第7話雁字搦めに縛られて

——どうか、愛してて欲しい


彼女が最期に遺した言葉のろいが体内を反響し始め、えずくのを必死に堪える。

「だっ大丈夫ッ?透杞……」

口許を片手で押さえだした私に気付き、彩乃が声をかけてくれる。

「うぅぅ……んでも……いよ」

曲がった背中でテーブルに伏してしまいそうな私は、伸ばしかける彼女の手を弱々しく払いのけた。

「でも……とう——」

小刻みに震えるもう片方の手で彼女が続けようとするのを制した。

呼吸も絶え絶えに口許を押さえていた手を離し、お冷やを口に含む。

「ほ、ほんと……だ、大丈夫、だから。もう……食欲、無くなったから、今日は帰るね。ごめん……彩乃、また」

椅子から腰を浮かせ立ち上がり、ファミレスを出ていく私。


寄り道すら億劫で、というか余力は尽きており、家路を休み休み進み続けた。


自宅に着き、玄関で履き物を脱いで上ろうとして、バランスを崩して倒れた。

うつ伏せで倒れたまま、呟くしかなかった。

「愛せ……なんて、無理ぃだよぉ……由奈ぁあぁ……」


涙が流れ、頬に触れるフローリングが濡れていく。


探したって……アナタが、由奈の姿はないんだから……


雁字搦めに縛られたシガラミに四肢が動かないんだよ。


愛してたのに、由奈を……


先に逝くなんてさ……ほんと、酷いよ……由奈はさ。


閉じていく瞼の裏に、輪郭の薄れた漣由奈さざなみゆなが沈んでいく夕陽を背に浜辺ではしゃぐ姿をみた。


意識が薄れていく……薄、れて……いく。



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