第15話 『一蓮托生』の裏話 その3 縫製工場と山本家の設定

 かつらの昼の仕事場である縫製工場についてもネットで調べた資料が役立っている。縫製工場を選んだのは、女学校に通っていたかつらが和裁や洋裁を学んだ設定にしたからである。

 当時の女性はいずれ結婚して出産、育児等で仕事を辞めることも多かったと思われる。かつらへのお見合い話は書かなかったが、戦時中、母親の所に話は来ていたかもしれない。父親が満州にいたため、話を進めようとはしなかったのだろう。


 縫製工場の仕事についてはこちらの論文を主に参考にした。


戦後における衣服縫製業の変遷 : 標準作業と中国移転を念頭に

https://dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/04515986-69-1-1.pdf


 なお、工場の名前は『うまや橋縫製』という設定だった。今更ながら本編にも追記した。


 『泥中でいちゅうの蓮』に登場した隣の家のおばさんは、かつらの縫製工場の同僚として登場することが決まった時点で名前を考えた。姓の「山本やまもと」は脇役なのでシンプルなものを、名前の「槙代まきよ」はやはり樹木にちなんだ女性名にこだわった。先輩主婦としてかつらにアドバイスを送るのが主な役目だ。

 夫の「隼二しゅんじ」は次男で比較的自由がきく身の上であること、及び勇ましそうな名前で検索で引っかからなかった名前にした。運送会社勤務だが、「細君さいくん」と槙代を呼ぶシーンや背広でややインテリであること、電気パン焼き器を作るなど工具箱を持っている設定を生かさせてもらった。

 ちなみに電気パン焼き器のことを私が知ったのはきた杜夫もりおのエッセイだったと記憶している。当時の食糧不足事情を象徴するアイテムということで、『一蓮托生』でも使わせてもらった。


電気パン

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%BB%E6%B0%97%E3%83%91%E3%83%B3


 なお、隼二と新田にった金三きんぞう刑事が幼なじみというのは、執筆中にかつらと新田との接点を考えていて思いついた。


 二人とも働いていることもあり、夫妻には子どもがいない設定にしたが、ベビーブームのまっただ中であったことを考えると、昭和20年から22年の間に子どもが一人くらい生まれていてもおかしくない。この辺りはもう少し考慮が必要だった。


 次回は康史郎こうしろうとかつらの履き物や服の話をしたい。

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