてよほど親しくならないと無理だ。

それこそ、恋人になるとか。


……恋人か。

前世じゃ興味すら持たなかったけど、いざこの世界に来てみると、仲のいい異性を作っておけば良かったと思う。

この世界で恋愛とか、相当余裕がないと無理だ。

万が一子供が出来れば、妊娠中の女性はただの荷物だし、出産した後も子供という足枷が付く。

アフリカのサバンナで、強い雄のライオンが複数の雌を連れている理由がよく分かるよ。

この常に命の危険があるこの世界では、強くないと大切なものを守れない。

力がないと自分の身すら守れない。

だから、ライオンを筆頭にハーレムを形成する動物は強い。

そして、弱い雄が淘汰されるのも納得だ。


結局は力が全てか。

そう考えると、物心つく頃から鍛えられたのは良かったのかも知れない。

結果論ではあるけれど、世の中結果が全てだ。

『終わりよければ全てよし』という言葉の通り、勝者が全てであり、絶対だ。

しかし、個人の力には限界がある。

いくら英雄でも、一人で国を相手にすることは出来ない。

私は他の傭兵よりも遥かに強いと自負してる。

それでも、私は爆発に巻き込まれて死んだ。


「もう少し仲間を頼っていれば、少しは長生き出来たかもね」


私の死因は爆発でも切腹でもない。

世界最強と言われた米軍相手に連戦連勝を重ね、自分の力に慢心していた。

『こんな小さな基地、仲間の手を借りなくても一人で落とせる』そう思っていた。

実際、私が爆発に巻き込まれた時には基地の戦力は半壊していた。

ちょっとしたイレギュラーで私は死んでしまったけど、あれさえ無ければ私が勝っていた。

過去は変えられないけど、学習することは出来る。

今度こそあんな事が起こらないように、信頼できる仲間がほしい。

とりあえず頼れる仲間が居ればいい。

高望みするなら、私と同じくらい強い人がいい。

まあ、そんな人滅多に居ないし、友好的とも限らない。

せめて、信頼できる仲間を……居るな


階段を降りて、最上階の探索を始めようとしたその時、一発の銃声が鳴り響いた。

音からしてライフル、そして、おそらくこの階にいる。

スナイパーだ。

仲間にスナイパーが居るのは心強い。

私は、基本近距離専門だから、スナイパーには手が出せない。

けど、仲間にスナイパーが居ればカウンタースナイプが出来るようになる。

また、遠くに居る敵にも攻撃出来るようになる。

出来れば仲間にしたい。

そんなに上手くいくとは思えないけど、やってみよう。

何事も挑戦だ!!

私は、慎重にスナイパーを探すことにした。








おそらく十分後

さっきすぐ近くで銃声が聞こえた。

間違いなくこの近くに居る。

多分、そこの角を曲がった辺りに居るんじゃないかな?

根拠は何一つ無いけど。

しかし、相手はスナイパー。

角から顔を出すのは危険だ。

そんな時に役に立つ道具がある。


テレレレッテレー『手鏡〜』


これを使えば、撃たれることなく安全に確認することがっ!?

私は、角から手鏡を出してその先を見た。

そして、鏡越しにソレと目が合った。

目が合ってしまった。

サッと手鏡を戻し、深呼吸をする。


スゥ〜〜〜、ハァ〜〜〜


見られた…

見つかってしまった。

私が見つけたスナイパー、その人は私と同じ女だった。

それも、見た感じ私と同じくらいの身長の。

彼女は窓からライフルを出して、外や他の建物に居る獲物を探していた。

それでも目が合ってしまった。

理由は簡単、彼女も鏡を使って後ろを確認していた。

数秒見つめ合ったせいで、警戒心がMAXになってる。

多分、あのスナイパーも私の事を警戒してる。

…もう一回鏡出してみるか。

私が手鏡を角から出して確認すると、


「あらら〜、バリバリこっちを狙ってらっしゃる」


ライフルをこちらに向けて、警戒心MAXの視線で私の事を狙っていた。

ちなみに、まだ手鏡を出してるけど、ずっと目が合ってます。

どうしよう、出たら撃ち殺されるだろうなぁ。

諦めて逃げるか?

別に、今仲間を見つける必要はないんだし。

問題は、彼女が私の事を見逃してくれるかどうか。


スナイパーは身を隠すのが基本。

敵に隠れ家を見つけられると非常に困る。

なので、隠れ家を変えるか、見つけた相手を殺す必要がある。

多分、彼女は後者を選ぶと思う。

時間を置いて、私が殺しに来るかも知れないし。

なら、不安の芽は摘んでおいた方がいい。

私の事を殺しに来たら、返り討ちにすればいいだけの話だけど、出来れば殺したくない。

あそこまで警戒心の強いんだ、きっと優秀なスナイパーに違いない。

仲間にしたい。

でも、警戒されている今は無理だ。

話しかけても撃ち殺されるだけ。

…うん、逃げよう。


私はゆっくりと、鏡越しに彼女を見ながらその場から立ち去る。

そして、鏡を引っ込めるとすぐに走り出す。

狙われる前に逃げてしまう。

時には逃げることも大事なのだよ。

こうして、私は一度あのスナイパーと距離を置くことにした。

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