第七話 初陣① -Julius Side-

 二日前に集まって話したのはなんだったのか。

 俺達は結局、魔物討伐作戦に参加していた。

 アーキノフ様の指示だから仕方ないが、誰一人として進言しないとはな。 腐ってやがるぜ全く。



「あなたもでしょ、ユリウス」



 分かってないなタニス。 こう言うのは部下であるゼノス達が先陣を切って言うんだよ。

 部下の役割だろ? 何の為にあいつらがいるんだよ。



「まぁいいじゃない。

ここで実績を積んでおけば、アーキノフ様も認めて下さるわよ」


「俺達が担当する西エリアは、ゴブリンにシビレバチみたいな最下級の魔物ばかりだぞ?

今日から討伐隊に参加しますって言う初心者が当たる所じゃないか!

いくら人手が足りんからと言って勇者パーティーをこんな扱いにするとは……!」


「ユリウスー! 討伐作戦を開始するからそろそろ集まってくれ」


「ほら、呼ばれてるわよ勇者様!」


「ちっ!」



 あんな最下級ランクの雑魚どもを相手にする為に勇者になったんじゃないぞ全く。

 たがいいだろう、こうなったら思い知らせてやるか。

 他のパーティーとは決定的に何が違うのかを。

 合流した俺達勇者パーティーは作戦の地点へと走りながら向かう。

 その道中でメンバーに俺から指示を出す。



「今回俺達が担当するエリアは、最下級ランクに位置付けられる魔物達ばかりだ。

ヴァールの魔術で事足りるだろう。

だから、まずはヴァールが先陣を切ってくれ」 


「……私ですか?

確かに初級魔術のみで一掃できますがねぇ。

前衛は余りやりませんが、まぁ今回は雑魚だし……いいでしょう」



 何が「いいでしょう」だクズが。

 さっさと返事すればいいんだよ勿体ぶりやがって。

 こんな雑魚どもを相手するのはお前だけで十分なんだ。



「ユリウス、もう少し作戦を教えてくれ。

俺達はどう動く?」


「そうだな……。

残りのメンバーは適当に待機してくれ」


「は? 待機?

みんなでやった方が早く片付くんじゃねぇのか?」



 クウォンの声色から察するに、俺のさっきの発言に苛立っているようだが、雑魚戦に作戦も何もないだろうが。

 どうせヴァールの魔術でお仕舞いなんだから、考えるだけ無駄なんだよ。

 そんな当たり前の事も分からないのかこのクソ格闘家は……。

 何が拳聖だクズが。



「敵が来たわよ」



 戦巫女のリミアがボソッと一言漏らしたが、やる気がないのか、この女の声は耳を澄まさないと聞こえないぐらいの微音で、今も辛うじて「敵」とだけ聞き取れたんだが、その事に気を取られてしまって

 魔物の接近を感じる事に遅れを取ってしまった。

 気づいた時には俺達の進路をゴブリン三体が塞いでいた。



「(なんだ)ゴブリンか。

ヴァール、頼む」


「一気に、片付けてやりますかねぇ」



 先頭に立ったヴァールが、杖を掲げながら術の詠唱を始める。

 そうだ、こんな雑魚はサッサと片付けてくれ。

 俺は勇者だ。 世界中から期待される存在だ。

 魔界四天王とか、封印されし魔神とか、この俺にはこの先もっと相応しい戦いが待ってるんだ。

 俺より容姿でも力でも知識でも金でも、全てに劣るあのアストが、しかも勇者の力を失った状態で魔王を倒したなんて嘘に決まってる。

 どうせこいつらが強かったからに決まってるんだ。

 圧倒的に俺が勇者に相応しかったのに、大精霊の称号を得たフュリンは俺を選ばなかった事にも腹が立つ。



「ユリウス、今回の君の指示についてだが」


「…………なんだゼノス」


「いくら雑魚とは言え、私は仲間を守る盾であり

最前線を維持する役目を担っているのだ。

この状況は、私を侮辱しているようにしか見えん」


「だったら、勝手に守ればいい」


「なんだと……?」


「俺は他は必要ないからヴァールに任せたんだ。

それともなにか?

あんたはあんな雑魚三匹をパーティー全員で

最高の技を使って殲滅したいという事か?

随分な悪趣味だな」


「そ、そんな事は!」


「何のプライドか知らんが、どうしても守りたいなら守ればいい。

ただのスタミナの無駄だろうがな」


「ぬ、ぬう……」


「それに、そろそろ片付いた頃だろう」


「みなさん!」


「ほらな」



 と、言いながら俺はヴァールの方へと振り返る。

 ヴァールの奴、遊んでやがったな。

 まったく、何が一気に片付けるだ。

 こいつはこいつで手抜きし過ぎだろうが。

 こんなんでよく魔王を倒しやがったな。


 ん……?

 おい……。



「ヴァール……おめぇ、何やってんだよ」


「すみませんクウォン! 詠唱の時間を稼いで下さい!」



 は? おいくそヴァール。

 片付けるどころかやられてるじゃないかよ。

 まだ三匹残ってるし、なんなら無傷だぞ……。

 何の冗談か知らんが、遊んでる時間はないんだよムシケラが。



「だったら俺が片付けてやるよ!」


「クウォン! 遊びは無しだぞ!」



 俺がクウォンの背中に向けて言葉を飛ばすと、振り向きもせず手を上げて返事を返してきた。

 それにしても、あの魔術士め。 何が賢者だ。

 あんな雑魚にダメージは受けるは、詠唱が間に合わないは、一体何してやがったんだ?

 初心者じゃあるまいし。



「ユリウス、回復しないと」


「うるさいなタニスは。 今命令しようとしてたところなんだよ。

リミア、ヴァールを回復してやってくれ」


「なーに怒ってんだかー」



 どいつもこいつもクズ過ぎるんだよ。

 こんなのが俺の仲間だと。 ふざけるな。

 そこら辺を探せばもっとマシな奴が見つかるだろうぜ。



「嘘だろ!? そ、そんなはずは……!!」



 今度は何だよクソッタレが。



「どうしたクウォン!

まさかそんな雑魚が怖いとか言うんじゃないだろうな!」


「拳聖の究極奥義が……発動できねぇ」



 あぁーもういい。



「俺がやる! お前ら全員クビだ!」

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