第33話 海よりも深い愛を探して いた、白馬の王子様3

 昴はその日、誕生日だった。彼の仕事仲間が盛大に祝ってくれて、そのまま二件目に向かうことにする。次の日は祝日なので仕事が休みなのだ。すると、彼の仲間が蹲ってる女性を口説こうと動く姿が見えた。


「ねえ、あんた大丈夫かい、ヒック」

「達郎、どうしたんだ」

「あん。可愛いお嬢さんが蹲ってるから声かけてんだよ、ヒック」

「んっ、可愛いお嬢さんって愛海じゃないか、どうしたんだよ一体」

「んっ、なんだ。昴の知り合いか」


 昴は蹲っている愛海を見つけて駆け寄った。近くには愛海のらしい吐瀉物がある。昴はすぐに愛海が酔っているのだとわかった。


「ったく。三十四にもなって自分のペースくらい掴んどけよ。ほら、愛海、肩を貸してやる」


 そう言って、肩で抱き上げる昴。と、愛海の吐息がいくらか甘くなっていることに気付く。


「す、ばる」

「大丈夫か、本当に。そうだよ、昴だ。みんなすまん。二次会はキャンセルだ。行くなら俺抜きで行ってくれ。俺は愛海を連れて帰るから」


 昴が申し訳なさそうにそう言った。


「なんでい、一人だけお楽しみかよ、わかったよ、俺達だけで行こうぜ、ヒック」


 達郎が半分茶化しながら了解する。昴は仲間の下を後にしてタクシーに乗り込む。


「昴、ありがとう」


 愛海が甘い吐息と共にそう言う。


「いいよ。昔のなじみだろ。言っとくけど、俺はヒーローにはならないからな」

「わかってるわよ」


 愛海が苦しそうにも少し笑みを浮かべる。


「まあ、笑えるならまだ大丈夫か。とりあえず俺んち連れて行くけど良いか」

「任せる」


 そうして昴は愛海を連れて帰った。昴は愛海をベッドで寝かせ、自分はソファで寝た。

 昴が起きると、何やら台所が騒がしくなっていた。覗いてみると、どうやら愛海が料理を作っているようだ。


「おはよう、もう大丈夫なのか」

「あっ、おはよう。もう大丈夫だよ。昨日はありがとうね。助かった」


 愛海が半ば鼻歌交じりで料理を作っている。なんとも手際が良いのに昴は感心した。


「お前、料理出来たんだな」

「出来るわよ、失礼ね」


 昴は笑って顔を洗いに行く。一通り朝の支度が終わると、食卓には朝食が並んでいた。


「出来たわよ」

「お、おう。なんか久しぶりにちゃんとした朝食だ」


 昴は朝食を抜くことが多かったので、目の前にある朝食を新鮮に感じた。パンにサラダに目玉焼きにウインナーだ。


「頂きます」

「頂きます」

「ところで、愛海、どうしてあんなところで酔い潰れてたんだ」


 昴は気になってたことを聞く。愛海は少し困ったような顔になるが、それまでのいきさつを説明してくれた。


「なるほど、つまり白馬の王子様だと思った男性が狼男だったってことか」

「うん、まあね」


 愛海はひどく萎んでいる。テンションの高い愛海しか知らない昴は、意外な顔を見る。ただまあ、これで少しは懲りただろうと昴は思った。

 美佐雄じゃないが昴も愛海の王子様捜しは宜しくないものを感じていたのだ。他人事とは言え、高校の同級生でもある。幸せな出会いが愛海に訪れないか密かに応援していた。


「私やっぱり見る目ないのかな」


 愛海が塩らしく落ち込んでいる。こういう時こそ仕切り屋昴のおでましだ。


「まあ、そうかもな。なあ、俺がメンバーは厳選してやるから、今度合コンやってみないか」

「合コン」

「うん、合コンだ。美佐雄の時も一回合コン開いたことがあってな。愛海もどうだ」


 成功するかはわからないが、やってみなければわからないだろう。意外と愛海の突飛の性格ははまるかもしれない。


「わかったわ。助けてくれた昴が人選してくれるんだもん、きっと大丈夫よね」

「ああ、任せてくれ。これでも交友関係は広いんだ」


 こうして愛海は合コンに参加することになった。


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