第39話 海よりも深い愛を探して 白馬の王子様の秘密3

「お願いがあるんだけど、いい」


 愛海と白馬の付き合いは順調だった。白馬はことあるごとに白馬の王子を装って、丁重に愛海を扱った。愛海は夢のようなその生活にこそばゆい気持ちを携えながら、段々と気持ちが落ち着いていくのがわかった。王子様が見つからず、とげとげとしていた自分が懐かしく思えてくる。おじいちゃんを亡くして、悲しんでいた自分を忘れさせてくれる。いつの間にか白馬にぞっこんになっていた。


「うん、何」


 そんな白馬が珍しく愛海にお願いをしてきた。愛海としては夢中になっている白馬のお願い事ならなんでも聞いてあげようと思った。


「僕実は変わった性癖を持っていてね。SMプレイとかに興味があるんだ」


 SMプレイ。何でも聞いてあげようとは思ったが、さすがの愛海も少しうっとなる。


「い、いいよ。白馬となら」


 どの程度のSMプレイになるかはわからないが、白馬のことは信頼している。愛海は自分の信頼が試されているのだと思った。それに、散々自分に合わせて楽しませてくれているのだ。夜の営みくらい白馬に合わせてあげてもいいと思った。


「ありがとう、愛海愛してるよ」


 そう言って白馬は優しくぎゅっと抱き締めてくれた。その日のSMプレイは思っていたよりも優しいもので、愛海はほっと胸を撫で下ろした。むしろいつもよりも言葉のきつい白馬に胸がキュンともなった。

 あれが出来たら、これも出来る。そうは言っても、白馬の要求は日に日に激しくなっていった。愛海はそれに従順に従い、時には止めてっとも思ったが、白馬に嫌われたくない一心で、それにも耐えた。落ち着いている時に聞くと、


「ごめんね、僕、好きな人が嫌だって顔するのを見るのが好きなんだ」


 と、白馬は言った。確かに変わった性癖であるなと思った。しかし、そんな白馬も、一通りのSMが終わると、優しくなって愛海を抱き締めてくれるのだ。愛海はその瞬間がたまらなく好きで、激しいSMでも耐えられるのである。しかしそれでも、耐えられない願いもあった。


「こいつと暫く同棲してくれないか」


 白馬がそう言って連れてきたのはどこかで見たことがあるチャラそうな男であった。


「えっ」

「ケンって言います。宜しくお願いします」

「えっ、どういうこと、龍」


 何故いきなりどこの馬の骨とも知らない男と同棲しなければならないのか、愛海は困惑に耽った。


「しばらく出張で東京を離れるんだ。僕の代わりにケンを置いておくから、大事にしてくれ」

「えっ、ちょっ、意味がわからない。龍が出張行くのはわかった。戻ってくるまで待つよ。でも、代わりにこの人と同棲する意味がわからない」


 愛海は不満をそのままぶつけた。


「こいつ、一人じゃ何も出来ないんだよ。この前彼女と別れて、自殺しそうになってたんだ。何とか引き留めたけど、いつまたしでかすかわからない。愛海に見張っておいて欲しいんだ。お願いだ。俺達のせいで人一人が死ぬのは夢見が悪いだろ。な、お願いだ」

「そんなの、龍がやることじゃないじゃない。なんで私達が」


 そう言って、愛海がケンに目を見やると、ケンはニカッと笑った。


「愛海が元カノに似ているんだって。愛海と一緒なら、自殺なんかしないんだと。俺達にしか出来ないことさ。な、お願いだ」


 愛海はムスッとして黙ってしまった。どういう理由であれ、龍以外の人と同棲なんてあり得ないと思っている。とは言え、事情も事情だし、龍の頼み事なら聞いてあげたい気持ちもあるのだ。愛海はどうしていいかわからなかった。


「な、お願い」


 白馬が真っ直ぐと愛海の目を捉える。こう、真っ直ぐと見つめられて、お願いされると、どうしても嫌とは言えない気持ちになる。


「何かあったら、連絡してくれればいいから」

「本当に、本当に何かあったら連絡してもいい」


 これが落としどころなのかもしれない。


「ああ、本当さ」


 白馬の甘美な声が愛海を包み込む。


「わかった。一緒に暮らすだけだよ」

「うん、ありがとう。愛海」

「お世話になります」


 ケンが頭を下げた。


「まあ、よろしく。自殺はしないように」

「ええ、愛海さんの目の前ではそんな気は起こりませんから」

「ならよし」


 愛海はそう言って視線を白馬に戻す。


「じゃあ、行くね」


 白馬は愛海の視線に合わせてそう言う。と、愛海は欲しそうな目で白馬をじっと見た。白馬は笑って、それに応える。二人の唇が重なった。二、三秒すると、白馬は離れて、そのまま行ってしまった。




 再び達彦サイド。


「クロね」


 磯野マネージャーが証拠の写真を並べながら達彦にそう言った。


「やっぱり、そうなんだ。愛海は悪いやつに騙されているんだ」

「うん、そうみたいね」


 磯野マネージャーとしては意外だった。シロだと思っていたのだ。達彦を諦めさせる意味合いで始めた探偵は良い仕事をして、どんどん白馬の悪辣な状況を知らせてくれたのである。


「まずは状況を整理しましょ」


 こうなると、愛海を救わねば罰が悪いなと磯野マネージャーは思った。


「白馬にはちゃんとした彼女がいるみたいね。名前は宮野春恵。二人が宮野の家に入り浸るのを何度も確認されてる。愛海ちゃんには出張に行くと言っていたみたいだけど、出張は嘘で今は宮野の家でイチャイチャしているみたいね」


 調べてわかったが白馬はクズ野郎だ。平気で女を二、三人囲う。宮野春恵は本命なのだろう。ずっと付き合っているようだ。おそらく春恵の方も白馬の所業には気付いているはず。白馬が狙うのは金持ちの相手ばかり。つまりは金をだまし取るのが目的か。


「愛海は浮気されてるってことか。愛海の方はどうなってるの」

「うん。ケンっていう人と同棲させられてるみたい。詳しい事情はわからないけど」


 ただ、一つわからないのはこのケンっていう人物。お金をだまし取るだけなら必要のない存在なはずだけど。


「ケン。誰だよそれ。なんかやばそうなオーラをビシビシ感じるんだけど」

「白馬がホストを経営していて、そこのホストの一人みたいね。なんかきな臭いわね。目的が見え辛い」


 資料をよく見てもこのパターンは初めてで、なかなか難しい。


「一つ言えるのは愛海が何かに巻き込まれそうだってことだ。ミネラル戦隊のみんなにも知らせてみよう。何か掴めるかもしれない」

「そうね、私達二人では何も出来ないかもしれないけど、人が集まれば愛海ちゃんを救うことは出来るかもしれないわね」


 取り戻すにしても戦力は必要。ということで、愛海の知り合いに協力を仰ぐのだった

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