第22話 素晴らしき愛をもう一度 念願の合格と告白

「それで、別れちゃったと」

「うん」


 青年はいつもの通りに昴に報告していた。


「ふーん、それはしょうがないな」


 昴は明るめにそう言った。


「――うん」


 明るめに言われたからか、何とか頷くことが出来る青年。身体は問題集に向かっている。


「まあ、受験に没頭出来るって前向きに考えるか」


 昴はさっぱりとした調子で言う。


「うん」


 青年は昴に誘導されるもまだ踏ん切りがついていない様子だ。


「でも、弱音吐きたくなったら何でも言えよ。俺たちは親友だからな」


 その様子を見て、昴が優しい言葉を掛けた。


「大丈夫だよ」


 青年はほんの少し力強くそう言った。


「大丈夫そうには見えないけど」


 昴は少し心配そうに見守った。


「――ここの問題わからなくて」


 青年は誤魔化すために問題を突く。


「ふーん、まあいいや。どこだ」

「この3+9+6」

「えっ、ただの足し算じゃんか」

「違う違う、特殊なルールでの計算だから。問題読んで」


 そう言って、青年は問題集を昴に渡した。


「ふんふん。あーなるほどな。ズバリ答えはサンタクロースだ」


 と、少しして昴がふざけているのか真面目なのか答えを言う。


「えっ、本当」

「嘘だよ」

「なんだ、冗談か」


 青年がホッとする。そんな答えの問題があるわけないと思っていたからだ。


「こりゃ俺にもわからん」


 そして昴が手を挙げた。


「えっ、昴にも分かんない問題あるの」


 今まで昴が解けなかった問題を見たことがない。


「まあな。って言うか、正確に言うと、この答えは無数にある」

「えっ、どういうこと」

「しっかり根拠が書かれていれば正解だってことだ」

「うん」


 青年は頷くもよくわかっていないままだ。


「極端な話18でも良い。たぶんそれじゃあ受からないが。答えはこれで、理由はこれですってしっかり書けることが大事な問題だな」


 昴が説明してくれた。


「へぇーなるほどね。じゃあ、本当に何でも良いんだ」


 青年がまん丸な目をぱちくりさせて納得する。


「ちゃんと理由があるならな」

「オッケー。考えてみる」


 そうして青年はまた問題集に向かった。


「頑張れー」



 それから夏が過ぎ、秋が来て、冬になって、受験が終わった。彼女の言った通りに自分の身の丈に合った大学を受けると、難なく合格できた。とても嬉しかったけど、でも、頭の中ではまだ彼女のことが忘れられないでいた。


「合格おめでとう」


 昴が祝いの言葉を青年に贈った。


「ありがとう。昴のおかげだよ」


 大学の難易度を下げてからも色々教わった。昴には本当に頭が上がらない。


「元カノのおかげでもあるな」


 さらっと昴が気にしてたことを突いてくる。


「ああ、うん、まあね」


 青年は苦虫をかみつぶしたような顔をする。


「ま、でも一番は本人のたゆまぬ努力だよ」


 昴がポンポンッと青年の肩を叩いた。


「僕、これで医者になれるのかな」


 青年は不安と期待を胸に、そう言った。


「それはまだわからん。まあ、だがそれを決めるのは俺たちじゃないさ。努力あるのみ、だろ」

「そうだね」


 昴に励まされて、青年は一歩踏み出した。


「まあ、あれだ。大学入ると途端に勉強やめるやついるから、実際受験よりは楽かもしれないぞ」


 受験よりかは楽な道なのかもしれない。


「でも、僕は特殊だから、油断大敵だよ」


 しかし、普通の人よりは確実に険しい。


「そうだな。まあ、その意気があれば大丈夫さ」


 仮にも受験をかいくぐったのだ、青年の忍耐強さは一流だろう。


「ありがとう」

「ところで美佐雄。そろそろ忘れた方が良いぞ」


 と、本題だと言わんばかりに昴が言う。


「えっ、何を」


 急な話題転換に青年はついていけない。


「元カノのこと」

「あっ・・・・・・」


 青年は言葉を無くした。


「特別に俺が合コンを企画してやったから、参加しろ」

「えっ、合コン」


 聞いたことはある。男女の交流の場だ。婚活パーティーよりもフランクなものだ。


「ああ、合コンだ。看護師もいるぞ」


 昴はこれでも医大の出身だからそういうツテもあるのだろう。


「看護師・・・・・・行く」


 青年は看護師という言葉に飛びついた。


「看護師って言っても、元カノとは違う人だからな」


 昴がしっかり断っておく。


「うん、わかってる」


 青年は本当にわかっているのかわかっていないのかわからない返事をした。


「あと、元カノの話は出すなよ。これ、礼儀な」

「礼儀。そんな礼儀あるんだ」


 青年は首を傾げる。


「まあな。まあ、大抵のことはフォローしてやるから安心しとけ」


 どうやら昴もいるらしい。それなら安心だ。


「ありがとう」

「じゃあ、早速レッツゴーだ」


 合コンの日は週末だった。昴によると青年を含めて男女三人ずつが集まったらしい。一体どんな人が来るのだろう。美樹のことを頭の片隅に置きつつも、青年は少し大人になった自分の今後を楽しみにしていた。


「きいって言います。特撮ヲタです。特に好きなのは仮面ライダーです」


 合コンと言えばの、自己紹介タイムだ。それぞれが自己紹介を始める。じゃんけんで女性からということになった。


「緑です。同じく特撮ヲタです。特に好きなのはウルトラマンです」

「美鈴です。普段は看護師をやってます」


 昴が言ってた看護師だ。美樹にも負けない美人だった。どうやら美鈴というらしい。さて、次は男性の番だ。


「赤司です。僕も特撮ヲタです。僕はやっぱり戦隊ものが好きかな」


 随分と特撮をヲタが集まったものだと思う。ただそんなことより自分の番で緊張していた。


「み、美佐雄です。ヒーローは僕も好きです。将来はヒーローみたいな医者になりたいと思ってます」


 青年は上手く言えたか心配になる。簡潔に夢は言えたと思う。


「あっ、どうもー昴です。今回はお集まり頂いてありがとうございます。とにもかくにも、今日は楽しんで行きましょう」

「「「「「「かんぱーい」」」」」」


 皆でコップを取ってグラスを合せた。いよいよ合コンの始まりだ。


「だいぶ特撮好きが集まりましたね」


 赤司が特にきいと緑に向けてそう言った。


「ね、なんか話し合いそう」


 きいが反応する。


「皆さんお知り合いって訳じゃないんですね」


 青年はどこか似ているなと思いながらそう言った。自分にではなく、彼らがだ。


「違うよ」


 緑が否定する。


「私は特撮とかはあんまりわからないなぁ。えっと美佐雄さんって言ったっけ。お医者さんになりたいってことは医学部か何かに入ってるの」


 美鈴が青年に話し掛ける。


「あっ、はい」


 青年は緊張して言葉が続かない。


「こいつ、浪人に浪人を重ねてやっとの思いで合格できたんだよな」


 と、昴がフォローしてくれる。


「へぇー、すごい」

「いえ、美鈴さんでしたっけ、現役の看護師さんなんですよね。そっちの方が凄いです」


 褒められたのもあり、少し気分が良くなって美鈴も褒める。


「看護師なんて全然よ。お医者さんの方が何倍も凄いって」


 美鈴は目を輝かせてそう言った。


「俺は高卒だから浪人とか頭良いやつのことはわからないな。えっと、きいさんと緑さんだっけ。特撮のどういうところが好き」


 と、赤司が話題をさらっていく。


「そりゃ、やっぱりカッコいいところでしょ」


 きいが言った。


「なんか夢があるよね。ウルトラマンなんて言ってみれば宇宙人の話だし。やっぱりロマンを感じるわ」


 緑が続ける。


「私、普通の虫は嫌いだけど、虫をヒーローにするって凄い発想だと思うの。最近は虫だけじゃないけど、でもなんか凄くない。あんなに強いんだよ」


 そしてきいが語り始める。


「ええー、虫は気持ち悪いだけじゃん。宇宙人の方がカッコいいし、ロマンあるよ」


 緑がそれに反発した。


「いやいや、宇宙人は設定に無理ありすぎるから。虫は確かに神秘的な力持ってるし」


 きいがむっとなって言い返す。何だかやばい空気だ。


「宇宙人だってば」

「虫よ、虫」

「まあまあ、二人とも落ち着いて。特撮の一番はやっぱり戦隊ものだって。一番リアリティーあるからな」


 赤司がたしなめるようで、自分の話にすり替える。


「巨体ロボットのどこにリアリティーがあるの」


 緑が反発する。


「怪人とか気持ち悪いし」


 きいもそれに続く。


「いやいや、だって人間がパワードスーツ着て戦うのはリアリティーあるじゃん。みんなの力を一つにまとめる感じもなんか良いし」


 三人はバチバチと火花を散らした。


「まあまあ、お三方熱くなりすぎないで。どれも面白い。それで良いじゃないですか。元を辿れば全部特撮なのですから。最近の推しとかはあるんですか」


 昴が正式に間を持つ。


「最近の推しはやっぱりミネラル戦隊かな」


「「あっ、わかるー」」


 赤司の言葉にきいと緑も同調した。


「あっ、僕も知ってる」


 そして青年も話しに加わる。


「あれは破格の面白さだよ。ライブでしかやってないのが残念だけど」


 赤司が言う。


「って言うかライブでしかやれないような気もするけど」


 きいが続ける。


「でも、テレビ放映もして欲しいよね。そしたら録画出来るし」


 そして緑だ。


「ライブでってことは、遊園地とかのショーでやってる感じですか」


 美鈴も話題に入ってきた。


「そう。遊園地じゃないけどね」


 と、赤司。


「動物園でやってるわよね」


 と、きい。


「私時々、あれのためだけに観に行くわ」


 そして、緑。


「僕もミネラル戦隊知ったのは動物園だった」


 さらには青年だ。


「美佐雄さん、動物園とか行くんですか」

「ええ、まあ、ちょっと」


 青年がマナーを気にしてしどろもどろになる。


「動物が好きなんだよな」


 すかさず昴がフォローした。


「うん」

「へぇーそうなんですね。ねぇねぇ、今度私と動物園行きません。私も動物好きなんです」


 と、美鈴が積極的に話す。


「えっ、ああー、うーん」

「行くって言ってます」


 昴が誘導してくる。


「えっ」

「行くよな」


 昴の圧が強い。


「う、うん」

「ほら」

「良かった。それじゃあ今度の日曜日に行きましょう」


 そんなこんなで、青年は美鈴と動物園に行くことになった。

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