傭兵と工作員

カイン・フォーター

第1話とある世界

某国米軍基地

虫がそこら中を飛び回る熱帯雨林。

とある国でクーデターが発生し、同盟国であった米国が軍事介入を行っていた。


「なあ、例の噂覚えてるか?」

「例の噂?…ああ、『ニンジャガール』の事か?」

「そうだ。そいつなんだがな、どうやら実在するらしいぞ?」


熱帯雨林の中に建設された簡易的な基地のテントの中で、二人の米兵が世間話(?)をしていた。


「何言ってんだ。個人で戦車を五両、攻撃ヘリを三機、ここみたいな基地を二つ潰すなんて、人間のやることじゃねえっての。あれだろ?ゲリラの攻撃で頭が可笑しくなった奴が見た幻覚だよ」

「本当なんだって。ジャパンの政府が正式に認めたんだとよ。『彼女は、幼い頃に誘拐されて傭兵教育を受けた日本人だ』って」

「はあ?ついにあの国はボケが始まったか?二千年も続いてる国だぞ?国民も全体的にボケてるんだろ」


戦地では、PTSD等の精神病患者が大量に発生する。

そして、そういった患者達が幻覚を見て、おかしな事を言い出すのは珍しくない。

この米兵もそう思っているようだ。


「とにかく、例え『ニンジャガール』が居なくとも、それだけの戦果を上げてる傭兵を相手は雇ってるんだよ。お前も夜の見張りは気を付けろよ?ジャパンによく行ってた奴が言ってたぜ?『明日は我が身』って」

「なんだよそれ」

「確か、『他人事だと思ってた事が自分に降りかかる』だったか?」

「なんか違う気がするのは、俺の気のせいか?」


実際この米兵の言っている事は間違っているが、使い方は合っているので勉強すればもっと正しく使えるだろう。

そんな何気ない会話が、基地のあちこちでされており、戦地だというのに油断している。

そんな中、基地に近付く複数の影があった。


「気付かれましたかね?」


熱帯雨林に溶け込む迷彩服に、適当に採取した葉っぱをつけた男が、前に居る同じ格好の女に声をかける。


「大丈夫だ。連中は世界最強の米軍だぞ?最強の座であぐらをかいて、ふんぞり返ってるさ。昼間でも簡単に襲撃できる」

「そうですね。では、作戦通りに」

「ああ、始めろ」


女の指示に、男は指で後ろに居る仲間に、指で指示を出す。

指示を出し終わり、男が向き直った頃には前に居た女は、居なくなっていた。


「本当、あの人は音もなく消える」


男は溜息をつきながら、銃を構える。

そして、一歩一歩慎重に近付いてゆく。

狙うは、正面に居る米兵。


「ん?」


すると、米兵が男の方を見て首を傾げる。


「どうしたか?」

「いや、俺の気のせいだ。最近、蚊が煩くてよく眠れないんだ。それの影響だろ」

「そうか。まったく、虫除けくらい寄越してほしいもんだ」


どうやら、気のせいで済まされたようだ。

男は背中を向ける米兵に銃を構え、仲間に指示を送り、引き金を引いた。

耳をつんざくような銃声が、辺り一帯に響き渡る。


「敵襲!!敵襲だ!!」


銃声を聞いた米兵達が即座に銃を取り、戦闘態勢を取る。

そして、正面に米兵が集まったその時、


「ドロン」

「何!?」


突然米兵の背後に女…いや、少女が現れる。

少女は葉っぱの付いた迷彩服を着ており、両手には米軍御用達の自動拳銃が握られていた。

米兵が数人で少女を囲むと、そのうちの一人がポツリと呟いた。


「『ニンジャガール』か…」


その言葉に、少女はニヤリと笑うと、日本語を口にして妙なことを言う。


「忍法…」


少女の腕がゆっくりと上がり、自動拳銃が二人の米兵に向けられる。


「拳銃の術」


そう口にした少女は、なんの躊躇いもなく引き金を引いた。

二つの自動拳銃から銃弾が飛び、直線上にいた二人の米兵の頭を撃ち抜いた。

それだけでは終わらない。

米兵が反応するより速く、次の米兵二人に銃口を向け引き金を引く。

その行程を何度か繰り返すと、少女を囲む米兵は全滅していた。

それも、ほんの二、三秒で。


「ふふっ、戦闘開始」


そこからは、一方的な戦闘…もとい、虐殺が行われた。

超人的な反射神経と身のこなしで、次々と米兵の頭に風穴を開ける少女。

多くの米兵が彼女に釘付けになり、アサルトライフルを乱射する。

しかし、銃弾は一発も当たらない。

それどころか、少女は一発も外さない。


「う、うわああああああああ!!!」


『ニンジャガール』の噂を聞いていた米兵は、恐怖から銃を捨てて逃げ出す。

少女が裏から入ってきた為に、逃げる先は正面。

しかし、正面には…


「撃て」


複数人からの射撃を受け、逃げ出した米兵は蜂の巣になる。

裏から入ってきた化け物から逃れようとすれば、正面に居る化け物の仲間に殺される。

絶望的に構図が出来上がり、米兵達は更に混乱した。


「撃て!撃て!!相手は一人だ!!それも女!まだ大人になってないような少女だ!!」


指揮官らしき男が声を荒げるが、精神的に余裕のある者は既に殺されており、恐怖で錯乱した者しか残っていない。

やがて、少女の誘導で同士討ちが発生し、味方から撃たれたという事実から更に混乱が大きくなる。


「クソッ!クソッ!!この化け物め!!」


仲間に撃たれた者の一人が、痛みで冷静さを取り戻し、正確に少女を狙う。

しかし、攻撃はまるで当たらない。

本当に忍者のように飛び回り、米兵を翻弄する。

そして、百発百中の精密射撃で確実に命を刈り取る。


「クソがっ!!こうなったら、基地ごとぶっ飛びやがれ!!」


米兵は、少女の近くにあった燃料タンクを撃つ。

すると、轟音と共に爆炎が吹き上がり、近くに居た少女は吹き飛ばされる。

更に、爆炎は他の燃料タンクに誘爆し、基地全体を炎が包み込んだ。


「隊長!!隊長!!どこですか!?隊長!!」


燃え上がる爆炎の中、少女が吹き飛ぶのが見えた迷彩服に葉っぱをつけた男が、声を荒げる。

そして、少女が吹き飛んで行った方向で見たものは、全身が火傷で覆われ、下半身が無くなった少女の姿だった。

しかも、少女はまだ生きていた。


「隊長!!そんな…隊長!!!」


男は膝から崩れ落ちる。

もしここが病院の前だったとしても、この怪我では助からない。

涙を溢す男を前に、少女は手を伸ばして口を開く。


「ない…ふ…」

「え?」


少女は、焼けた喉で掠れた声をあげる。


「ないふと…じゅうを…かせ…」


その言葉にはっとした男は、持っていたナイフと拳銃を渡す。

少し前、この少女はこう言っていた。

『もし私が死にかけた時、助からない場合は切腹する。許されるとは思っていないが、せめてもの贖罪だ。やらせてくれ』

ナイフを受け取った少女は、躊躇なく自分の腹にナイフを突き立て、切り裂く。

今度は拳銃を受け取ると、それを咥えた。

そして、


「あり…がとう…」


そう言って、引き金を引いた。





















「なに…ここ…?」

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