第4話青嵐が過ぎ去ったバショに取り残されたモノ

「——んせいっ、トウコ先生っっ!聞いてますぅ〜っっ?」

「んぅっ!ああぁ……んで、どうした?」

「だぁーかぁーらぁーっ、透杞ちゃんセンセってぶっちゃけヤったことあるんですか?気になりますぅ〜ウチぃ」

「どうなんですかぁ〜?」

「どうなんですかぁ〜ねぇねぇってばぁ?」

笹季原に続き、蔦屋良と嘉羽波が顔を寄せながらたたみかけてきた。

「あぁーハイハイ、そういうの良いから。さっさと帰宅して成績上げられるように努めなさいよー、あんたらぁー」

「「「えぇーーっっ、つまんないなぁ〜もうぅ!」」」

「つまんない教師じょせいの恋愛事情を詮索ったって面白いものは出てこないよ。分かったら、さっさと帰んなぁー。補習でも受けたいのー、あんたらぁ」

三人の女子生徒に頬杖をつきながら、もう片方の手で追い払うように振る。

「「「ホシューってぇヒドぅ〜〜!鬼畜キョーシーぃぃ」」」

叫びながら教室を一目散に出ていく彼女ら。

「なんとでも言ってなぁー、ナマイキじぇーけぇさんらぁー。帰った帰ったぁ。気ぃ付けて帰んなー」

見えなくなった彼女らに向かって嫌味を吐いた私だった。

私だけが取り残された教室は静寂になっていく。傾く夕陽が差し込む教室——閉められてない窓から風が吹き込み、カーテンを靡かせている。


——透杞、知ってる?


そんな懐かしい声が耳に届き、靡くカーテンに視線を移す。

視線の先には、目を見開いても声の主の姿はなかった。


は、教室内に漂うことなく、溶けたようで虚しさを遺した。


儚く消え入りそうな声は、青嵐が何処かへ連れ去った。

彼女あのひとが消えた記憶バショに取り残されたモノは、幻想まぼろしに隠れたように触れられないでいる。

隣で聞こえていたはずのその声は、何処に行けば……聴けるんだろうか。


しょうもないことで騒げる彼ら彼女らを見ていると、あの頃に……戻りたくなる。


思い出したくても、思い出せない記憶おもいでは霞み続けたままで晴れてはくれない。


涙が溢れる前に、この場を離れないと。


私は、腰を浮かせ立ち上がり、歩み出し教室を出て職員室を目指した。





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