悪役御曹司の勘違い聖者生活~二度目の人生はやりたい放題したいだけなのに~

木の芽

第一章【新たな王道の始まり】

Prologue 日記:転生後~

☽月×日


 事故に巻き込まれて死んだ俺は魔法の世界に転生した。


 オウガ・ヴェレットという名を授かって、はや五年。


 新しい人生目標はすでに決めている。


 それは好き放題できる生活を送ること!


 幸いにも俺が生まれたのはヴェレット公爵家という国の外交、諜報を担当しているすごい家でお金に困る心配はない。


 まぁ、いろいろと悪い噂も後を絶えないんだけど……。


 しかし、俺にとっては父が悪徳領主でも関係ない。


 むしろ、俺の野望のための土壌が整ってさえいると歓喜していた。


 前世の俺は社畜としてただただ言いなりになって働くだけの人生だったんだ。


 だからこそ、今世は好き勝手に楽して生きる!


 そう! たとえるなら、魔王のような悪の人生を!


 可愛い女の子を侍らせて、奴隷たちをこき使い、その利益を吸い取る。


 美味いものをたらふく食べて、好きな時に睡眠し、ダラダラとする素晴らしい人生設計。


 クククッ……! あぁ、将来が楽しみだなぁ!




☁月▽日


 人の上に立つために必要な要素は力だ。


 部下たちの不平不満を全て上から押さえつける圧倒的な暴力があれば、反論されることもなくなる。


 この世界においてわかりやすく力を示せるのは魔法だろう。


 そして、俺には――魔法の才能がなかったっ……!!


 火、水、風、雷、光、闇。


 適性検査の結果、どれにも適していないらしい。


 あの時の父上の憐みの視線はきつかった……。追放されないだけマシか。


 悪徳領主はなぜか身内にはゲロ甘なのだ。


 優しい父上でよかった……と終わるのは一般人の思考。


 しかし、今世の俺は天才。適正はないが、魔力量は膨大にある事実も判明したのだ。


 ならば、俺が使える魔法を編み出してしまえばいいだけの話。


 それと同時に剣技、体術に関しても家庭教師を招くことも父上に相談の上で決定した。


 子供のころからワガママを言いまくるのは三下のする行動だ。


 俺たちは親がいなければ生きていくことすらできない。


 身体が出来上がるまでは、こうやって両親の喜ぶ優等生でいるのがポイント。


 本性を現すのは親の手を離れてから。


 いい成績を残せば、それだけ父上も母上も期待して援助してくれるという算段もある。


 今は伏す時。素晴らしい未来のために牙を磨き上げるのだ。




☼月■日


 ついに完成した!


 俺だけが使える魔法!


 いや、正確には魔法と言っていいのかわからないが、とにかく完成させた事実が大切なのだ。


 ずっと仮説を立てては実験を繰り返したかいがあったというもの。


 やはり今世の俺の頭脳は天才みたいだな。


 これで魔法を使えなくとも魔法使いに対抗できるようになった。


 お披露目はもちろんまだしない。


 俺が見つけ、俺が作り上げた唯一の技術をそう簡単に使いはしないさ。


 父上と母上に相談すれば、それがいいと太鼓判を押してくれたしな。


 それと同時に魔法学院に行って、さらに研鑽を積みなさいと新たな道も示してもらった。


 話を聞けばどうやら優秀な人材が様々な地域から集まるらしい。


 将来、好き放題したい俺としてはコネを作り上げる絶好の場というわけだ。


 しばらくは勉強漬けになるが問題なし。


 今の努力が未来の楽につながるのだ。


 それに俺は天才だからな! 




☂月◎日


 ついにこの日が来た。


 俺の子供の頃から続く夢への第一歩が今日から始まる。


 夢――それは魔王のように自由気ままに、好き放題して生きること。


 一度きりの人生。


 悪徳領主と呼ばれようが、私欲まみれと糾弾されようが知ったことじゃない。


 もう優等生の俺とはおさらば。


 十五になったことで実家を離れて魔法学院での寮生活が始まる。


 そのためヴェレット家では目利きを鍛える訓練として、誰でもいいので一人、学院生活をサポートする人材を連れていけるのだ。


 俺はそいつを学院生活だけではなく、一生涯こき使うつもりでいた。


 つまり、優秀なだけではダメだ。俺とのつながりを失うと人生が詰んでしまう。辞めたくても辞めれない。


 そんな崖っぷちな状況の人材を選ぶ必要がある。


 そして、すでに選別は終えていた。


【元聖騎士団総隊長】クリス・ラグニカ。


 弱冠二十歳にして、平民から聖騎士団のトップまで上り詰めるほど正義心に満ち溢れていた彼女は貴族の人身売買について王へ直訴したが、貴族によって偽りの罪をでっちあげられて聖騎士団を追放。それだけにおさまらず、財まで取り押さえられた。


 今は王都の肥溜めとも呼ばれる街・ウォシュアの闘技場で小銭稼ぎをして、その日暮らしをしている。


 彼女に期待しているのは護衛。もちろん俺だけでも事足りるのだが、念には念を。


 聖騎士団の総隊長をしていた実力なら十分すぎる。


 あれだけ正義に飢えていた彼女なら「俺の隣で輝いてくれ」的なことを言ったら、簡単に堕ちてくれるはず。


 残念ながらクリスの正義は俺にたてつく反乱分子を裁くために使われるんだけどな。


 悪を目指す俺に……! クククッ……ハハハハハッ!!




☆月◇日


 クリスやべぇよ……。


 彼女と無事契約し、実力をお見せすると言うので聖騎士らしく扱う武器でも触らせてくれるのかとのんきに待っていたら地下闘技場にいた悪人たち全員の死体の山を築いていた。


 え? 頭ぶっ飛びすぎてない? そんなに正義欲、溜まってたの? 


 これ、俺が悪を目指しているのバレたら首と胴体が別れちゃうんじゃ……。


 い、いや、まぁいい。恐ろしく強い手駒が手に入ったと考えよう。


 俺は天才なんだ。バレなきゃいいだけさ。


 気持ちは切り替えて、次に手に入れる人材候補だ。


 相手は俺たちの学年で唯一の平民から合格した少女、マシロ・リーチェ。


 事前に魔法学院の校風を調べた結果、間違いなく一部の貴族が彼女をいじめるだろうから颯爽と助けてやれば俺への感謝で心が満たされるはずだ。


 彼女の特筆すべき点はおっぱいだ。


 凄くデカい。手に収まりきらないくらいデカい。あれは一回揉んでおかねばなるまい。


 俺は今世ではハーレムを築く予定だ。彼女は記念すべきハーレム一号。


「あの時、助けてやったよなぁ」と恩の押し売りをすれば気の弱い彼女は断れないだろう。


 なんて完璧な作戦……!


 俺は自分の頭脳が恐ろしいよ……!




☆月$日


 リーチェを助けたら、俺がいじめの対象になってる件について。


 しかも、リーチェは自分をいじめていた奴らと一緒に居たし。


「勘違いの無能」とか罵倒されたんだけど。


 え? なんで? 


 震えながら言うならやらなきゃいいのに……平民こわ~……。


 貴族憎しというやつなのだろうか。


 クリスに「どうするか」と聞かれたので、とりあえずこちらからは干渉しない方向に舵を切る。


 こいつに任せたら一瞬で処しちゃいそうな気がするし……。


 あのおっぱいは捨てがたい。


 どうにかして我が手中に収められないか考えなければ。




☆月▲日


 なぜかまたリーチェがいじめられていたので、もう一度助けてやった。


 あいつらと仲良くしていたんじゃなかったの?


 よくわからなかったけど、泣いて謝ってなんでもすると言うので、罰を与えることにした。


「この無能のそばに永遠にいることだ。絶対に離れるなよ。無能とつるむのは疲れるがな」


 俺のために人生をささげろということに等しい。


 つまり、俺は永遠に彼女を好き勝手に扱えて、あのおっぱいも自由にし放題というわけである。


 我ながら素晴らしい案を思いついたものだ。


 そしたら、リーチェはさらに号泣して、喜んで受け入れてた。


 えぇ……やっぱり平民こわ~……。


 まぁ、結果オーライとしよう。


 あと、クリスに「ご主人様はお優しいですね」と褒められた。


 やっぱりこいつも頭のネジぶっとんじゃねぇの?




☽月%日


 いや、そんなに褒めたたえられると悪いことしにくくなるというか……。


 俺も昼から学校さぼって女の子とデートしたり、こっそり寮の自室に連れ込んでお楽しみとかしたいのにできないじゃないか……!


 クリス! 片っ端から頼みごとを引き受けるな!


 マシロ! 普通に使える人材を紹介するな! もっと弱みがあって主導権を握れる奴らでいいから!


 あぁ……そのほかにもたくさん問題が舞い込んでくるし……!


 目指してるの聖人じゃねぇから!  


 俺の理想だったワガママ自由気ままな悪の生活が遠のいていく……。




 ♡月♡日


 クリスが素晴らしい情報を持ってきてくれた。


 なんでも王都の外れにある孤児院が取り壊されそうになっているらしい。


 土地を奪おうとしている悪徳業者に絡まれて、まともな生活ができないんだとか。


 それを聞いて俺はすぐに閃いたね。


 ここで助けに入ったら、恩を売れるんじゃないか?


 そのまま安月給で雇っても文句は言えないだろう。


 なにせ俺は孤児院を救ってやった恩人になるんだからなぁ……!


 さらに輩を制圧すればそいつらの儲けを奪えるかもしれない。


 まさに一石二鳥だ。


 よし、善は……いや、悪も急げ。


 クックック、可哀想に。


 悪を追い払ったのが、そいつらを上回る巨悪とは知らずに感謝する羽目になるなんてな……!


 待ってろよ! 速攻で片づけてやるからな!




 ☆月●日


 圧倒的力の前ではすべてが無力!


 撃退と孤児院の掌握に成功した俺は順調に進む計画にご満悦だった。


 孤児たちは今は将来ビシバシ働かせるために孤児院で勉学と武術を叩き込んでいるところだ。


 指示を理解するための最低限の知識と過酷な労働に耐える肉体を作るのは大事なことだからなぁ?


 そんな悪評が広まっている俺の周りに群がる奴はこの頃になるとほとんどいない。


 廊下ですれ違っても道を譲って、ヒソヒソと何かを話している。


 う~ん、実にいい気分だ。


 しかし、そんな俺に声をかけてくる変わった者もいる。


 同じ公爵家の娘で殿下の婚約者でもあるカレン・レベツェンカ。


 気高き貴族精神と誰にでも平等な慈愛心を持つ彼女は俺のことが許せないのだろう。


 だから、こうして俺の動向を確認するために話しかけてくるわけだ。


 だが、こちらにかまけていいのかな?


 俺は知っているんだぜ。


 殿下が他の女を溺愛して、婚約者としての立場が危ないことを。


 クックック、もしもの時は助けてやろうじゃないか。


 屈辱だろうなぁ。敵視していた男に助けられるなんてよぉ!


 楽しみだぜ、その時のお前の顔を見るのがな……!




 ×月◆日


 最近、クリスたちの距離がより近づいている気がする……。


 なぜかカレンもよく時間を一緒に過ごすようになった。


 弁当とかも作ってくるし……昼休憩までついてくるとかいくら婚約破棄して自由になったからって監視に力を注ぎすぎじゃないか?


 俺は縛られるのはあまり好きじゃないんだ。


 くそ……子供の立場というのは自由が制限されていてよくない。


「俺も大人になりたい」とボソリと呟いたら、その日の晩にクリスたちに寝込みを襲われた。


 一晩中、ひぃひぃ啼かされた。


 俺の力を完全に封じるための魔道具まで用意されたうえでの計画的な犯行だ。


 やだ……俺の部下たち、怖すぎ……。


 完全に力関係が逆転してしまっている。


 これではいけない。もっとしっかりしなければ。


 威厳を見せるために、次に控えた進級試験では本気を出すとしよう。


 圧倒的な暴力の前に彼女たちも改めて敬意を示すこと間違いなしだ!




 ▽月@日


 魔法学院の進級試験が終わった。


 そしたら王宮に呼び出されて、国王より【聖者】の称号を与えられた。


 なんで!? 俺、ずっと悪事しか働いてないよね!?


 やめてくれ……! そんな大層な称号を渡されても人のために働く気とかないから!


 魔王討伐を期待!? しないしない! むしろ魔王の部下になりたい!


 おかしい……こんなはずじゃなかったのに……!!


 どこから狂ってしまったんだぁぁぁぁぁ!!








◇本日の夜7時にもう一話投稿します!

 よろしければフォローしてお待ちいただけると嬉しいです!◇

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る