第27話 海よりも深い愛を探して 白馬の王子様を見つけるために2

「「「「「かんぱーい」」」」」


 ここは打ち上げだ。戦隊達がショーの疲れを癒やしている。


「今日もお疲れ様でした。明日はゆっくり休みましょう」


 レッドこと赤石守がそう言った。この日は月曜日で、火水木とショーが休みである。いや、厳密にはショーはやっているのだが、愛海のいるこのチームの担当ではない。


「それにしてもミネラル戦隊。大受けね。こんなにロングランになるとは思ってなかった」


 そう言うのはイエローこと黄山静香だ。


「今じゃ都内十カ所二〇チームもあるもんね」


 グリーンこと緑川遼子だ。


「達彦先輩も惜しいことしましたよね。こんなに有名になるなら、残っておけば良かったのに」


 ブルーこと青井順だ。


「いや、そうでもないぞ。今でこそ下火になったがあいつはあいつでブレイクしたからな。こんな戦隊やるよりよっぽど良いだろうよ」


 怪人こと平部剛だ。

 そう、達彦は八年前にブレイクしている。あの特徴的な語尾が世間に受けたのだ。今でこそ下火となってしまったが、まだまだ地方巡業の話は来ているとのことだ。


「それにしても俺達も年取ったよな」


 守が言う。三三歳である。


「そうねぇ、ピチピチだった私ももうおばさん」


 静香だ。三一歳である。


「しょうがないわよ三〇超えたらみんなじじばばよ」


 遼子だ。三〇歳である。


「僕はまだ二八ですけどね」


 順だ。


「順君だけズルくない」


 静香が言う。


「しょうがないわよ途中参加だからね」


 遼子だ。


「そんなに僻まないで下さいよ。まだまだ美しいですよ二人とも」


 半分はお世辞だが、半分は本気だ。


「なんかむかつく」

「右に同じ」


 静香と遼子ががぷうと頬を膨らます。


「順、危険だぞ。女性に年齢の話させるのは。何を言っても悪者にされるからな」


 守が言った。


「みたいですね」


 あははと順が苦笑いを浮かべた。


「それよりも愛海。いい加減言いたいことがある」


 剛が改まって愛海に相対した。


「何」


 愛海は覇気のない返事をする。


「また始まった」

「あちゃー」


 守と静香がそれに反応した。


「もう八年になるか、お前が客いじりをした日から。あの日からずっとその覇気のない芝居続けやがって、舐めてんのかこの仕事を」


 剛がかなり怒っている。


「すみません。やる気が起きなくて」


 愛海が力なく言った。


「お前の体調なんざどうでもいいんだよ。仕事の時だけで良いからシャキッとやれねえのか。いい加減上からも睨まれてるぞ。年齢のこともあるしな」


 愛海は今年で三四だ。女性のヒーローとしてはもういき過ぎている。


「あいたた。年齢の話は止めて。私達も今か今かと焦ってるんだから」


 静香が割って入る。


「そうよ。少しでも長くこのチームでやっていきたいんだから」


 遼子が愛海を抱えるように庇う。


「それにショックだったんだろ。振られたのが」


 守も援護射撃をする。


「ショックだったのはわかる。だがもう八年だ。もうそろそろ立ち直っても罰は当たらないんじゃないか。俺はあの頃の、達彦とお前(愛海)がイチャイチャしてた頃のお前に戻って欲しいんだよ。テンション上げ上げで、突っ込みがいのあるお前に」


 剛が真剣な面持ちで訴えかけた。八年も経つと色々ある。上から愛海を外すように言われてからは実は七年経つのだ。それでも愛海が居残り続けたのは、実は剛のお陰である。俺が上手く突っ込むから愛海を残してくれと言っているのだ。チームメンバーも全員それを知っている。


「悪いとは思ってる。でもこればかりは気持ちの問題だからどうしようもなくて」


 愛海がぼそぼそとそう言った。


「ならどうすればいい。どうすれば元のお前に戻れるんだ」


 剛も必死だ。


「俺達も協力するよ」


 守が言った。他のメンバーも頷いている。


「白馬の王子様」


 愛海がぼそりと言った。


「えっ」


 順が聞き取れずに聞き返す。


「白馬の王子様に会いたい」


 愛海がいくらか大きな声でそう言った。愛海の言う白馬の王子様とは何でも言うことを聞きたくなるようなそんな王子様だ。


「へっ」


 順が少し笑いそうになっている。しかし、周りを見渡しても誰も笑う感じではなかった。みな真剣な面持ちで考えている。


「白馬の王子様、か。そういえば八年前まではずっとそんなこと言ってたな」


 守が言う。


「白馬の王子様は女子の永遠の願いよね。わかる」


 静香だ。


「ねね、それなら達彦君にまた会ってみたら。二人、お似合いだったし」


 遼子が言う。


「達彦は無理よ。付き合い長いからわかるの。一時しのぎにはちょうど良かったけど、ずっとは一緒にいられない。あの語尾は本当に辛いのよ、私にとって。あれがあるだけで白馬の王子様だと思えなくなる」


 愛海が言った。


「一時しのぎだったんだ」


 静香が言う。


「なんか可哀想」


 そして遼子も言う。


「なら、守や順はどうだ。近場だし、二人なら協力してくれるだろ」


 剛が言った。すると愛海が首を横に振る。


「もし私が白馬の王子様だと思ったら、すぐアプローチするわ。それがないってことは二人は違うのよ」

「なんか知らぬ間に話題に上がって」

「知らぬ間に振られた気がしますね」


 守と順が項垂れた。これでも愛海は美人だ。少し期待していたのだろう。


「じゃああの客はどうだ。あの客は白馬の王子様だったんだろ」


 剛の言うあの客とは美佐雄のことである。


「みーちゃんのこと。みーちゃんには振られちゃったから・・・・・・」


 愛海が余計に落ち込んだ。


「で、でも。そのみーちゃんが言ってたこの人しかいないって感覚なんでしょ。なら、それを伝えれば」


 静香が言う。


「そうよ。もしかしたらもしかするかも」


 遼子が付け加える。


 愛海は少し考えた。本当にもしかするのだろうか。美佐雄にはどうやらパートナーがいた。それも美樹とは違うパートナーだ。そう長くない期間にパートナーが入れ替わっている。ということはあれから八年経った今なら、確かにもしかしたらもしかするのかもしれない。

 ただ一方で、美佐雄のこの人しかいない感覚という言葉が過ぎる。美佐雄はもうそう言う人を見つけたのではないか。だからあんなことが言えたのではないか、そんな気もした。

 仮にも美佐雄は自分よりも明確に障害が強い。故にその可能性が濃いように思えるのだ。


「良いんじゃないか。向こうの事情がどうであれ、会ってみるのは。何かわかるかもしれないぞ」


 剛が愛海の思考を読んだかのようにそう言った。


「そうですよ。その時に何があったかは僕は知りませんが、愛海さん美人だし、大丈夫ですよ。美人に言い寄られて嫌になる男はいないと思います」


 順も後押しした。他のみんなも頷いている。


「会ってみなよ」

「愛海ならいけるって」

「ゴーゴー」


  守と静香と遼子が畳み掛ける。


「わかった。行ってみる」


 そうして愛海は久方ぶりに美佐雄に会いに行くことになった。

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