第42話 見えぬ先

翌日に事態は一変する。


 いつもより早く現れたグナシは俺とラベンダーを見るなり、焦った様子で伝える。


「サワートさんが逮捕された。詐欺罪だ」

「え?」


「よくわかんねえけど、仏像から出た薬が効かなくなったんだってよ」


 思わずラベンダーと顔を見合わせる。

 薬の効果がなくなっただって?


「だから多額の金を払った者たちが、サワートさんを詐欺で王室に訴え出たらしいぜ」


 それだけじゃないとグナシは言葉をくぎる。


「どうやらもう薬壺から薬が出ないらしいんだ」


 薬が出なくなった。

 仏様のお力がなくなったのか。

 なぜだ。


「サワートさん一家は罪を逃れようと、夜明け前に荷物をまとめて金を持って逃亡したらしいぜ」


 今は王兵が国中の検問にお尋ねと指示を出していると言った。

 ついにサワートさんが逮捕される事態となった。

 そろそろ俺たちにも調査の手が伸びるだろう。

 覚悟を決めねば。



 夜、俺はいつも通り薬師如来像と向き合う。

 一体何が違うのだろうか。

 彫りの深さか、大きさか、それとも彫る時の違いか。


 持ち上げてしげしげと見つめる。

 ん?

 はっ、まさか。

 いや、だが考えられるのはこれだけだ。

 しかしこれに何の意味があったのだ。


 とりあえず俺は道具を用意して、それをおこなった。

 しばらくしてから、再度手を合わせる。


 薬師如来様、どうか苦しむ者たちをお救い下さい。


 翌朝、いつもよりずっと早くに目が覚めた。夜が明けたばかりだ。

 再度眠ろうかと思ったが、目を閉じても眠気が起きずそのまま起きることにした。

 ざわざわする。

 妙な胸騒ぎだった。

 気を紛らわそうと日課の水汲みへ向かう。その後は薪割りをして過ごす。

 やがて、ラベンダーが起きてきて、グナシがいつものようにノロノロと現れる。


「おはようございます。オーロラ様今日はお早いですね」

「え、ああきっと昨夜寝るのが早かったから」


 昨日はみんな重い空気のままで二人とも考えすぎは良くないねと早くに寝たのだった。

 ラベンダーは顔を洗うと、朝餉の準備をしに行った。

 窓から見えるグナシは着くと早々に座り込んでいた。眠れなかったのか、目の下にうっすらと隈が見える。

 グナシも不安なのだろう。


 それはそうだ。

 今回の騒動が表に出れば処罰される可能性は高い。

 今朝のラベンダーの顔色も冴えなかった。


 朝餉までまだ時間がある。

 先にお務めをするか。


 薬師如来像の元へ行き、手を合わせる。そして心の中で経を上げた。

 経を上げ終えて、立ちあがろうかと思ったが、あれ?

 何だろうか。

 気のせいか。


 仏様が持っている薬壺の蓋が少しずれている様な気がした。

 まさかな。

 そんなわけあるまい。


 俺の彫りがずれていたのだろうか。で、あれば几帳面な俺のことだ。彫っている時に修正を加えている。それを今気づいたと言うのか。

 ゆっくりと手を伸ばし、ブルーベリーよりも小さい奴の蓋を人差し指と親指でつまむ。


 動いた!!!


 なぜだ、蓋が開く様にはこれも彫っていない。

 早く気持ちを抑え、ゆっくりと丁寧に蓋をずらす。


 なんと言うことだ・・・・。


 開いた薬壺の中には赤い小さいな粒がポツンと入っていた。

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