第17話 素晴らしき愛をもう一度 アドバイス

「でも、凄いですね。何回落ちてもチャレンジし続けるなんて。私なら出来ないな。どこかで妥協しちゃう。なんでお医者さんにそんなになりたいんですか」


 二回目のデートは大きな公園だった。


「僕はヒーローになりたいんです。弱き者を助けるヒーローに。悪い奴をやっつけて、弱い人を助けるんです。で、それが出来るのがお医者さんだなって思って。絶対名医になります」


 青年はエッヘンと胸を張って説明した。美樹はきょとんとした表情になる。


「お医者さんならお金持ちにもなれるしね。お金持ちになったら募金とかいっぱいして困ってる人たくさん助けたいんだ」


 青年はさらにエッヘンと胸を反らした。彼女はここがどこかわからないような顔になり、そして、焦点が合うとぷふふっと笑いをこぼした


「いいですね。それ。すごい良いです」


 美樹は青年のそれを受け入れた。


「因みにですけど、どこの大学受けているんですか」

「桃大です。桃大一択です」


 さも当たり前かのように青年は言う。


「えっ、桃大だけですか」

「はい、桃大だけです」


 美樹が急に押し黙る。青年を見つめる目がパチクリパチクリと数度開け閉めした。そして、それが段々笑いを帯びてきて爆発する。


「あはははは。なんで、そんなに桃大にこだわるんですか」

「それは、名医になる為です。やっぱり日本一の場所で学んでこそ名医になれるというものです。なんで笑うんですか」


 青年は不思議そうな顔してそう聞く。


「だって、それは・・・・・・。たぶん、大学の難しさと名医は関係ないと思いますよ」


 青年には美樹の言わんとしていることがわからない。ただ、興味のある話だった。


「私は現場にいますけど、出身大学って全然関係ないです。むしろ、学歴の高い方って変に鼻についてあまり印象良くない方多いですよ。美佐雄さんくらい立派な志があるなら、大学の難しさで選ばないで、自分に合った大学で学んで、早くお医者さんになった方が良いと思います」


 なるほど、と青年は思う。微塵も考えてなかった。現場だとそうみたいだ。なんか良い発見をしたような気分になる。


「綺麗ですね、桜。日本は四季がしっかりあって、美しいですよね」


 落ちてくる桜の花びらを手に取り、美樹はそう言った。青年もなんとなく久しぶりに上を見る。すると、たくさんの桜の花びらが青年を迎えてくれていた。


「知ってますか。昔の人って、四季の移ろいを恋愛に例えていたみたいなんですよ。春に出会い、夏に燃え盛り、秋には飽きて別れて、冬は寂しく一人で過ごすんですって。秋とか冬は嫌ですね。美佐雄さんはどう思いますか」


 その答えは平等に考えてしまうというものだ。春の出会いとか、夏の盛り上がりとか良い印象があるけど、合わなければ別れるのは正解だし、一人が好きな人だっている。正直青年も、将来は結婚したいとは思っているけど、今に関しては実はそこまでである。やっぱり目の前に受験があるってのが第一だ。それでも、こうして美樹に出会えた事は良かったと思ってる。青年の知らない情報をくれたし、まあそれが無くてもなんか久しぶりに人らしい自分に戻れたような気がしていた。春の出会い、は捨てがたいのかな。夏のように燃え上がりたい気持ちもある。でも、今はやっぱりちょっと冷めたような秋が良いのか、いや、もっとはっきり冬が良いのか。


「もう、暗くなってきましたし帰りましょうか。この後、夜勤なんです」


 結局青年は答えないままその日は別れることになった。


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