本気にならなかったカノジョに、いまさら
闇野ゆかい
第1話いつぶりかの、カノジョ
ぷはぁ〜っ、とジョッキをテーブルに叩きつけるように置き、次の瞬間には眠りにつくようにテーブルに頭を預けた私だった。
「おいおい、ねぇちゃん大丈夫かい?おいねぇちゃんよっ、意識あるかい?」
朦朧とした意識の中、居酒屋の店主らしき威勢のいい声が心配したような声をあげるのが朧げに認識できた。
「ダイジョーブ、レスよーぅ……はぁたらきぃ、ざかりなんレスよ……んなんです、ども……」
呂律の回らない口で返事をした私。
「ヤベェとこまでいってんじゃねぇの、ねぇちゃん……ったく、仕方ねぇなねぇちゃん——」
耳に届いていた声が徐々に聞こえなくなり——眠りについてしまった私だった。
「……れ、ここは?……った〜ぁっ」
ゆっくり瞼を上げ、瞳に映る汚れた天井をぱちくりと瞬きしながら呻き声にも似た声を漏らした私。
ズキズキと痛む頭に片手を伸ばし、押さえながら状況を理解しようと思考を巡らした。
徐々に酒で失敗、酔い潰れたことを思い出し、溜め息が漏れた。
畳が敷かれた狭いスペースに寝かされていた私は、片手を畳につき上半身を起こし、見まわす。
ふぅー、と息を吐き、居酒屋を出た私は吹く夜風が心地よく感じられた。
シャツははだけておらず、スーツも椅子の背凭れに掛かっており、身体の無事が確認できた。
疑いたくないが、一応……一応は確認しないと。
この辺りでは、比較的盛況にあたる居酒屋なので。
火照った身体を冷やすには、吹いている夜風は丁度良い。
居酒屋を出て、シャッターが閉まりきった店々の商店街に差し掛かろうとした時に、背後から声を掛けられた。
「河合先生」
と。
背後から近付いてくる足音は聞こえなかった筈だ。
いくら酔っていたとしても、背後に迫りくる足音くらいは気付くはずだ。
恐る恐る振り返り、声を掛けてきた人物を視界に入れる。
私の正面に佇み微笑んでいる人物——二十代であろう女性には、見覚えが無かった。
彼女は、河合先生とはっきり私を呼んだ。
「なんで……」
「お久しぶりです、河合先生。私は、河合先生のこと、忘れたことないですよ」
彼女がはにかんだ瞬間に、脳内をある一人のはにかんだ表情が過り、それと重なった感覚を覚える。
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