第25話 『桜散り、柳芽吹く』の裏話

 先日完結した『桜散り、柳芽吹く』は令和5年春の隅田公園を舞台に、横澤よこざわ康史郎こうしろうたちの花見を描いた作品である。

 ここからは内容のネタバレを含むので気になる方は先にお読みいただきたい。


https://kakuyomu.jp/works/16817330655538873018


 私もコロナ禍の前は毎年、友人たちと隅田公園へ花見に行っていた。今年こそは再開させると幹事は言っていたが、天気等のタイミングが合わず、結局出来なかった。


 康史郎は両国、高橋家は浅草橋在住ということで、土地勘もあり行きやすい隅田公園を物語の舞台に選んだが、ここ数年の間に公園の改修や『すみだリバーウォーク』という新たな歩道橋が出来たというのは散策ルートをネットで調べて執筆した。

 言問こととい橋の『戦災により亡くなられた方々の碑』にまつわる話も恥ずかしながらこの調査で知った。言問橋を撮影していた人のブログで、東京大空襲の夜、言問橋そばの防空壕で奇跡的に助かった老人に出会ったという記事も読んだ。朝吹様のおすすめレビューでも触れられているが、東京大空襲を生き延びた人々はまだ語り部として残っているのだ。


 康史郎が令和5年で亡くなるというのは、『令和4年、おじいさんの贈り物』執筆時に決めていた。そこで義理の甥、周央すおうの娘であるたちばな梨里子りりこを登場させ、康史郎の回想録を託すことにした。梨里子が描いたマンガ『厩橋うまやばしお祭り食堂』は『一蓮托生いちれんたくしょう』シリーズとは別の物語となったので、回想録がそのまま使われた訳ではないが、登場人物の名前など、『一蓮托生』シリーズを読んでいた人には元ネタが分かるようになっている。


 『桜散り、柳芽吹く』で初めて明かされたのはヒロさんこと廣本ひろもとひさしのその後だ。高橋海桐かいどう一家と親しくつきあいを続け、糖尿病で亡くなったというのも果物好きだったヒロさんらしいと思って設定した。かつての相方、八馬やまのその後について語る機会があるかは未定である。


 海桐の息子である周央と、征一せいいちの娘、椿つばきについても今回ようやくスポットが当たった。一希かずきを含めた三人の関係についても、いつか短編の形で掘り下げてみたいと思っている。


 『桜散り、柳芽吹く』のメインイベントは康史郎と亡くなった息子、一希の孫にあたる鳥居とりいしょうとの再会である。翔は『令和2年、それぞれの秋』で登場した関本せきもとみどりと付き合っているという設定だ。『すみだリバーウォーク』に「恋人の聖地」があるというのも今回の執筆準備中に知り、二人が隅田公園にデートに来る理由に使うことが出来た。


 横澤夫妻と鳥居家との出逢いについては、当初別の短編で描く予定だった。構想時にはお台場の海浜公園を舞台に考えていたが、隅田公園の地図を見ているうちにひょうたん池を舞台にしようと思いついた。Googleマップで池のそばに柳が生えているのを見つけたときは嬉しかった。


 こうして『一蓮托生』の登場人物は全員この世を去った。しかしシリーズが終わるわけではない。まだまだ書いてみたいエピソードがあるので、短編の形で今後も発表していきたい。まずは康史郎の孫、鳥居広希が主人公となる話を今年中に書く予定だ。

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